※なおレッスルエンジェルスサバイバー1版NEW WIND編の大幅改訂版となります。
セミファイナルが終わった後の15分休憩が終わりに近づき、席を立っていた人が続々と席に戻っていく。その流れが落ち着いたところで場内の照明が落ち、センター後方に位置するオーロラビジョンに”南利美ファイナルマッチ”の文字が浮かびあがる。
「南~っ!」
「南さ~ん!!」
場内から大きな歓声が沸きあがる。
「南利美は、NEW WINDの一期生として、旗揚げ戦でデビュー。変幻自在のサブミッションを武器に新人とは思えぬ動きを見せ、旗揚げシリーズの最終戦では、早くもAACジュニア王座に挑戦。惜しくも敗れはしたもののその才能の片鱗をみせた」
ビジョンに映し出されたのは、まだ”紫色の水着”を着用していたデビュー直後の南の姿。技のフォームなどは一見すると今と同じであるが、やはりまだ粗さが目立つな。
初めてベルトをとった時の南……、伊達とのタッグで活躍していた南……、伊達と頂点を争っていた南……、世代交代を狙った2期生カンナ神威、草薙みこと、さらには3期生結城&武藤のνジェネとの死闘……。激闘の数々が映し出されそのたびに大きな歓声があがる。南が多くのファンから愛されていたことがよくわかる。
「青コーナーより、【偉大なる鳳凰】伊達遥選手の入場です」
場内に響いたのは仲間リングアナの声ではなく、私……風間新の声だ。この試合は、私が特別にコールさせていただくことになっている。
重みのあるイントロが終わり、曲調が明るくなると同時に、黒を基調にしたガウンを纏って伊達が花道へ姿を現した。その背中には鳳凰と、星で形づくられた十字架が描かれている。
「おおっ!」
ビジョンにガウンがアップで抜かれると、場内からはどよめきがおこった。
(あれは伊達と南が組んでいた時のガウンか……)
もしかしたら、伊達は最後はシングルでなく、南とタッグを組みたかったのかもしれないな。
「続きまして、赤コーナーより【関節のヴィーナス】南利美選手の入場です」
南のテーマ曲が流れると、場内からは大みなみコールが巻き起こった。
「みっなっみ! みっなっみ! みっなっみ!」
いつもよりゆっくりと花道に姿を現した南は、純白のロングガウン姿。その背中にはNEW WINDのシンボルカラーであるスカイブルーで描かれた南十字星がきらめく。このガウンを着るのは今日が最初で最後だろう。
「お待たせいたしました。只今より本日のダブルメインイベント第1試合、『南利美ファイナルマッチ』時間無制限一本勝負を行います。……青コーナー、宮崎県出身『偉大なる鳳凰』伊達はる~か~~!!」
伊達は静かに右手を突き上げ、南をにらみつけた。南はそれをじっとにらみ返している。
「赤コーナー、高知県出身 『関節のヴィーナス』みなみ~とし~み~~!!」
紫色の紙テープがリングへと雨のように降りそそぐ。
「レフェリー、ダンディ須永!!」
「ダンディ~!」
場内のコールに張り切るダンディさん。さてダンディさんのボディチェックが始まると私のリングアナとしてのお仕事は一旦終わりだ。私は本部席で待つ仲間リングアナのとなりへと坐る。
「ちゃんとできていましたよ、社長。しかも私のコールとは違うアレンジ加えましたね」
「ありがとう仲間くん。仲間くんと同じじゃ面白くないからね」
「OK、GO~~~!!」
ダンディさんの合図を受け、仲間リングアナが”終わりを告げる”始まりのゴングを鳴らした。
この試合は無制限一本勝負だが、たぶん勝負タイムは長くはならないだろうな。南は衰えを自覚して引退するわけであるし、完璧主義の南のことだ。長い時間をかけて、無様な南利美の姿をみせるよりも、短い時間の中で、光輝く南利美の姿をみせる方を選ぶだろうから。
「よろしく!」
南はすっと右手を差し出した。ライバルとの最後の対決だ。この握手にもいろいろな意味があるのだろう。