「あら、こんな時間に?」
風呂を上がってブラブラと寮内を歩いていた武藤めぐみは、道場の電気がついていることに気がついた。
「もしかしたら、あの子たちが消し忘れたのかしら」
武藤は後輩達の顔を思い浮かべる。
「もうっ! 掃除が終わったら、ちゃんと消すように言ったのに」
武藤は電気を消そうと道場へと近づいた。
風呂を上がってブラブラと寮内を歩いていた武藤めぐみは、道場の電気がついていることに気がついた。
「もしかしたら、あの子たちが消し忘れたのかしら」
武藤は後輩達の顔を思い浮かべる。
「もうっ! 掃除が終わったら、ちゃんと消すように言ったのに」
武藤は電気を消そうと道場へと近づいた。
「……なるほど」
道場から微かに声が聞こえる。
「誰かいるみたいね。では、あの子達の消し忘れではなかったのね」
武藤は後輩を疑った事をちょっとだけ後悔した。
「もっとも前科があるから疑うのは当然なんだけど。それにしても、今の声は南さん? ……何をしているのかしら?」
練習熱心な南ならこの時間に道場にいてもおかしくはないが、トレーニングをしている気配はない。
「……確かに生意気ね」
南が不機嫌そうに言うのが聞こえた。
「そうなんですよお。チダネは人懐っこいんですけどね。ムトメは超生意気なんですよ。私の言うことなんてまったく聞かないんです」
どうやら南と話しているのは、永沢舞のようだ。
(むとめは生意気? 先輩の南さんに言われるのはわかるけど、後輩の永沢に言われる筋合いはないわ。それに先輩を呼び捨てにするなんて!)
武藤は自分の行いを棚に上げて、後輩の態度に腹をを立てていた。
(そりゃ私は人づきあいが苦手で、上手く物を言えないけど……)
いや、前言撤回。どうやら自覚は多少あるようだ。
「……チダネはドジな部分があるけど……でも努力をしている……それに人を怖がらない……それにくらべると……ムトメは駄目」
(伊達さんまで! そりゃ千種は人当たりいいけど……)
「そうね。チダネはともかく、ムトメはこのままでは駄目ね」
「どうしたらいいですかね?」
「そうね。あれだけ生意気な態度をとるムトメを更生させるには、教育するしかないでしょうね」
(教育?)
「教育ですか?」
「そう。ルールを徹底的に覚えこませるの。それしかないでしょう」
「……でも、どうやって……」
「言ってわからないなら、体で覚えてもらうしかないわね」
南が低い声で呟く。
(体で覚えてもらう? それってまさか……)
「お仕置きってことですか?」
「ま、そうとも言うわね」
南は平然と言い放つ。
「……具体的には?」
「生意気な態度を取った時には、シメルということよ」
「ええっ! シメルんですかっ?」
「ええ。態度を改めるまでシメルしかないわね」
(……そんな……)
「上下関係をしっかりわかってもらうまでは容赦なくやるしかないわ。そうすればきっとムトメも更生するでしょう」
「……わかった。徹底的にやってみる」
「まあ、遥には無理かもしれないけど、ムトメを甘やかしては駄目よ。チダネはいいけどね」
(…………)
「わかりました! 甘やかさないようにしますね」
「じゃあ早速今日からやるわよ」
「はい。心苦しいけど頑張ります、ガンバリます!」
「甘やかすのはムトメのためにならないわ。ただ体で覚えさせるのではなく、愛情を込めるのよ」
(このままじゃ……いけない。なんとかしないと……)
武藤は無意識のうちに腕に力を込めていた。
ギイッ! と音がして扉が開く。
「あっ……」
中にいた3人が一斉に武藤の方を見る。
「あら、武藤」
「あ、武藤先輩、どうしたんですかこんな時間に」
「……寝れないの?」
3人は口々に優しい言葉をかけてくる。
「あ、その……」
「その様子だとどうやら話を聞いていたようね。ま、そういうことだから、貴女もそのつもりでいるようにね」
南はにこりともせずに言い放つ。
「…………」
「どうしたの? ははん、貴女自分のことだと思っているようね。確かに武藤も生意気だけど、別にどうってことないわ。問題なのはコイツよ」
南は永沢の持っている籠を指差した。その中にはチンチラが一匹入っていた。
「……ムトメ?」
武藤は事態を把握する。
「そ。チンチラのムトメが生意気で言うことを聞かないからどうするかという話をしていたのよ。貴女は自分の事だと思ったようだけど、私たちは貴女を『武藤』とか『めぐみ』と呼ぶことはあっても、ムトメとは呼ばないでしょう。同様に結城の事もチダネとは呼ばないわ」
南の言う通り、武藤は団体所属選手に『むとめ』と呼ばれた事はない。
このチンチラは伊達と永沢が共同で飼っているもので、二人は2匹飼っている。一匹はドジな所があるのでチダネと名付けられ、もう一匹は生意気なところがあるのでムトメと名付けられている。
「二人がムトメを甘やかすから、ムトメがつけ上がるのよね。だから教育方針を決めていたってわけよ」
「……やっぱりこの名前には反対です」
「そう? 言い得て妙だと思うのだけど」
南の言葉を聞いて、武藤は自分の行いを改めようと誓ったのだった。
道場から微かに声が聞こえる。
「誰かいるみたいね。では、あの子達の消し忘れではなかったのね」
武藤は後輩を疑った事をちょっとだけ後悔した。
「もっとも前科があるから疑うのは当然なんだけど。それにしても、今の声は南さん? ……何をしているのかしら?」
練習熱心な南ならこの時間に道場にいてもおかしくはないが、トレーニングをしている気配はない。
「……確かに生意気ね」
南が不機嫌そうに言うのが聞こえた。
「そうなんですよお。チダネは人懐っこいんですけどね。ムトメは超生意気なんですよ。私の言うことなんてまったく聞かないんです」
どうやら南と話しているのは、永沢舞のようだ。
(むとめは生意気? 先輩の南さんに言われるのはわかるけど、後輩の永沢に言われる筋合いはないわ。それに先輩を呼び捨てにするなんて!)
武藤は自分の行いを棚に上げて、後輩の態度に腹をを立てていた。
(そりゃ私は人づきあいが苦手で、上手く物を言えないけど……)
いや、前言撤回。どうやら自覚は多少あるようだ。
「……チダネはドジな部分があるけど……でも努力をしている……それに人を怖がらない……それにくらべると……ムトメは駄目」
(伊達さんまで! そりゃ千種は人当たりいいけど……)
「そうね。チダネはともかく、ムトメはこのままでは駄目ね」
「どうしたらいいですかね?」
「そうね。あれだけ生意気な態度をとるムトメを更生させるには、教育するしかないでしょうね」
(教育?)
「教育ですか?」
「そう。ルールを徹底的に覚えこませるの。それしかないでしょう」
「……でも、どうやって……」
「言ってわからないなら、体で覚えてもらうしかないわね」
南が低い声で呟く。
(体で覚えてもらう? それってまさか……)
「お仕置きってことですか?」
「ま、そうとも言うわね」
南は平然と言い放つ。
「……具体的には?」
「生意気な態度を取った時には、シメルということよ」
「ええっ! シメルんですかっ?」
「ええ。態度を改めるまでシメルしかないわね」
(……そんな……)
「上下関係をしっかりわかってもらうまでは容赦なくやるしかないわ。そうすればきっとムトメも更生するでしょう」
「……わかった。徹底的にやってみる」
「まあ、遥には無理かもしれないけど、ムトメを甘やかしては駄目よ。チダネはいいけどね」
(…………)
「わかりました! 甘やかさないようにしますね」
「じゃあ早速今日からやるわよ」
「はい。心苦しいけど頑張ります、ガンバリます!」
「甘やかすのはムトメのためにならないわ。ただ体で覚えさせるのではなく、愛情を込めるのよ」
(このままじゃ……いけない。なんとかしないと……)
武藤は無意識のうちに腕に力を込めていた。
ギイッ! と音がして扉が開く。
「あっ……」
中にいた3人が一斉に武藤の方を見る。
「あら、武藤」
「あ、武藤先輩、どうしたんですかこんな時間に」
「……寝れないの?」
3人は口々に優しい言葉をかけてくる。
「あ、その……」
「その様子だとどうやら話を聞いていたようね。ま、そういうことだから、貴女もそのつもりでいるようにね」
南はにこりともせずに言い放つ。
「…………」
「どうしたの? ははん、貴女自分のことだと思っているようね。確かに武藤も生意気だけど、別にどうってことないわ。問題なのはコイツよ」
南は永沢の持っている籠を指差した。その中にはチンチラが一匹入っていた。
「……ムトメ?」
武藤は事態を把握する。
「そ。チンチラのムトメが生意気で言うことを聞かないからどうするかという話をしていたのよ。貴女は自分の事だと思ったようだけど、私たちは貴女を『武藤』とか『めぐみ』と呼ぶことはあっても、ムトメとは呼ばないでしょう。同様に結城の事もチダネとは呼ばないわ」
南の言う通り、武藤は団体所属選手に『むとめ』と呼ばれた事はない。
このチンチラは伊達と永沢が共同で飼っているもので、二人は2匹飼っている。一匹はドジな所があるのでチダネと名付けられ、もう一匹は生意気なところがあるのでムトメと名付けられている。
「二人がムトメを甘やかすから、ムトメがつけ上がるのよね。だから教育方針を決めていたってわけよ」
「……やっぱりこの名前には反対です」
「そう? 言い得て妙だと思うのだけど」
南の言葉を聞いて、武藤は自分の行いを改めようと誓ったのだった。
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