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2017/11/24 10:44 |
あの日々はもう二度と戻らない 〜 outsider's report 後編_4
このお話は、NEW WIND管理人Nの書いた『もう一度あの日のように~再会~』を、「Heel So Bad」のHIGEさんが別の視点から描いてくださった作品です。
 なおHIGEさんの承諾を得て、転載させていただいております。
 ~再会~ と合わせてお読みいただければ幸いです。





以下のSSはレッスルエンジェルスの世界観や、「NEW WIND」のN様により執筆された「NEW WIND」の設定、キャラクターを参考に描かれていますが、内容についてはHIGE個人の創作となります。必ずしも公式設定や開発者の意図、「NEW WIND」の原作、ファンの皆様一人一人の世界観に沿う内容ではない場合がありますことを予めご了承願います。
  ++  ++  ++  ++  ++
再び人波に揉まれた俺は、ようやく会場の入り口まで辿り着き、招待券を提示して会場内へと入る頃にはすでに疲労困憊していた。
よれたジャケットを直し、携帯用灰皿に吸殻を放り込んでから、試合中だというのに人の切れないグッズ売り場に並んで息を整える。
購入したパンフレットをぱらりと開きながら、雑踏を縫って席へと歩みを進めた。
両開きの一階席のドアを潜った途端、ワアッという歓声と人いきれが辺りに満ちた。
遠い席の観客に配慮した、リングの上方で四面に展開する巨大ビジョンで、画面狭しと軽やかに宙を舞っているのはブレード上原だ。コーナーを駆け上って、体を反転させてのボディアタック。流れるような動きと美しい空中姿勢。
流麗な空中殺法はしかし、筋骨隆々たる腕に叩き落された。
豪快なラリアートを放ったのはサンダー龍子——いや、正確には二代目サンダー龍子か。サンダーの名を襲名しなかった“最強の龍”を彷彿とさせる無骨なパワーは、確かに破壊力がある。ただの一撃で上原の動きを止め、試合の流れをごっそり持っていった。
一階席の廊下をリングサイドへと歩んでいく。左右の席から沸き起こる歓声、拍手。
リングに近づく道のりは、花道にも似ていた。プロレス記者という闘いの舞台へと歩む。
リングでは、上原からタッチを受けたミミ吉原が、獅子奮迅の活躍を見せている。空手の素地があるとは聞いたことがあったが、ここまで本格的なものだとは知らなかった。下段蹴りでぐらつかせ、鋭い後ろ足刀蹴りを腹に打ち込んで頭を下げさせる。
気合一声、高く上に跳ねると後頭部に向けての踵落としが直撃した。
だが、渾身の一撃をモロに喰らったサンダー龍子は咆哮すると、延髄を打ちすえた足ごと、吉原の体を強引に抱え上げる。驚きの表情を浮かべた吉原は、形の崩れ切ったパワーボムでマットにしたたか打ち付けられた。
耳奥にまで響く大歓声を聞きながら、チケットに目を落とす。
座席種別は特別リングサイドA席。最前列から4列目という破格の席だった。
吉原と関節を決め合う南智世の姿は、偉大な姉たちに良く似ている。現サンダー龍子が二代目なら、こちらは三代目と言ったところか。
吉原必殺のドラゴンスリーパーが立った状態で決まる。だが極まりが浅く、場所も悪い。智世は冷静に足をサードロープに伸ばしてロープブレイクする。
——そこで容易く力を緩めた吉原に、若さを見た。
智世はドラゴンスリーパーに捕えられたまま、ロープをセカンド、トップと駆け上がると、宙返りして吉原の背後に着地し、逆にドラゴンスリーパーを極めてみせた。
いや、腕を捻り上げるようにロックしたあの形は“紫龍”——かつて名を成した関節技の名手、氷室紫月の18番であり、その薫陶を受けたウインド・ドラゴンの必殺技のひとつだ。
完璧と言っていい形で極まった紫龍から逃れること叶わず、ここで勝敗は決した。
ゴングと歓声が鳴り響く。両タッグチームの色の良く出た、中々の試合だった。
技の綺麗さで言うなら、ミミ吉原・ブレード上原組の完成度は見事なものだ。
しかし技は形ではない。闘いにかける熱量と勝利への執念がまだまだ足りない。
逆にサンダー龍子は荒っぽすぎる。受けも攻めも、一歩間違えればアクシデントを呼びかねない不安定さを感じる。“クラッシャー”の異名まで継承しなければいいが。
この試合の中心は間違いなく南智世だった。技のキレも力の配分も流石の一言である。
最後に紫龍を持って来た事により、古参のファンを唸らせ、メインイベントまでネオ・サザンをおあずけにすることで、中盤の試合の役目をキッチリ果たしてみせた。
まさにプロの仕事である。だが、リスペクトを感じさせる仕事ぶりは、伝説への“挑戦”ではない。彼女のオリジナルではなくリバイバルに過ぎない。
実力の抜きん出ている彼女が、未だにトップの座に辿り着けぬ理由がそこにある。
様々な名選手の影を纏ったウインド・ドラゴンという仮面を脱ぎ捨て、南の姓を名乗った智世。余人には計り知れない葛藤の日々は、未だ終わっていないようだ。
休憩時間のアナウンスが流れ、出口へと向かう観客達に逆行して席へと進む。
ぐるりを見渡すと、プレス証を着けた連中も散見したが、見た顔はいない。
それは当然な話。俺がプロレス記者だったあの頃とは違うのだ。何もかも。
廊下に面した招待席に辿り着き、腰を下ろす。
休憩に席を立たなかったらしい隣の席に目をやると、
「おお!やあやあ、黒沢さんお久しぶりですなぁ〜ハッハッハッ」
缶コーヒーを片手に大笑する、最悪の相性の相手と再会した。
「……ご無沙汰してますO坂さん。それともO坂次長と呼んだ方がいいですか」
風間社長もやってくれる。ヒールの横にベビーを配するとは、マッチメイクとしては秀逸だが観戦には向かない。場外乱闘を始めかねない組み合わせだ。
……まあ、相手が大らかに過ぎるこの男でなければの話だが。
「いやいや、堅苦しい肩書きは勘弁ですよ〜気持ちは今も若い記者のままですから」
年輪を重ねた男の顔を見やる。稚気のある瞳の輝きはそのままに、以前に増して懐の広さを感じさせ、落ち着きを備えた大人の顔。良い人間は、良い年の取り方をするという見本だろう。
背後の通路でざわめきが起こった。
怪訝げに振り向くと、そこにはダンディ須永が優雅な所作で立っていた。
「久方ぶりだね、それとも——初めましてかな“マスターシュ黒沢”君」
往年の名選手であるダンディ須永は、NEW WINDの誇る名コーチとしても世界中に名を馳せている。俺がプロレス記者だった頃には、近寄るのも畏れ多いながら選手の取材などでお世話になったものだが……その大御所が今、“マスターシュ黒沢”としての俺に声を掛けてくる理由は、あの記事くらいしか思い当たらない。
優しげな眼差しの奥から、迸るような眼力を感じた俺は言葉に詰まる。
どう返事をしたものか考えあぐねていると、
「これは須永さん、こんばんは〜お元気そうでなによりです」
固まった俺の背中越しに力の抜けた挨拶が発せられた。
ダンディ須永も俺の頭越しに挨拶を返す。和やかな雰囲気だ……俺を除いて。
空気にでもなった錯覚は、消え入りたい心の表れだった。
無性に、煙草が吸いたくなった。
  ++  ++  ++  ++  ++
NEW WINDにて掲載された『もう一度あの日のように〜再会〜その18「現役の意地・4」』の時間軸におけるマスターシュ黒沢の動きを追ってみました。
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2015/07/25 18:00 | Comments(0) | あの日々はもう二度と戻らない 〜 outsider's report 

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