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2017/09/27 06:50 |
あの日々はもう二度と戻らない 〜 outsider's report 後編_6
このお話は、NEW WIND管理人Nの書いた『もう一度あの日のように~再会~』を、「Heel So Bad」のHIGEさんが別の視点から描いてくださった作品です。
 なおHIGEさんの承諾を得て、転載させていただいております。
 ~再会~ と合わせてお読みいただければ幸いです。





以下のSSはレッスルエンジェルスの世界観や、「NEW WIND」のN様により執筆された「NEW WIND」の設定、キャラクターを参考に描かれていますが、内容についてはHIGE個人の創作となります。必ずしも公式設定や開発者の意図、「NEW WIND」の原作、ファンの皆様一人一人の世界観に沿う内容ではない場合がありますことを予めご了承願います。
  ++  ++  ++  ++  ++
世論によって犯罪者の如く隅へ隅へと追いやられた、札付きの喫煙者たちが集う牢獄めいた小部屋。紫煙の渦巻く喫煙室の中で深呼吸する。
発ガン性物質が肺にくまなく染み込んでいき、ようやく人心地がついた。
閉じられた扉の向こうから、やたらとゴージャスな楽曲が響き渡る。
おそらく“史上最凶のお嬢様”ビューティ市ヶ谷の入場が始まったのだろう。
どこか外国の著名オーケストラだかに演奏させた、馬鹿馬鹿しいほど重厚かつ荘厳な曲に誘われ、煙の国の住人たちも女王の御成りに馳せ参じていく。
もうもうたる煙と共に一人残された俺は、足を組んでゆっくりとパンフレットを開いた。
豪華な装丁の記念パンフレットの表紙には、再会の時を迎える二人と、セミでミドルウインドを争った二人、そして団体の命運を懸けたビッグマッチのメインイベントという大任を担う二人の姿がある。
現在のNEW WINDで、マイティ祐希子が最強のエースであることは論を待たない。
その最大のライバルがビューティ市ヶ谷であることもまた然り。
直接対決の戦績を見れば、どちらが優勢なのかは一目瞭然である。
星取り一覧の白星は、ほとんど祐希子についているのだ。
それでも市ヶ谷が祐希子のライバルと目される理由は、市ヶ谷の尋常ならざるパワーにある。見るものを驚愕させる力技で、あらゆる相手を問答無用で打ち砕く、さながら台風の如き暴れっぷり。
力をいなすテクニックとスピード、天才的な受身と抜群のスタミナを併せ持つ“炎の女帝”マイティ祐希子だけが、この荒ぶる暴君に対抗できるのだ。
そして逆に、絶対女王として君臨する祐希子の牙城を脅かすことができるのは、柔道王者というバックボーンを持つエリートで、世界でも比肩する者のないパワーを誇る、傲岸不遜で傍若無人な“史上最凶のお嬢様”ビューティ市ヶ谷だけなのである。
市ヶ谷は途方もないパワーを誇る代わりに、捕まえづらい飛び技を苦手としている。自慢の力技で押しまくっていた試合を、華麗な飛び技ひとつで逆転されることも珍しくない。ずば抜けた飛び技を持つ祐希子との相性は最悪である。
その上、性格面の相性も最悪を通り越して天敵レベルときては、この二人がいがみ合わないほうが不思議というものだろう。
ライバルとなることを運命付けられた二人は、対立する要素に事欠かない。
それが顕著かつ重要な現れ方をしているのが、二人の持つ必殺技である。
マイティ祐希子は、ムーンサルトプレスという必殺技を持つ。
この技こそが、彼女を絶対女王たらしめていると言っても過言ではない。なにしろ祐希子は王者となって以来、ムーンサルトプレスが決まった試合を落としたことは一度もないのだ。
腹部と腰への一点集中により体力を奪い、相手の動きを鈍らせ動けなくしてから、ムーンサルトプレスで仕留める。理に適った必勝パターンを持つ彼女との試合において、コーナー付近で仰向けにダウンすることは敗北に直結する。
“炎の女帝”のムーンサルトプレスは、文字通りの“必殺技”なのだ。
対するビューティ市ヶ谷は、ビューティボムと呼ばれるパワーボムを必殺技としている。
試合の序盤終盤に関わらず、相手や自分がどんな体勢からであっても、強引にビューティボムに持っていくのが市ヶ谷流だ。
普通なら、まだ体力のある相手にパワーボムなんて大技を狙ったところで、踏ん張って堪えられるのが関の山……なのだが、市ヶ谷は堪える間も与えずぶっこ抜く。たとえ堪えたとしても、やはり強引にぶっこ抜く。相手が何をしたところで、自分が大宇宙の中心だと信じて疑わないこのお嬢様には関係ないのだ。
ことあるごとに乱発するビューティボムだが、そのどれもが必殺の威力を秘めているというのだから、対戦相手はたまったものではない。
“史上最凶のお嬢様”のビューティボムもまた、“必殺技”の名に相応しい。
このビッグマッチはおそらく、飛び技を武器に戦うマイティ祐希子を、ビューティ市ヶ谷がいかにして捕まえるかにかかっているだろう。
そのためには、祐希子の変幻自在な空中殺法封じが必須事項だ。パンフレットのインタビューで自信ありげに高笑いしている市ヶ谷は、このビッグマッチにどのような秘策を持って臨むつもりだろうか。
スティールの扉越しに聞こえる、どよめきと歓声。
煙草を補給し終わったというのに、いつまでもぐずぐずとパンフレットなんぞ眺めている理由は明白だ。
かつての思い出をおびやかすメインイベントを見るのが、
そしてその先の、かつての思い出を失うかもしれない試合を見るのが……怖いのだ。
今一度会場に響いたどよめきを潮に、俺は自嘲の笑みを浮かべて重い腰を上げた。
「やあ、黒沢さん。帰っちゃったのかと思って慌てましたよ〜」
俺が席に戻ると、まるで慌てた様子のないO坂は鷹揚な笑みを浮かべ、
「今のところ市ヶ谷が攻めて、祐希子がしのぐ展開ですね〜市ヶ谷は何度もビューティボムを狙ってるんですが、祐希子は決めさせずにボディへの攻撃を重ねてます」
頼みもしないのに試合の現状を的確に伝えてきた。
それだけ言うとO坂は「何をしていたのか」といった詮索もなく、試合へと意識を戻す。
試合に集中した横顔は、現場の第一線で鳴らす敏腕記者のものだった。
試合時間は20分頃。
O坂の言葉通り、祐希子をビューティボムの体勢に持ち上げようとする市ヶ谷。
だがまだ元気一杯のエースを捕えたところで、そう簡単に喰らってくれるはずもない。
足をばたつかせて振りほどいた祐希子は、間髪入れぬソバットで腹を蹴り抜く。
市ヶ谷は意に介さず、ハンマーパンチで頭を下げさせて股下に挟もうとするが、祐希子はその足を取って倒し、高くジャンプしてのエルボードロップをみぞおちに落とす。
完全に祐希子のペースだ。このままでは、市ヶ谷はじわじわと体力を奪われて敗北することだろう。俺の予想通り、飛び技対策があるのなら早く対処すべきだが——
ビューティ市ヶ谷にそんなものはなかった。
ひたすらにビューティボムを狙う市ヶ谷が、ついに頭上まで祐希子を持ち上げた。しかし上がった歓声は、市ヶ谷の首を両足で挟み、身体を斜めに捻ってのヘッドシザースホイップで切り返した祐希子に向けられたものだ。
ドロップキックを受けきって倒れず、しつこくビューティーボムを狙うが、今度は頭を飛び越しての回転エビ固めで返された。カウントは2。
自らピンチを呼び込んでいるとしか思えない市ヶ谷だが、このビューティボムのラッシュは乱発などという言葉では生ぬるい。なにしろ、他の技を狙っている気配がほとんどないのだ。
もちろんカウンターでラリアートを放ったり、掌底の差し合いや関節を取り合う場面もあるのだが、試合の流れはすべてビューティボムに帰結する。
祐希子のペースに見えていたが、どうやら主導権は市ヶ谷にある。
王者の顔に余裕の色はない。何しろ、一発喰らえば試合がひっくり返る破壊力の技を、立て続けに狙われているのだ。一秒たりとも気が抜けないプレッシャーは相当なものだろう。
王者が戦法を変えた。腕をとって引き倒し、グラウンドに持ち込む。
捻った腕に膝を落としてから、チキンウイングに捕える。腕にダメージを与え、ビューティボムの乱発を防ぐ作戦か。
グラウンドならば柔道で頂点を極めた市ヶ谷に分がありそうなものだが、この高慢なお嬢様はおそらく、自分が倒れた状態になった後のことなど考えたこともなかったのだろう。まるで練習が足りず、いいようにコントロールされている。
あれよあれよと言う間に、腕ひしぎ逆十字に捕えられた市ヶ谷。
試合が決まりかねない状況の中、市ヶ谷の腕が伸びきる寸前で止まった。
祐希子が両腕で引き絞るのを右腕一本で盛り返した市ヶ谷は、上半身をむくりと起こしていくと、驚いたことにそのまま強引に立ち上がった。
唖然とする祐希子をほとんど片腕の力だけで持ち上げるなり、高速のビューティボムでマットに叩きつける!
ついに一撃を喰らわせた市ヶ谷が、試合の流れを一気に掴む。
市ヶ谷が攻めて祐希子がしのぐ展開に変わりはないが、切り返しきれない場面が増えてきた。
得意の飛び技だけでは、ラッセル車のように押しまくる挑戦者を止められないと考えたか、グラウンドだけでなく打撃戦や投げ合い、果ては場外戦まで試みる王者。
だがそのたび、王者と観客は挑戦者のでたらめなパワーを目の当たりにして、呆気にとられることになった。
何か小細工を弄するでもなく、ただ自分自身の磨き上げた武器を信じた市ヶ谷は、自らの武器が通用しないのではと疑心暗鬼に陥った祐希子から、飛び技以外の選択肢を引き出して“飛び技封じ”に成功していた。
ビューティ市ヶ谷には飛び技対策など必要なかった。
俺の予想のはるか斜め上を行く、破天荒なお嬢様の豪腕に舌を巻く。
いつ試合が決まってもおかしくない状況が連続し、試合時間は40分を超えた。
今宵何度目かのビューティーボムに持ち上げられた祐希子は、起死回生のウラカンラナを狙う。風切り音のしそうな素早い動きが、逆さまになった状態で止まった。
剛力で丸め込まれるのを堪えた市ヶ谷が、観客の驚きの声と共に、祐希子を抱え上げ直す。
しかし祐希子は再び、俊敏に身体を捻ってのヘッドシザースホイップで切り返し——それすらも、顔面を真っ赤に染めて堪えてのけた市ヶ谷が、三たび祐希子を持ち上げると——鋭く振り下ろすクイックモーションのビューティボム!
絶対女王がカウント2.5でこれを返すと、ドームに興奮した足踏みの音が響き渡った。
王者が劣勢なのは、もはや誰の目にも明らかだ。それでも神懸りの受身の技とタフネスが、彼女から戦う力を失わせない。強い意思を宿す瞳が、天を突く怒髪が、まるで炎のように燃えている。
優勢な挑戦者も、序盤から猛攻を続けている攻め疲れや、ボディへのダメージ蓄積に動きが鈍る様子はまるでない。効いていないはずはない。しかし、弱ったそぶりを見せない美しく気高い姿には、ライバルへの意地や観客へのアピール以上のものを感じた。
それは、いつなんどきも美しくあらんとするビューティ市ヶ谷一流の美学だ。
試合時間50分経過のアナウンス。
流れは未だ最凶の挑戦者にある。引き分けが頭をよぎってもおかしくない時間帯だが、絶対女王はそんな形での王座防衛を望んではいなかった。
またしても狙われたビューティボムを、下腹部への頭突きで振りほどいた祐希子は、怒声を上げながらボディに反則パンチを連打する。
なりふり構わぬ猛反撃に、さしもの市ヶ谷も片膝をつく。その顔面にクリーンヒットしたローリングソバットが、最凶の挑戦者をゆっくりと仰向けに打ち倒した。
天に吼えた絶対女王が、コーナートップを目指す。
ジーニアス武藤が“進化”なら、マイティ祐希子は“深化”を極めた飛び技の名手だ。
今や珍しくもなくなった技にこだわり抜き、“必ず試合を決める”技にまで昇華させた祐希子のムーンサルトプレス。
祐希子がセカンドロープからコーナートップに足を掛けた時、大歓声が悲鳴交じりのどよめきに変わった。ダウンしていたはずの市ヶ谷が跳ね起きていた。
怪訝げな表情を浮かべた祐希子にずんずんと近づくと、コーナー上で背を向ける王者の股下からリングに向いて身体を入れ込む。
そのままむんずと腰を掴んで抱え上げ、コーナーから引き剥がすと、あっという間にビューティボムの体勢を完成させた。
危機的状況を理解した祐希子が、持ち上げられたまま市ヶ谷の頬を張り手で打ちすえる。
一発、二発。だが万力の如き腕は腰を挟んで離さない。どころか、ぐんっと高く持ち上げ——超高角度のビューティボムが爆発した!
スカイブルーのマットを揺るがす衝撃に、大観衆が一人残らず抱いた終焉の予感を、
カウント1のコールと同時に絶対女王が吹き飛ばした。
逃れられないと悟った祐希子は、自身の受身の技に全てを賭け——
一か八かの賭けに勝った。
完璧なタイミングで完全な受身を決めた祐希子が、カウント1でフォールを返し、吼え猛りながら立ち上がる。
渾身の一撃を返され、プライドを傷つけられた市ヶ谷が憤怒の形相で躍りかかる。
左の腕、右の腕を軽やかにかわした祐希子が、すれ違いざまどてっ腹に痛烈なニーリフトを叩き込む。
くの字に折れ曲がった腰に手を回すと、気合い一声、市ヶ谷を高々と抱え上げた。
数万の観客と共に驚きの表情を浮かべる市ヶ谷を、粉々になれとばかりに豪快なスクラップバスターでマットに叩きつける!
大の字に倒れた市ヶ谷を飛び越して、祐希子はコーナートップに駆け昇る。
コーナートップで両足を揃え——刹那、幾度となく脳を揺らされたダメージに意識を遠のかせ——ギラリと燃える目で虚空を睨み据えると、噛み切った唇から鮮血を散らしながら、力強くコーナーポストを踏み切った。
市ヶ谷は動けなかった。意識はある。足にも負傷はない。だが、身を起こすことができない。ボディに溜まったダメ—ジが腹筋の機能を破壊していた。数秒後の回復では間に合わない。太腿をぶるぶると引きつらせ、剣山を作ろうとするがこれも叶わない。
祐希子の身体が舞い上がる。ライトに照らされた、天使と見まがう美しいフォルム。重力を忘れたかのような滞空時間は、まさしく月面宙返りの名に相応しい。
市ヶ谷の震える指先が、自らの太腿に食い込む。噛みしばった歯の音が聞こえそうな形相で、自分の両足を——ぶっこ抜いて膝を立たせた!
同時に、祐希子の身体が遠心力と重力を乗せて市ヶ谷の上に着弾する。“必ず試合を決める”破壊力の衝撃が、祐希子の腹部へと鋭角に突き刺さった。
腹を押さえてのた打ち回る王者を睥睨し、史上最凶の挑戦者が仁王立ちに立ち上がる。
試合時間はもうない。押さえ込むだけでも勝敗は決するだろうが、挑戦者の出す技は決まっている。
ビューティボムだ。
会場中の観客が王座の移動を脳裏に描き、固唾を飲んだところで——
お嬢様の高笑いがドームに響き渡った。
いやいやいや!勝利は目前だがまだ勝敗は決していない。
進んでいくカウントダウンに乗せ、高らかな勝利宣言が述べられ、そして……
試合終了のゴングが鳴り響いた。
5万を超える群集がああーっと嘆息の声を上げ、椅子からずり落ちそうな脱力感に苛まれる。
我々はこの先ずっと、キョトンとして切れ長の目を瞬かせる、あまりに間抜けで、あまりに可愛らしいお嬢様の表情を忘れることはないだろう。
“史上最凶のお嬢様”は、どこまでもとことん規格外だった。
結局、MAX WINDは絶対女王の腰に巻かれたまま移動せず、因縁の対決は引き分けに終わった。だが、まさに最強の名を冠すべき戦いの熱は、ネクストを期待させるに十分だった。
会場の熱気は冷めるどころか、ボルテージを最高潮に引き上げた。
そして、引き分けという燃え上がった熱を鎮火し切らない結果は、次の試合に最高の決着を求める気持ちをいや増すことにも繋がった。
ドームを満たす、はちきれんばかりに膨らんだ期待感は、俺の呼吸を再び乱す。
椅子に深く腰掛け、腕を組んで目を瞑る。
早鐘を打つ鼓動を整えようと、小さく深呼吸を繰り返す。
休憩時間でざわついた喧騒の中、O坂の話し掛ける声が遠くに聞こえる。
メインイベントに興奮しきりだったO坂は、試合が終わると忙しなく席を立って行ったが、次の試合が待ちきれない様子でそそくさと戻って来ていた。
心の底から楽しみでたまらないといった声色が、心のささくれを毛羽立たせる。
またあの、煙の渦巻く牢獄に逃げ込みたい気持ちが沸々ともたげ始めた時。
俺の退路を断つように、新たな再会が訪れた。
  ++  ++  ++  ++  ++
NEW WINDにて掲載された『もう一度あの日のように〜再会〜その20「メインイベント」』の時間軸におけるマスターシュ黒沢の動きを追ってみました……というか、試合を書いてみました。
やたらと頑張りすぎて遅くなっちゃいましたが、楽しんで頂けますと幸いです。
Nさんの無茶振りに対抗して、再会試合のハードルを可能な限り上げようっていうね!……とか思ってたらもっと無茶振り来たー!?(二人して首を絞め合う)
そんなわけでついに迎えた“再会”の時——黒沢とシンクロしながらドキドキ楽しみにしております!
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2015/08/01 18:00 | Comments(0) | あの日々はもう二度と戻らない 〜 outsider's report 

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