~NEW WIND社長 風間新手記より~
「スリーパースープレックスとは!」
「これはまさか!ですな」
我々二人が驚いたのだから、観客はそれ以上の驚きであったのは間違いない。
「フォール! フォールです!!」
永沢は素早く片エビに固めた。
「ワン! トゥ!」
トニー館のカウントが観客の声にかき消される。
南はまだ反応しない。まさかの女王交代劇か?
「スリ」
「うぎゃあああああああっ!」
だがスリーカウントの代わりに聞こえてきたのは、永沢のうめき声だった。
「脇固め!?」
いつのまにか南は永沢の右腕をサブミッションにとっていた。
「おっ!」
南は永沢の上体を起こすと、流れるように体勢を変え、そのままチキンウイングフェイスロックへと移行した。
「サザンクロスロックの決まりは完璧ですな」
「永沢、ギブアップ?」
トニー館の問いに永沢はあいている左手で拒否の意思を表示する。
「フンッ!!」
南がさらに絞り上げるが、永沢は苦痛に耐えてみせている。
「舞!」
セコンドの伊達が一生懸命に声を絞り出し、両手でエプロンを叩いて鼓舞する。
「逃げなくちゃ……逃げなく…………ち…ゃ」
永沢はちょっとづつ、ちょっとづつロープへとにじりよる。
「甘いわね」
南は左足を永沢の太ももの内側へと差し込み、ステップオーバー式サザンクロスロックへ移行した。
「これでは逃げられませんな」
ダンディさんの言葉通り、永沢の動きは完全に止まってしまった。
「決めろ! 南!」
「耐えろ、永沢!」
それぞれのファンからの声援が、それぞれ南コール、永沢コールに変化するまでさほどの時間を要しなかったことは言うまでもない。
「みっなっみ! みっなっみ!」
「ながさわっ! ながさわっ!」
やや南コールが優勢に聞こえているきもするが、それは私が本部席の赤コーナーよりに座っていたのも影響しているかもしれない。
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