「軍団抗争ねえ……」
スタッフ会議の中、これまでのNEW WINDにはほとんどなかった議題が持ち上がった。
「ええ。NEW WINDでは基本的に、”個人”の凌ぎ合いがメインです。MAX WINDを頂点とした個人闘争はそのままに、”軍団抗争”をプラスしてみてはどうでしょうか?」
若手スタッフは熱意を込めて自分の主張を述べた。
「……どう思います? ダンディさん」
私は現場監督も兼任する総合コーチに意見を求める。
「経験からの意見でよろしいですかな?」
ダンディさんの言葉に、場の全員が同意の頷きを返す。
「……では、私のプロレスラーとしての経験から申しますと、軍団抗争はあったほうが興行はやりやすいというのは間違いないところです。マッチメイクもやりやすくなります」
ダンディさんはプロレスラーとしては、みずから軍団”須永塾”を率い、終生のライバル関野源吉(かんの げんきち)率いる”関野道場”と長年抗争を繰り広げ、当時の所属団体を支えていた歴史がある。
「……しかしながら、それがNEW WINDに当てはまるかどうかはわかりませんがな。それにファンも軍団抗争を観に来ているわけではなく、個人の戦いを観に来ているというのもありますからな」
「確かにそうですね。今までせいぜいタッグまででしたからね」
伊達&永沢の”師弟タッグ”、上戸&内田の”ジューシーペア”、結城&武藤の”νジェネ”といった、スカイブルーのリングを彩ったタッグチームを思い浮かべる。
「そういった歴史があることは承知していますし、ファンが個人闘争を楽しみにしていることも理解しています。それでも”新たな風を起こす”ためには、軍団抗争は必要だという意見を申し上げているのです」
”新たな風”ときたか……私はこの若手スタッフの言葉に心の中で苦笑せざるをえなかった。なぜなら、私が彼くらいのころによく口にしていたセリフだったからだ。
「……軍団抗争ねえ。今のメンバーでそれをやるのは難しいんじゃないのかな?」
冷静な声で否定意見を述べたのは、私の秘書を務めているOGの武藤めぐみだった。
「だいたいどうやって軍団を作るつもりなのよ?」
「それは構想があります。軍団は二つで、ビューティ市ヶ谷とマイティ祐希子をそれぞれの頂点とし、メンバーには市ヶ谷側に榎本綾・ブレード上原・白石なぎさ・ジーニアス武藤、祐希子側にスターライト相羽・南智美・八島静香・藤島瞳を配します」
と自信満々の表情で軍団抗争を語る。
「それって結局個人闘争の延長よね? ただ単にライバルを二つのチームに分けて配置しただけじゃない」
武藤は相変わらず遠慮なしだ。
「それに、なんかポリシーっていうかカラーってものが感じられないのよね。団体でもそうだし、タッグチームでもそうなんだけど……それぞれのカラーがないと見ていても感情移入はできないと思うな。例えば伊達さんと永沢のタッグが支持されたのだって、二人に”師弟の絆”という二人にしか出せないカラーがあったからでしょ? 」
武藤の厳しい意見に、若手スタッフの顔から自信がみるみるうちに失われていく。
「……そ、そうですね……」
「チーム分けとしては私はありだと思うのだが……」
「社長、甘いです。軍団ってものはそんな安易なものじゃないんですよ」
「……だったら、武藤ならどうするんだ? もし軍団抗争をやるなら、どういう風にする?」
私の切り返しに対し、武藤はどう返すだろうか。
「善悪の抗争ですね。ヒールVS正義って感じで。一番ありふれてるテーマですけどね」
武藤はあっさりと返してきた。
「だが、うちにはヒールはほとんどいないが」
「社長、視野が狭いです。別に自分のところだけで軍団を作る必要なんてないんですよ。最近はフリーランスにヒールの大物が多くいるので、彼女らを起用すればいいんです。ガルム小鳥遊・オーガ朝比奈・フレイア鏡・ライラ神威……彼女らを集めるんですよ。言ってみればヒールを超えたヒールユニット……S・H・U(スーパー・ヒール・ユニット)を呼ぶんです。団体に他の選手があがるとなれば、所属選手からは反発も生まれるでしょうけど、それが新たなる風を巻き起こすことは必至です」
武藤は以前からこのことを考えていたのだろうか。
「ということは、NEW WIND VS S・H・Uということになるのかな?」
「まあ、それでもいいですし、別にユニットを作ってもいいと思いますよ。うちの新星ジャスティス越後などを使ってね」
この会議の後、ジャスティス越後率いる正義軍ジャスティス5と、S・H・Uが誕生することになる。