市ヶ谷はフォールに行ったが、榎本はカウント2.5でキックアウト。
「ま、まだ……だもん」
その後も榎本は何度も何度も果敢に反撃に出たものの、市ヶ谷の重い一撃を喰らってはダウンの繰り返しになってしまい突破口を見いだせない。
「くっ……なかなかしぶといですわね」
一方の市ヶ谷も体格・体力・経験で劣る榎本を攻めきれない。ビューティーサンダーやビューティボムをはじめとしたフィニッシュホールドを決めているにも関わらず、3カウントを奪うことができないでいた。
たぶん市ヶ谷と組む前の榎本ならとっくに終わっていたのだろうが、ずっと市ヶ谷にくっついて? 引き連れられて? トップ戦線で戦い続けるうちに鍛えられていたのだろう。
「もちろん、それだけではありませんがね」
やはりというべきか当然というべきかダンディさんも気づいているか。ま、素人の私がわかっているくらいだから当然だな。
なぜ市ヶ谷が決めきれないかといえば、最大の理由は”片腕”で試合をしているということだ。試合開始前の宣言通り、いまだ市ヶ谷は左腕一本で試合をしている。
必殺の威力を持つビューティサンダー(ラリアット)も本来の右ではなく、”左”で放っているし、のど輪落としも、ビューティボムもすべて利き腕ではない左腕で仕掛けている。もちろん利き腕ではないといっても規格外のパワーを持つ市ヶ谷が仕掛けるわけだから、並みの中堅・若手レスラー相手なら、十分フォールをとれる威力はある。 まあ、それをさせない榎本も並みではないということになるわけだが……。
それともう一つ見逃せないのは”疲労”だ。市ヶ谷なんども榎本を投げたり持ち上げたりしているが、いくら榎本がNEW WIND所属選手の中で一番軽いとはいっても、50キロ弱はある。
一発一発技を決めるたびに、確実に市ヶ谷にも疲れはたまる。その分若干ではあるが高さが低くなったり、スピードが落ちたりして技の威力そのものが弱くなっているのだろう。
たぶんそんなことを言っても市ヶ谷には否定されるだけだろうが、実際見逃せない点だと私は思う。その部分に榎本が気付は、より試合は面白くなるのではないだろうか。