※なお、レッスルクライマックス T-WINDS”エンジェルマニア”NEW WIND提供分(メインイベント)より一部抜粋したものです。
「皆様、大変長らくお待たせ致しました。只今より、本日のメインイベント『NEW WIND提供試合』――MAX WIND女王戦60分一本勝負を行います!」
超満員に膨れ上がった新日本ドームに、リングアナの声が響く。
各プロレス団体が一堂に会して行う夢のプロレス興行『エンジェルマニア2009』のメインを任されたのは、我々NEW WINDであった。
この大会は、参加各団体が一押しの試合を提供するスタイルで行われる。それはメインイベントであっても例外ではなく、担当団体が所属選手同士の試合を提供することになる。
興行の印象を決めるメインイベントを任されるわけだから、中途半端なカードを提供するわけにはいかない。一番自信のあるカードを提供するのが、メインを任された団体の長としての務めであろう。
そこで私は、NEW WINDの頂点を賭けたタイトル戦、『MAX WIND女王戦』を提供する事を決めた。
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「青コーナーより……挑戦者、『完璧なる関節のヴィーナス』南利美選手の入場です!」
スローバージョンでテーマ曲が流れる中、会場の照明が暗く落とされ、新日本ドームの白い天井にサザンクロス(南十字星)が浮かびあがった。
そして、バンッ! という大きな音と同時に、ゲートの左右から火柱が噴き上がる。
「うおおおおおっ~!」
歓声と同時に南がステージに姿を現す。
「南~!」
「勝ってくれよ~!」
南は、いつもはあまり派手な入場を好まず、ノーガウンでの入場が多いのだが、今日は一味違う。
NEW WINDのイメージカラーであるスカイブルーをベースカラーとし、襟に紫色のラインが入った袖なしガウンを着用している。言うまでもないが、紫は南のパーソナルカラーだ。
「……肘にサポーターをつけるなんて珍しいですな」
私の隣に座っているNEW WIND現場監督兼総合コーチのダンディさん(ダンディ須永)が、モニターを見ながら呟いた。
「――私の記憶では、初めてだと思います」
南の右肘に黒いエルボーサポーターが巻かれており、そのサポーターには、緑色の十字架がワンポイントで描かれている。
「まさか肘を痛めたとか?」
「ふむ……打倒市ヶ谷を目指し、さらなる特訓をしていたようですが、怪我の報告は受けていません」
南の負傷を心配したが、南は肘を特に気にする様子はなかった。
南はリングインするとロープに背中を預け、グイグイとロープの感触を確かめる。
「赤コーナーより、MAX WIND女王『高貴なる美の女帝』ビューティ市ヶ谷選手の入場です!」
ゴージャスかつ、スケールの大きなイントロが流れ、場内の照明が眩しく輝き出す。
「おおっ!」
宝石を散りばめた派手なガウンに身を包み、市ヶ谷がステージに姿を見せると、観客から一斉に声援が飛んだ。
「市ヶ谷~!」
「市ヶ谷様~!」
「麗華さま~!」
市ヶ谷は両腕を大きく広げ、その歓声を一身に受けると、満足そうに頷いてから、ゆっくりと花道を歩き出した。
「市ヶ谷様!」
「市ヶ谷~!」
うーん、歓声が凄いな。普段の高飛車な発言を嫌う人間でも、この派手な入場シーンには目を奪われ自然と声援を送ってしまう。彼女はやはり特別な存在だな。
「麗華さま」
セコンドの榎本が小さい体でロープを押し上げる。
「ふふっ……そこは使いませんわよ」
市ヶ谷はそう言うが早いか、コーナーポストへとよじ登り、トップロープ上でもう一度両手を広げた。
「市ヶ谷~っ!」
再び大歓声が沸き上がる。
「さあ、いきますわよ!」
リングに華麗に舞い降りた市ヶ谷はリング中央へ進み出て、零距離で南と睨みあった。