~NEW WIND社長 風間新手記より~
「いい加減にっ!」
市ヶ谷は華奢な榎本の腕を掴むと、強引にロープへと振った。
「うわああっ!」
疲れの見える榎本はよたよたとロープへ走り、反動で戻ってくる。
「らああああっ!」
左腕でのラリアット!
「!」
「あぐううっ!」
決まったかと思ったが、うめき声を上げているのは市ヶ谷の方だった。
「なっ、脇固め!?」
「これは、綺麗に入りましたな……」
私もダンディさんもまさかの出来事に驚き、思わず腰を浮かせてしまった。
「榎本、絞れ~~!!」
「離すなっ!」
一瞬あっけにとられていた観客も状況を理解し、声援を飛ばし始める。
「しかし……初めてですな。榎本が脇固めを披露するのは」
「ええ。スパーリングでも見たことないですよ」
それにしては完璧な決まり具合だ。いったい誰がレクチャーしたものなのだろうか。
「ぐあああああっ……」
市ヶ谷も予期せぬ技に対処できず、リング中央でただうめき声をあげるのみだ。
「市ヶ谷、ギブ~?」
覆面レフェリー、ミスターDENSOUが市ヶ谷の意思を確認する。
「いうまでもなくノーですわ。こ、この程度の技で……ぐあっ……」
「麗華様、早めに降参したほうが楽だよ~。えいっ!」
「くあっ……」
苦しむ市ヶ谷だが、体力の違いを活かし徐々にロープへと迫っていく。
「む、む~う」
榎本も一生懸命に絞るが、やはり体力の違いはいかんともしがたく、時間はかかったもののロープブレイクを許してしまった。
「決まっても面白かったんですが、さすがに市ヶ谷ですな」
「……これでこの試合さらに面白くなりますね」
市ヶ谷のは左腕をかなり気にしている。普段そういう素振りを見せることはないので、これはかなり効いているのだろう。
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