~NEW WIND社長 風間新 手記より~
「……スリー!!」
レフェリー、トニー館が三度目のマットを叩いた瞬間、場内から大きな歓声と拍手がスカイブルーのマットを包みこんだ。
「ほお……これはこれは……」
予想外の結果に解説席に座っていたダンディさんの言葉が詰まる。
「25分35秒、25分35秒! テキーラサンライズにより勝者永沢舞!」
仲間リングアナのアナウンスに場内からもう一度大歓声があがったが、その歓声を受ける当のヒロインはまだ茫然としたままだった。
「やったね、舞!」
師匠であり、タッグパートナーの伊達遥が駆け寄って殊勲の永沢を抱きしめた。
「私……勝ったんですか?」
「……うん。勝ったよ……”MAX WIND女王”南利美にね」
そう、永沢が3カウントをとった相手は現MAX WIND女王南利美。彼女は一年前に女王の座についてから、タッグマッチを含め3カウントを喫したことはなく、、
「くっ……」
南はぎゅっと固くにぎった右拳をマットに叩きつけ、立ち上がると駆け寄ったパートナーの草薙みことの手を振り払ってリングを降りていった。
「……今の南さん……みてわかったでしょ?」
「はい! やった、やりました!やりました! 私が勝ったんですね!」
「……うん。必殺のテキーラでね」
タッグマッチとはいえ、絶対女王化してきている南から3カウントをとった意味は大きい。
「ふむ。これは来月が面白くなりますな」
まだ未定だった来月の最終戦のカードは、この日ほぼ決まったといえる。
NEW WINDシリーズ最終戦 メインイベント
MAX WIND女王戦 ”女王”南利美 VS 永沢舞”挑戦者”
「はっはっは。さすがは風間社長。大胆なカードを組みますなあ」
「おやおやO坂さん、そうですかね? 当然のカードだと思いますが」
事務所へ取材へ訪れたO坂記者と(マスターシュ)黒沢記者はそれぞれ別々の感想を持っているようだ。
「ほお。黒沢さんはこれを当然ととりますか? 永沢は南に勝ったとはいえ、タッグマッチでのできごとですぞ」
「おやおや、O坂さんほどのベテラン記者さんの言葉とは思えませんね」
黒沢記者は特徴のある口髭を歪め、笑みを浮かべた。
「確かにO坂さんのいうとおり、これはタッグマッチでの勝利。それも伊達の必殺技”シャイニングフェニックス”からの”テキーラサンライズ”のコンビネーションでの3カウントであり、100%永沢の力ではないかもしれません。しかし、この場合”絶対女王”南利美から3カウントを奪ったという事実こそもっとも重視すべきものです」
「まあそういうことですよ。この一年負け知らずの南が、後輩の永沢に負けた。これが一番大事なことなんです」
この一年で、すでに伊達、草薙、カンナ、武藤、結城といった面々が挑戦し敗れ去り、上位陣の停滞感が漂っているだけに、今回の永沢の挑戦というのは新しい風を吹き込んでくれるだろう。
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