「それいけ、むとめさん」
NEW WIND社長秘書奮戦記 より
NEW WIND社長秘書奮戦記 より
「じゃあ、そういうことだから、よろしくね」
「はい。わかりました~! お疲れ様ですっ!」
彩菜は元気よく答えると、丁寧なお辞儀で私を見送る。このまっすぐでいかにも体育会系という感じ、私は嫌いじゃないな。
「お疲れ様~~」
私は道場の扉をあけ廊下へと出ようとした。
「!?」
誰かにスカートのすそを引っ張られた気がしたので立ち止まった。
もっともこれが気のせいでなければ、こんなことをするのは一人だけしかいないので、”誰かに”という表現は正確じゃないか。
「……!」
やはり裾を引っ張る感触があるわね。そうすると私の後ろにいるのはあの子に間違いないわね。
「なに? どうしたの、綾?」
私は振り向かずに尋ねた。
「えっ、どうして綾だってわかったの? むとめさん、すごーい」
「前にも言ったでしょ? 私は超能力者なのよ」
これは嘘だけど、ある程度経験を積めばこの程度の事ならわかるってもんよ。先任秘書の井上霧子さんが私達の事をズバッと言い当てたようにね。といっても、まだまだあの人には及ばないけど、これくらいならわからないとね。だいたスカートの裾を引っ張る子はうちには一人しかいないんだから、当てたとしても自慢にはならないけどね。
「そうなんだ~~。やっぱりむとめさんは凄いね!」
無邪気にはしゃぐ綾を見て、私の心がちょっとだけチクリとした。ま、別に騙しているわけではないからいいわよね。むしろ綾の気持ちを盛り上げているんだから、それはそれでいいはずよ。
「それで、どうしたのかな?」
綾と話すときはどうも子供と話すような感じになってしまう。この子は本当に中学を卒業しているのかしら? と思う時があるくらい幼く見えるし、幼く感じてしまうのよね。
「あのね、教えて、むとめさん♪」
綾は大きな瞳をキラキラとさせていた。まるで子供がおもちゃを貰えるような、そんな純粋で楽しそうな瞳で私を見つめていた。
「何を教えて欲しいの?」
「うん。あのね、あのね! 変型ドラゴンスリーパーがどんな技か教えて欲しいんだ」
「変型ドラゴンスリーパー? ドラゴンスリーパーの事ならダンディさんに聞いた方がいいと思うわ」
NEW WINDの総合コーチ兼現場監督のダンディ須永さんことダンディさんは、現役時代ドラゴンスリーパーを得意にしていたと聞いているから、私よりも適任だと思う。
「だって、おじいちゃんが、『わからない事はなんでもむとめさんに聞くんですよ』って言ってたんだもん」
綾はダンディさんの事をおじいちゃんと呼んでいる。ダンディさんは若く見えても実際60歳を超えているわけだし、私達に世代ならともかく、綾くらいの世代から見たらまさにおじいちゃんだろう。
「……やれやれ……で、なんで変型ドラゴンスリーパーなのよ」
「うん。昔の試合結果を見てたらね、草薙みことさんの『草薙流裸絞め』と、氷室紫月さんの『紫龍』って技がどっちも『変型ドラゴンスリーパー』と書かれていたの。それでどう違うのか気になったんだ」
「そ、そう。みこと先輩の草薙流裸絞めと紫月さんの『紫龍』か……随分と懐かしい響きね……」
お二人と最後に試合をしたのは何年前になるんだろう。最近は秘書の仕事が楽しくなってきたのであんまり昔の事を考えなくなっていると思う。どちらの技でもギブアップ負けをした事もあるので、今考えているだけでなんだか呼吸が苦しくなってきた気がするわ。
「うん。どう違うの? DVDではあんまりよくわからなかったの」
「そうねえ、教えてあげるには二つの方法があるんだけど……」
「ふたつのほうほう?」
「そう。自分自身で感じる方法と、じっくりと見て理解する方法。綾はどっちがいいかな?」
「え、えっと……」
綾の選択肢は?
A・自分自身で感じる
B・じっくりと見て理解する
選択肢の意味を置き換えると、むとめさん&綾の話を読みたいか、氷室&みことの話がいいかってことになります。
結局は技を中心としたお話になるんですけど。アンケートを用意はしないので、読みたいなって方をこっそり(もしくは堂々と)お知らせください。
PR
Nさんの所の綾とむとめさんの関係が個人的に好きなんですよね
他所では見ない組み合わせですし
まあ、一番読みたいのは『南さん』の出て来る話ですけどね(爆)