NEW WIND社長 風間新 手記より
「今日は負けないわよ」
「……こちらも負けません……」
スカイブルーのリング上で向かい合うのは、黒髪のショートカットがよく似合う凛とした雰囲気の女子レスラー南利美と、長い髪を後ろで束ねた物静かな雰囲気のするレスラー伊達遥だった。
二人は、このNEW WINDの同期生にして、ライバルである。
「お互いに”勝つ”ではなく、”負けない”なのか」
「それもこの二人ならではなのかもしれませんな。勝ちたいではなく、負けたくないという想い。私にはわかりますぞ」
私の隣に座る総合コーチにして現場監督のダンディ須永――私は敬愛をこめてダンディさんと呼んでいる――がうんうんと頷いていた。
タッグを組んでのタイトル戴冠もある二人のシングルマッチは、クリスマス特別興行のなんと第0試合で組まれてしまった。
抽選の結果とはいえ、なんともったいない……。5分1本勝負とは……。
「OK,GO!」
謎の覆面レフェリーミスターDENSOUの掛け声で試合が始まる。
「遥っ!」
エルボーを打とうとダッシュする南。
「てええええっつ!」
それに対して伊達は珍しくカウンターで水面蹴りで繰り出す。
「なっ!」
これを予想してなかった南は直撃で喰らってしまいがくりと膝をついてしまった。
「やあっ!」
そして当然のごとく、ゼロ距離からの超高速シャイニングフェニックス!! 両手を大きく広げるフォームが美しい。
「くっ!」
南はガードが間に合わなかったもののダメージを軽減させることには成功する。
「やあっ!!」
伊達は直地と同時にもう一度シャイニングフェニックス!!
「なめるなっ!!」
南はそれをキャッチして珍しくパワーボム!!
「させないっ!!」
伊達はバタバタと暴れてクラッチを崩すと右の踵落し!
「このおおおっ!」
それを南は回避し、伊達が後ろ受け身をとったところでその足をヒールホールドに極めた。
「うあああああああっ!」
「これは完璧にきまっていますな」
ダンディさんが思わず腰を浮かせている。
「うぐううううっ……」
伊達は長い手を利用して、南の足首を関節に決め返す。
「ぐうううっ……」
しばらくすると2人はほぼ同時に技をといて立ち上がり、場内からは大きな拍手が送られた。
序盤から見せ場たっぷりの試合は、結局時間切れ引き分けに終わるのだが、5分でもこんなに濃い攻防ができるのかという凄みを感じる試合であった。
でもやっぱり、メインでみたい試合だと改めて思った。
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