前NEW WIND社長 風間新 手記より
「絶対女王揺らがず」
この見出しを福岡から遠く離れた北海道の食堂でちらりと見かけた。
「強すぎるのもこまりものなんだが……」
私は一人呟き、新聞記事に目を通す。
「ふーむ……圧倒的だったが」
南が女王となって以来、通常の試合はともかく女王戦(タイトルマッチ)において、ベストバウトと呼べるような試合は皆無だった。
挑戦者と女王の力量差がありすぎるのだ。南がいかに完璧な試合を心がけても、この力量差を埋める試合をするのはなかなか難しい。
それをなんとかするのもまた仕事の一つではあるのだが、南はあえて、絶対女王として君臨する道を選んだ。強大な壁として後輩達の前に立ちはだかり、ファンはそれを超えろと挑戦者を後押しするような、そんな存在になろうと。
だが現実には絶対女王南に声援が集中し、ファンはその強さを支持するようになっていったのだった。
ベテランの貫録で女王戴冠を狙おうが、世代交代を目指して若手が挑もうが関係なく、ファンは南を支持し続けている。低迷しているどこかの政権の支持率とは違い、南政権の支持率は圧倒的だ。私達が南を超える選手が出る事を願っても、それが実現しない環境となっている。
だが、このままでよいわけがない。南を超える選手を鍛え上げ、ファンがそれを支持するようになっていかないといけないのだ。
「新たなる風を吹き込めるのは一体だれか……」
今のところそれはまだ見えてはいない。
来月行われる、オールスター興行(最初で最後という意味を込めて”ファイナル・シリーズ”と呼称)でも、南は圧倒的な強さを見せるはずだ。
「超えるのは自団体の選手じゃないと困る。油断するなよ」
私は青空の向こうにいる南へとエールを送った。
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