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2024/04/19 20:15 |
女子プロお嬢様伝説ユイナ その2

「お嬢様ファイトかあ。」
「大丈夫ですよ。 ユイナさんなら出来ますって。」
「できるかなあ・・・」
「なんなら・・・占いでもしてもらいます?」
「占い?」
「ええ。よくあたることで有名な占い師さんがこの辺りにいるんですよ。」
「へーそうなんだ。行ってみようか。」
 その占い師はなぜか昼間だけしか姿を現さないという。いつもなら占いをしてもらう若い女の子で一杯なのだが、ユイナ達がそこについた時には誰もいなかった。


「ねえねえ、ここでいいの?」
「大丈夫ですよ。」
「でも誰もいないよ。」
 店に入った二人はキョロキョロと辺りを眺める。占いの店独特の・・・なんともいえない雰囲気がある。
「もう店終いの時間ですけれど。」
 誰もいないと思われた店の奥から声がする。
「あ、そうなんですか・・・」
 奥から出てきたのはまだ若い女性で、不思議な雰囲気を持っている。腰まで伸びた髪が印象的だが、顔はベールで隠れていてよくわからない。
「占いをご希望ですか? ユイナさん。」
「へっ!私の事知っているの?」
 突然名前を言われてユイナはびっくりする。
「・・・」
 占い師の女性は無言でユイナの後ろを右手で指差す。
「あ、そういうことか。びっくりしたなあ。占い師さんって名前まで読めるのかと思っちゃった。」
「ですねえ。」
 占師の女性が指差した先にはユイナのポスターが貼ってあった。新作チョコレートのポスターである。
「それで悩みはお仕事の事かしら?」
「はい。新しいお仕事を受けたのですけど本当に受けてよかったのかなって思って。」
「わかりました。では見てあげましょう。」
「ほんと?」
「さ、そちらにおかけなさい。」
 占い師はユイナにイスをすすめ、自分はその反対側にあるイスに腰を降ろした。
「占い師 紫龍です。貴方の運命を占わせて頂きます。」
「お願いします、紫龍さん。」
 ユイナはドキドキしながら、紫龍をみつめる。
(紫龍さんって、綺麗な瞳しているんだなあ。)
「神楽坂ユイナさん…あなたは今困難への道を進んでいます。ですが、貴方には大きな力が眠っています。それは太陽の力。」
「太陽の力?」
「あなたは人を照らし、導く太陽のような存在です。光を浴びて、輝きを増す月の存在があればあなたの力は発揮されるでしょう。月との出会いは運命。あなたが今回の困難に出会ったことも全て運命なのです。逃げる事はできない運命。あなたはこの困難を乗り越えるだけの力をお持ちです。すべては…運命…」
「えっとなんだかよく分からないけど、つまり頑張ればいいって事ね?」
「くす。単純な言い方をすればそうなりますね。『太陽と月が出会う時、大いなる力が生まれます』。その力なくしては運命の扉は開きません。それは覚えておいてください。」
「はい。ありがとう紫龍さん。」
 代金を払って帰っていく二人を見つめながら占い師 紫龍はつぶやいた。
「あの子と私の出会いは運命・・・」
 紫龍はベールを外し、それを壁にかけた。
「さ、占い師のお時間は終わりです。」
 紫龍は大きなボストンバックを持って店を後にした。


 カリスマ占い師、紫龍の占いを聞いてやる気を持ったユイナ。初めて生で見るプロレスにワクワクしつつ会場へと移動する。気分は完全に観客だった。


☆お嬢様ファイト ローズ・ウイップ試合会場☆

 今日の会場は5000人会場だが追加発売席も完売し5250人の観客が集まっていた。もちろん超満員札止めであり、会場は熱気に溢れている。
 客層は若い世代が中心で構成比率は男女5:5といったところ。女性が多いのは宝塚的雰囲気があるからかもしれない。

「すごい、すごい!あんな綺麗な子たちなのに、すごい。技も綺麗だし。」
 ユイナはセミファイナルまでの試合を見て自分の立場も忘れ熱中している。
「呑気ですねえ。」
 ま、ユイナのこういう部分は今に始まった事ではないのだけど・・・
「本日のメインイベント、シングルマッチ60分一本勝負を行います。」
 リングアナの美声が響く。

 ここまでお嬢様揃いなら、リングアナもお嬢様が努めればいいのにと思うが、普通の男性が勤めている。『引き立て役』なんだろう。  

 今日のメインは 氷室紫月VS清流野清子 。
 ゴージャス系お嬢様揃いのローズ・ウイップの中で、格段に目立つ日本人形のような美人が氷室紫月だ。
「へえ、イケイケ意地悪ばかりかと思ったらあんな人もいるのね。」
 ユイナは手に持ったポップコーンをむしゃむしゃと頬張る。やはりお嬢様アイドルとは思えないけど・・・
「イケイケが全員意地悪なわけではないと思いますけど。あの人・・・チャンピオンなんですよユイナさん。」
「ほへえ。そうなの?」
「ええ。この『お嬢様ミニ写真集』に書いてありますよ。」
 由里が持っているお嬢様ミニ写真集とは、単純にいえばパンフレットなのだが・・・その仕様が豪華。上質の紙を使っているし、わざわざどこかでロケをしたと思われるお嬢様レスラーたちの写真が綺麗に並んでいる。
「カメラマンも超一流じゃない。これいくらするの?」
「えーと・・・5000円ですう。」
「・・・高くない?」
「うーんでも売れ切れましたよ。最後の一冊をなんとかゲットしたんです。興行ごとに新しいのを出すそうですよ。」
「お嬢様のやる事ってわからないわ・・・」
「ユイナさんもお嬢様ですよ?」
「う、うんまあね・・・」
 あいまいに笑って誤魔化すユイナだった。


 試合の方はチャンピオンの氷室紫月が綺麗な弧を描く、『紫月の舞』(ジャーマンスープレックス)でフォール勝利。
 ここで一際荘厳なテーマ曲がかかり、ビューティ市ヶ谷が入場してくる。
「紫月さん、そんな相手ではご不満でしょう?」
 リングへとあがったビューティはマイクアピール。
「・・・」
 紫月は一瞥しただけで何も言わずにリングを降りようとする。
「あらこの私を無視するなんていい度胸ですわ。」
 背を向けた紫月に向かって市ヶ谷は不意打ちでビューティボンバー(アックスボンバー似だが美しさが遥かに上)を紫月の延髄に叩きこむ。
『不意打ちのどこがエレガントなのか?』という疑問は誰しも持つものだが・・・
「紫月さんにはお仕置き、もとい教育が必要なようですわね。やっておしまいなさい。」
「はい、市ヶ谷様」と声をそろえたお嬢様ファイター達が、ダウンした紫月にストンピングの嵐を浴びせる。
 どこか優雅さを感じさせる攻撃だが、やっている事は多数での暴行であり、美しくない。

 ビューティ市ヶ谷と氷室紫月の確執は今に始まった事ではない。
 美貌と実力に絶対の自信を持つ市ヶ谷と、それとは違う美しさを持つ紫月はファイトスタイルも違うし、性格もお互い相容れないものだった。
市ヶ谷財閥がバックのこの『ローズ・ウイップ』で市ヶ谷に逆らうということは、所属選手全てを敵にまわしているようなもの。
 芝田美紀のように中立な立場を守る選手もいるが、ほとんどの選手は市ヶ谷の意のままに動く。
「そんな!みんなでよってたかってなんて・・・ひどい・・・」
「あ、ユイナさん!」
 由里が止めようとしたがすでに遅く、ユイナはリングサイドへと駆け出してしまっていた。
「もう!ユイナさんたら・・・」
 由里も慌てて後を追おうとしたが、係員に邪魔される。
「おっと、関係者以外は通れませんよ。」
 ユイナは通した係員たちだが、由里の事は止める。屈強な男二人に阻まれてしまい、由里の足は止まる。
「・・・意図的・・・」と由里は感じた。
「やめなさい!たった一人にこれだけの人数で、そんなにこの人が怖いわけ?」
 リングサイドに颯爽と登場した少女がお嬢様ファイターたちに向かって叫ぶ。
「おや、誰かと思えば神楽坂ユイナさんじゃありませんの。」
 ビューティ市ヶ谷が意味ありげに笑う。
「皆さん、お嬢様中のお嬢様、お嬢様アイドルの神楽坂ユイナさんのご登場ですわよ。」
 市ヶ谷のマイクに客席から大歓声とブーイング。
「あらあら歓迎される方が半分、残り半分は貴方の登場をよしとしていませんわ。美しい紫月さんがボロボロにやられる姿を見たかったのに・・・ってね。」
「な・・・んてことを」
「ユイナ・・・さん、ダメ挑発に乗っては・・・」
 紫月が呻くように声をあげるが、その声はユイナには届かない。
「それとも、紫月さんの代わりに貴方がボロボロになるのかしら?」
「・・・!?」
 ユイナの顔に焦りが浮かぶ。自分の状況に気づいたのだ。
(しまった・・・私なんて軽率な行動を・・・由里は置いてきちゃったし、私経験ないし・・・味方はいないし・・・この人は倒れているし・・・どーしよー!)
「危険を顧みずに飛び込んできた心意気に免じ、この場は許してさしあげますわ。」
「ほっ・・・」
「貴方は目立ちすぎなのです。この私が直々にリングの上でオシオキして差し上げますわ。」
「えっ!」
「皆さん、この神楽坂ユイナさんは次の大会でお嬢様ファイターデビューをされます。せいぜい応援してあげてくださいね、おーほっほっほ。」
「市ヶ谷様、まずは私に対戦のお役目お与え下さいませ。」
 エリナが進み出る。
「よろしいでしょう。本来なら私自ら教育して差し上げたいところですが、いきなり私が出るのも美しくありませんわ。まずエリナさんがたっぷりとお楽しみなさい。その後で私が楽しませていただきますわ。おーほっほっほ。」
「な・・ちょっと待ってよ・・・」
 だがこのとき電光掲示板には 次回大会 メイン 神楽坂ユイナ対西園寺エリナと発表されていたのだった。
 手回しがよすぎだが、もちろんこれは意図的な演出。ユイナは正義感が強いという情報を利用した罠だったのだ。まさに飛んで火にいる夏の虫・・・である。
「次回大会でお待ちしていますわよ、神楽坂ユイナ。」

 場内にはユイナと紫月と芝田が残る。芝田が紫月を抱えて控え室へと運ぶ。芝田が顎で『ついてらっしゃい』と示したのでユイナはその後を追った。


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2009/03/25 18:00 | Comments(0) | NEW WIND 改訂版

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