このお話はもう一度あの日のように~再会~後のNEW WINDを舞台にしています。
そして一週間後…私は同じ会場で、今度はプロレスラーとしての藤島瞳を見ることに。
この大会はNEW WINDの17周年を記念する大事な大会であり、そして…伝説の一期生南利美さん、伊達遥さんの一夜限りの復帰という話題性の高い大会。
その大事な大会のオープニングマッチを任された瞳さんは、西陣の高級コスチュームで登場。瞳さんがステージに立った瞬間に溢れ出す存在感。 それに呼応するかのように場内は大きな歓声で瞳さんを出迎える。この時ばかりはスカイブルーのリングへと向かう花道が別のもののように華やかに見えた。
そしてフォクシー真帆さんとの試合では、真帆さんの野性味が瞳さんの華やかさとぶつかり合うことで熱気と生み出し、観客の心を掴むことに成功していた。
「あれがプロレスラー藤島瞳…なんだ。」
「そうよ。あれが藤島瞳よ。瞳は決して強くはないけど自分の仕事は見事やりとげる。それも期待された以上の試合内容を見せてくれる、彼女は本物のプロレスラーよ。アイドル藤島瞳とは一味もふた味も違うけどこれも藤島瞳よ。」
あれだけの試合を見せてくれているのに強くない?私はプロレスの世界の奥深さに衝撃を覚えた。
「試合見てくれた?」
瞳さんはひよっこり私の前に現われた。
「は、はい!すごかったです!」
私は素直な感想を口にする。
「あははっ…私なんて全然すごくないよ。」
瞳さんはあっさりと否定する。
「そんなことないです!」
私はムキになっていた。
「そう?そこまで必死に言われると…うれしいな。でもね、本当にすごいのはこれからの試合だよ。私にはできないことがいっぱいできる人たちばかりだからね。」
瞳さんの表情はさっぱりとしている。
「そりゃね、私だってあんな風になりたいなって思ったりはするんよ。でもねそれは無理なことだから。」
「そんなこと!」
「そんなことあるんよ。彩菜ちゃんにはわからないかもしれないけど、あの人たちと私とじゃモノが違うんよ。」
「そんなっ!」
私は精一杯抗議の声をあげたけど、瞳さんは頭をふった。
「これは間違いのない事実なの。そりゃね可愛らしさでは私は絶対負けへんよ。」
「たははっ…私瞳さんほど可愛いというか綺麗な人見たことないですよ。」
「ありがとう。まあそれはともかく私は団体のエースになれる器ではないの。だから私は私のできることを精一杯やる。ナンバー1であるよりも、オンリーワンの存在でありたい。藤島瞳というオンリーワンの存在でいたいんだ。」
そういって瞳さんはスカイブルーのリングを眩しそうに見つめた。
「瞳さん…」
私は瞳さんの横顔を見つめた。瞳さんの顔には”私もエースにはなりたいんよ”と書いてあるように感じた。
「ほら!彩菜ちゃん、試合見よ。」
「はいっ!」
それから私は瞳さんと二人食い入るように試合を見ました。
はじめて見るプロレスの大会…どの試合も気合が入っていてすごかった。
若手選手からベテランの選手まで、すべての選手が持てる力をすべてを出しつくし観客を魅了していく。その中でもスターライト相羽さんとジーニアス武藤さんのシングルで行われたセミファイナルは、熱い試合だった。
「すごい!すごい!すごい!」
私は興奮しっぱなしだった。相羽さんと武藤さんは”こいつには負けたくない”という気持ちがあるのを私は感じていた。
「お二人は同期やからね~ライバル意識が凄いんよ。」
「ライバル意識ですか~」
やっぱりという感じがした。
「特にお二人のように実力の近い同期だとかなり意識するやろうね。」
なんだか意味深。
「あの…瞳さんの同期って?」
「うちの同期?…うちの同期はさっきの試合に出ていた南智世ちゃんやよ。」
瞳さんの言葉に私は先ほどの試合を思い出す。
「ああ、あのテクニックがすごかった人ですね。」
「そ。あの人は最後の試合に出る南利美さんの妹やし実力は姉譲り。私とは実力が違いすぎるから対抗意識も何もないけどね~。あの子は純粋にすごいと思うし、きっと女王のベルトもとれる人だからね。」
「そういうものなんですか?」
「うん。これが同じくらいの実力だったら意識するんやろうけどね。」
瞳さんはなんだか寂しそうにみえた。
メインのマイティ祐希子さん対ビューティ市ヶ谷さんのタイトルマッチは白熱の試合の末、市ヶ谷さんが高笑いしている間に時間切れという幕切れになってしまった。
「…こういうのあるんですか?」
私は驚いて瞳さんに尋ねた。
「…史上初やないの?」
さすがに瞳さんも呆れている。
「まあ、あのお嬢ちゃんらしいけどねえ。」
「は、はあ…」
らしいといわれても当時の私は市ヶ谷さんのことをあまり知らなかった。まあ、今の私ならその意味はわかるけど…たははっ。
そして…このあとに行われた再会試合は私なんかが語るまでもない素晴らしいものでした。
大先輩のプロレスへの愛情・情熱がスカイブルーのリングを大きな愛で包みこんでいたのがよくわかります。
「…これが先輩達のプロレスLOVEか…やっぱり凄いなあ」
瞳さんは誰もいなくなったリングをずっと見ていました。
「瞳さん…」
「彩菜ちゃんには見えないかな。あのリングの上にはまだお二人がおって、二人ともまだ試合しているよ。」
瞳さんの瞳はうるんでいました。
「あっ…」
私にも見えました。誰もいないはずのスカイブルーのリングの上で、南利美と伊達遥はまだ試合をしていました。
「すごい…」
「すごいやろ。あれが超一流のプロレスラーなんよ。彩菜ちゃんもリングにあがるなら、あの二人を目指さんとな。」
私は自然とコクンと頷いていたんです。レインボー岩城はこうしてプロレスラーへの道を歩み始めるのです。
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