永沢は南の奥の手、ステップオーバー式サザンクロスロック……『パーフェクト・サザンクロスロック』に長時間捕まっていたが、ギブアップせずになんとか耐えきった。
「思ったよりしぶといわね」
南は笑みを浮かべる余裕があるが、逆に永沢は息も絶え絶えで完全に消耗してしまっている。
「これで南の有利は動かないか……」
「いや、そうとは言い切れませんぞ。何しろ南が女王の座を奪取して以来、決め手としてきたあの技を耐えたのは永沢が初めてですからな」
「なるほど……そういえばそうだ……」
あの女子プロレス最大のビックイベント”エンジェルマニア2009”のメインイベントで、南は初代女王ビューティ市ヶ谷から女王の座を奪取しているのだが、その時のフィニッシュホールドがこの『パーフェクト・サザンクロスロック』だったのだ。南はそれ以来ここぞという場面でこの技を使用し、試合を決めてきた。
「となると、永沢に流れが?」
「その永沢もすでに奥の手は出してしまっていますからな。あとは引き出しの多さで決まるかもしれませんぞ」
だとすれば、やはり南の優位は動かない気がするのだが……。
「てえええいっ!」
「ふんっ!」
スピードと手数で勝負に出る永沢に対し、南は関節技での切り返し、そして女王挑戦時以来武器にしてきたエルボーで永沢のスタミナをそいでいく。
「ぐっ……」
南の打撃がヒットし、永沢の動きが止まった。
「やああっ!」
南は素早くロープに走り、ランニングエルボー!
「!」
永沢はこの南の動きを察知しており、ダッシュしてきた南をウラカン・ラナで丸めこむ。
「ワンッ! トゥ!」
トニー館レフェリーが素早くカウントに入る。
「くうっ!」
カウント3寸前で南は肩を上げた。
「やっ!」
今度はラ・マヒストラル! カウント2.9でかろうじて肩を上げる。
「まだです! まだです!」
ジャパニーズレッグロールクラッチ、スクールボーイ、回転エビ固め……次々と丸めこみ技を放ち、南はそれをぎりぎりで跳ね返す。
「女王戦でそんな技で負けるわけに・・・うわっ!」
さらに逆さ抑え込み! これもキックアウトした南だが、息が上がってきている。
「くっ、まだっ!」
スタミナを消耗した南は、ここで片膝をついて立ち上がろうとしてしまった。
「待ってましたっ!」
永沢はここでこの試合二度目となるシャニングフェニックス!
「それはこっちのセリフよ」
南は右の膝蹴りをキャッチ! 伊達との対戦歴が長いだけにここは読んでいたか。
「それも計算のうちですよ!」
永沢はやや体勢を崩しながらも、左足を大きく振り上げていた。そのままリングに落下しながら、強烈なカカト落としを南の右の肩口付近に叩き込む。
「ライジングフェニックスか!」
もう一人の遥…フェニックス遥のフィニッシュホールドを出してきたか。
「ふっ……」
しかし南はこれを右腕一本でキャッチしてみせた。
「そ、そんなっ!」
永沢は動揺を隠せない。
「最後に借りものの技を選んでしまったのは、貴女の甘いところよ。完璧じゃないわね!」
南はそのままボーバックブリーカーへ移行。永沢の背骨がミシミシと軋む。
「うがあああっ……」
予期せぬ技を決められた永沢は、パニックに陥りたまらずタップしてしまった。
「20分15秒、ボーバックブリーカーにより勝者、南利美」
南は勝ち名乗りを受けると、一言二言永沢に声をかけてリングを降りた。
永沢に聞いたところでは、「いつまでも遥さん、遥さんじゃ、いつまでたっても頂点には立てないわよ」と言われたという。
「いや~はっはっは。南選手、よくあの場面でライジングフェニックスを読んでいましたな?」
ガールズゴングのO坂記者が南へ質問を投げかけた。
「読んでいたというか、あの瞬間デジャブのように舞がライジングフェニックスに来るという映像が浮かんだのよ」
「なるほどなるほど。そういわれてみると、私もどこかで見たことがあったような気もしますな」
「確かに自分もそれは感じました」
(マスターシュ)黒沢記者もそれに同意する。
「おや、HIGE君もですか。だが、どこでそれを見たのやら……」
「……まあそれはともかく、舞は予想以上に成長していたわ。私もうかうかできないわね」
南は短く答えると治療のためインタビュールームから出ていった。
永沢舞の女王への挑戦はこうして失敗に終わった。いや……まだ始まったばかりというべきだろうか。
「どちらにせよ、これから先も楽しみですな」
「そうですね、楽しみですよ」
スカイブルーのリングはまた新たなる戦いを待っている。