新たなる風のはじまり~ファイナルマッチ~
NEW WIND社長 風間新~手記より~
※なおレッスルエンジェルスサバイバー1版NEW WIND編の大幅改訂版となります。
「みなみっ! みなみっ!」
大声援に支えられながら、南は立ち上がる。ダメージは隠せず、すでに大きく肩で息をしているが、目はまだ輝いており、闘志はまだ失っていない。幾多のピンチを乗り越えてきた南のことだ。まだ、ここからだろう。
「……そうこなくちゃ……」
伊達はかすかな笑みを浮かべたが、すぐにそれを消し、右のミドルキック!
「!?」
が、伊達のキックは誰もいない空間にを虚しく切り裂くだけになってしまった。
「おおっ!」
ミドルキックに合わせ、カウンターのドロップキック!
「ぐっ……」
伊達はこの攻撃は予想していなかったのだろう。モロに顔面にくらい、大きくバランスを崩してしまった。
「うらああっ!」
素早く起き上った南は、隙を見逃さず、すかさず右の裏拳を叩き込み、さらにスタンディングの変形チキンウイングフェイスロック……サザンクロスロックを決めた。
「あうっ…」
技自体は完璧な形で決まったが、いかんせん場所が悪い。伊達の長い足がロープへ届き、ロープブレイクが命じられる。
「はるかあああああっ!」
南は技を説いたが、すぐにジャーマンクラッチに移行、ロープへと逃げて油断していた伊達の体をきれいなジャーマンスープレックスホールド!!
「おおおっ!」
「ワンッ! トゥ!」
だがこれはカウント2.5。やはり不死鳥とも呼ばれる、驚異のスタミナと打たれ強さを誇る伊達から3つとるのは簡単ではない。
「このっ!」
「ぬんっ」
南の腹部に膝を叩き込んで動きをとめると、伊達は素早く南のバックに回り右腕をチチンウイングに、左手をハーフネルソン気味に決めた。
「ああああああっ!」
南ファンから悲鳴があがる。この体勢から放たれるのは、この団体のファンにはお馴染みのあの技しかない。
そう……伊達が愛弟子である永沢舞に授けた必殺技”テキーラサンライズ”だ。
「決めて、遥さんっ!」
永沢の声にこたえるように、伊達は南を再度スカイブルーのマットに突き刺した。先ほどよりも急角度、受け身の取りづらい体勢での一撃。さすがにここまでかっ?
「ワンッ……トゥ……スリ」
だがしかし、南はカウント2.99で肩を上げる。南利美はまだ終わらない。
「まだだ……まだ終われない……」
執念を見せる南。片膝立ちになって、立ち上がろうとする。
「くっ……このおおっ!」
伊達はこの一瞬を逃さない。南の足を踏み台にして、必殺のシャイニングフェニックス!!
「やっ!」
だが南はその膝を受け止め、高速のサザンブレイカー!(南式ドラゴンスクリュー)
「あぐあっ!」
南は、さらにこの試合二度目のネオ・サザンクロスロックを決める!
「みなみっ! みなみっ! みなみっ!」
南利美の最後の試合、勝利で飾って欲しい!という皆の想い。その想いを受けて、渾身の力で絞り上げる南。声援に応え、南は残り少ない力を振り絞る。
「伊達、ギブアップか?」
ダンディさんの問いかけに、伊達は指を振り拒絶の意志を表明。
「みなみ~っ!」
これで決めてくれというファンの叫び。南も最後の力を振り絞ってもう一度締め上げる。
「くああああああっ!」
「みなみっ! みなみっ! みなみっ!」
「だて~~~! 負けるな~!」
両者に大声援が送られる。絞る南に耐える伊達。伊達は苦しみながらも徐々にロープへとにじり寄る。この攻防もこれが最後になるのか……。
「おおっ!」
耐えきった伊達がついにサードロープを掴んだ。
「やったああ!」
「ああ~っ!」
永沢の喜ぶ声と、ファンの落胆の声が入り混じる。
「くっ……」
「ハッ!」
さすがに大きなダメージを受けた伊達だったが、技を仕掛けていた南よりも早く立ち上がると、南の起き上りに合わせ、強烈な右ハイキック!
「あぐっ……」
南はかろうじて腕でガードしたものの、伊達のキックはガード越しでも十分に効く。南は、がくりと片ヒザをついてしまった。
「……みなみいいいいっ!」
伊達は珍しく南の名を叫ぶと、必殺のシャイニングフェニックスを再び放った。重く、魂の込められた一撃。説得力は十分だ。
「ああああああっ!」
ファンの悲鳴があがるなか、南はゆっくりとスローモーションのようにスカイブルーのマットへと沈んでゆく。
「フォール!!」
伊達は両腕で抑えこむ。
「ワンッ! トゥ!」
ぴくりともしない南。カウントを取るダンディさんは、3度目の右手を振り下ろす前に、かすかに首を横に振った。
「ああっ……」
その瞬間、場内のファンからは悲鳴とあきらめが入り混じった声があがる。これはファンもよく理解しているのだな。ダンディさんの首ふりは、完全に返せないとダンディさんが判断した時に出るものなのだと。なお、これはダンディさんがレフェリングを教えたトニー館レフェリーにも共通する動作である。
「南、返せっ!」
と普段ならあきらめないファンから声が飛ぶところだが、今日は静かに、……まるで儀式のようにダンディさんの右手が3度目のマットを叩くのを皆見つめていた。
バンッ!!
「スリー!」
そして3カウントが入った。
この瞬間プロレスラー南利美の魂が、スカイブルーのマットへと吸い込まれたのが見えたような気がした。
プロレスラー南利美は、今ここで役目を終えたのだ。
「ただいまの試合は、11分11秒、11分11秒……シャイニングフェニックスからの体固めで、勝者伊達遥!」
伊達はフォールしたまま動かない。肩が小刻みに震えている所を見ると泣いているのだろう。
南の右手が伊達の頭を優しく南が撫でた。お互いに言葉を交わしているようだが、その言葉は拾えない。その南の口元には満足そうな笑みが浮かんでいた。まあ、目はちょっとだけ悔しそうではあったが……。