NEW WIND社長 風間新~手記より~
※なおレッスルエンジェルスサバイバー1版NEW WIND編の大幅改訂版となります。
「……お願いします」
伊達も素直にそれに応える。この光景に場内から拍手……が起こる前に、「ぐあっ!」という伊達のうめき声が場内に響いた。
「……おおっ!!」
一瞬の間の後にどよめき。南は握手と見せかけて、飛びつき腕十字を決めていたのだ。
「ぐっ! くあっ!」
完全に油断していたのだろう。飛びつき腕十字は完璧に極まっており、伊達の右腕が伸びきってしまっている。
「伊達、ギブアップか?」
ダンディさんの問いかけに、伊達は首を横に振り、拒絶の意志を示す。
「遥さん、逃げて!」
セコンドについている永沢舞がエプロンマットをたたく。
「させるかっ!」
南は技を脇固めに移行。さらに腕を絞りあげる。
「短期決戦狙いか」
「そのようですね。南の脇固めもこれで見納めなんですね。昔はよくこの技で決まってたことを思い出します」
いつもならダンディさんが私の隣に座っているところだが、今日はリングアナの仲間君が座っている。
「確かにそうだったな。……つまり伊達も慣れているってことだが」
不意を突かれた飛びつき腕十字に比べれば、はるかに対処しやすいのだろう。この後、伊達はあっさりとロープブレイクしてみせた。
「……残念。完璧にはいかないわね」
その言葉とは裏腹に笑みを浮かべる南。自分のスタミナを考えての奇襲攻撃だったと思うが、さすがに最後の試合がこんな形で終わることは望んではいないだろう。
「……やってくれる……でも……南さんらしい……」
ダメージを受けた右手を抑えながら、伊達はゆっくりと立ち上がる。
「このっ!」
伊達の右ローキックが南の左腿を打ち抜く。
「くっ……」
威力に顔を歪める南だったが、すぐに同じく右ローキックを返す。
「うっ……」
南のキックの威力もそん色ない。思えば南がキックの練習をしている風景はあまりみたことがないが、きっと伊達との対決を通じてマスターしていったのだろうな。
「遥っ!」
数度のキック応酬から、南は距離を詰め逆水平チョップ! 重いチョップは伊達の胸板を打ち抜く。
「うぐっ……のおおっ!」
伊達も想いを込めた逆水平を返す!
「このっ!」
「らあっ!」
二人のチョップが放たれる度に、ダンディさんが満足そうに頷く。
……そういえば、二人がダンディさんに最初に教わった技はこの逆水平チョップだったな。
「よいですかな? チョップは腕力がものをいうのではないのです。気持ちを込めるからこそ威力がでるものであり、ファンの皆様にもそれが通じて心に響くのです」
あの時のダンディさんのセリフを聞いてきょとんとした二人の顔を思い出すな。
あの時はわからなかっただろうけど、今は二人はそれをしっかりと実践している。単純な腕力だけなら、若手のホープの吉田龍子がはるかに上だが、この二人のチョップの重さには勝てないだろう。それだけ想いのこもったいいチョップを放っている。
「だてええっ!」
南が伊達の頬を張る。
「みなみいっっっ!」
伊達も張り返す。
「このおおお!」
さらに張り返す南。伊達もやり返す! 強烈な一撃にお互いたたらを踏むが踏みとどまり、さらに強烈な一撃をお見舞いしあう。もはやこれは張り手の打ち合いなどではなく、意地の張り合いというべきものだろう。どちらも”絶対に先には倒れない”という気迫がにじみ出ている。
「このおおおおっ!」
「……このっ!」
お互い倒れないとみた二人は、張り手の打ち合いをあきらめ、ここで力比べに入る。
「ぐぐぐっ……」
「……くおっ!」
力比べは序盤は互角と見えたが、時間が経過するにつれ、やはりパワーに勝る伊達が有利な優勢になっていく。だが、南にはパワーを補うテクニックがある。
「くっ……ハッ!」
南は押し込まれた勢いを利用し、スモールパッケージホールドで切り返す。
「ワンッ! トゥ!」
さすがにこれはカウント2で返すと、伊達は起き上りざまに水面蹴りで先に起き上った南の足を払った。
「うっ……」
反応が一瞬遅れ、南は足を払われてバランスを崩し、片膝をついた。
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