NEW WIND社長 風間新 手記より
改訂版発行にあたり、編集部よりご挨拶。
この作品は連載126回で終了した長編リプレイ『NEW WIND社長 風間新 手記』に大幅な加筆・修正を加えた作品です。
以前の作品と比べると印象が変わる部分もあるかもしれませんが、より深みを増した風間新社長率いるNEW WINDの成長物語を楽しんでみてください。
(※今回はNEW WIND編のその67「夢を信じて」に該当するお話です。)
◇7年目5月◇
NEW WINDは旗揚げ記念興行を控えている。さらにWWCAとの契約は満了を迎え、ついでにTV局も更新の時期を迎えていた。
「金かかるなあ・・・」
私は帳簿と睨めっこをしながら頭を抱えていた。
「別に単独で興行を打っても埋まるとは思いますけれど。」
秘書の井上さんは常にクールだ。
「確かにその通りだけどさ、何かパンチが足りない。」
「はあ。単独でうちより上の陣容を誇るプロレス団体は、男子のメジャー団体くらいですよ。」
「それはわかっているが、単独だと刺激が足りないからね。どこかと提携したいのだが、AAC→EWA→WWCAと順当にステップアップしたからね。いまさらGWAやTWWAというわけにもいかないだろう。」
「ではIWWFですか?」
「だな。オファーしてみ・・・」
トゥルルルル・・・トゥルルルル…まったくタイミングのよい電話だ。
「はい、NEW WINDでございます。」
井上さんが余所行きの声で応対する。
「社長、大日本TVからお電話です。」
「大日本TV?!」
私は声が上ずり、心臓がドキドキし始めたのを自覚していた。
大日本TVからの電話は放送契約と、IWWFとの提携の斡旋だった。大日本TVで、NEW WIND中継をする条件としてIWWFとの提携を求めてきた。ネームバリューがあれば確実といいたいのだろう。
まあ、おかげでIWWFとの提携には成功したし、月2回とはいえ全国ネットで中継されるのは大きい。選手達を紹介するトーク番組も月1回で組んでくれたし・・・かなりの好条件。期待に応えるように頑張らないとね。
「すげえな。ついにきたか。」
「全国ネットなら、ド田舎のマッキー先輩の地元でも中継されますもんね。」
「こら武藤!事実だけどよ・・・」
「一部地域を除くにならないといいけどね。」とラッキーが笑う。
「こら、ラッキーお前まで・・・」
「草薙流の伝承者としては恥ずかしい試合をお見せできませんね。」
全国ネットならみことの実家でも見ることができるだろうな。
「全国ネットなんて夢みたいですう。」
「夢・・・じゃないよね。」
「信じていい話なのですか?」
反応は様々だが、嫌がる者はいない。
「大日本TVでの中継、IWWFとの提携・・・旗揚げした頃は夢でしかなかった。いつかは実現したいと思っていた夢。ありがとうみんな。でもこれがゴールじゃない。もっと上へ行こう!」
あれ・・・反応がない。
「社長・・・熱くなりすぎよ。」
南に突っ込まれる。
「そうそう、引いちゃうぜ。」
「そうですよ、社長。」
「まったくだ。」
「年考えてくださいですう。」
ガーン・・・
「なんてね、冗談よ。」
この南の言葉に選手たちが一斉に笑う。
夢といえば有明大会のメイン。IWWFタッグ王者 ルミー・ダダーン&レッド・フェンリル組に挑むのは南&ハイブリットの南姉妹。ハイブリットの成長を感じたことと、南の希望もあっての挑戦。今の二人のレベルなら取れるだろうと思っていたのだが・・
「31分30秒・・・パイルドライバーからの体固めで勝者 ルミー・ダダーン!」
まさかの敗退劇に観客も声をなくす。私も勝てると思っていただけに言葉にならない。
合体パワーボム、ラリアート、パイルドライバーと鮮やかに力で押し切られ、ハイブリットがフォールされてしまったのだ。
「・・・」
南は無言で右手の人差し指を立てる。もちろん意味は『もう一度』だ。
ルミーはにたりと嫌らしい笑みを浮かべ、マイクを要求する。
「日本では物を頼むとき・・・『ドゲザ』するんちゃいます?ウチ、ドゲザ見たことにないねん。トシミ、ここでドゲザしてみいや。」
勝ち誇るルミーは南を挑発。
「こ、この!」
ハイブリットがいきり立って殴りかかろうとするが、南が腕でそれを制す。それを見てハイブリットを止めようとしていたセコンドたち、および殴りかかろうとしていたマッキーが動きを止める。それらを一瞥した南は、ルミーを一瞬キッと睨みつけると、迷わずリング上で土下座をしてみせた。
「お願いします。」
これには会場中がしずまり返る。
「これがドゲザいうの?・・・ノンノン・・・トシミ、ちょっと違うんちゃうの?」
ルミーは右足で南の頭を踏みつけるとグイグイと押し込む。
「確かこうやったはず。『ズガタカイ』というやつやな?」
「こ、この!」
マッキー、ハイブリット、吉田が飛びかかろうとするが、南から放たれる無言のプレッシャーに動きを止める。
「お願いします。」
南は額を擦り付ける。
「あっはっは。いい格好や、トシミ。」
ルミーは勝ち誇る。
「OK、受けてやるね!」とルミーがいった瞬間、ルミーの体がクルンと横回転してリングに横たわる。
南がルミーの右足を素早くとってサザンスクリューを決めたのだ。
「言質さえとれば言う事をきく必要はないわ。」
この後IWWF勢との間で乱闘が始まったのは言うまでもない。
「よく我慢したな。」
「まあね。言質とるまでは言う事をきいてあげようと思っただけよ。」
南の雰囲気はちょっといつもとは違う。
「どうしてそこまでした?」
答えはわかってはいたが、あえて聞く。
「社長も意地悪ね。わかっているのにあえて言わせる気?」
「まあな。」
「時間がないからというのが一つ。私、今日の試合ではっきりとわかったの。衰えが試合に影響をし始めていると。」
南は真剣な表情のままだ。
「そうか。やはり・・・」
「息があがるのが早くなっているし、跳躍力や瞬発力も自分のイメージどおりにはいかないの。」
「それだけで、あんなことをする南利美ではないだろ。」
私は問うた。
「・・・夢よ。」と南は呟くように言った。
「夢か。」
「ええ。夢・・・私はあの子がプロレス入りした時から心の中で思い描いていた。」
「その夢は、二人での・・・」
「そう、タッグ王座戴冠。」
やはりそうか。
「・・・」
「あの子はまだ荒削りだけど、確実に成長したわ。これから先もっともっと強くなるはず。でも、その頃には私はリング上にいないわ。」
南から出たこの発言は私の心に響いた。
「だから、私が先輩トップレスラーでいられるうちにやっておきたいの。もうその時間は残り少ないけれど。」
南の瞳は決意を映し出していた。
「エンジェルの翼がボロボロになる前に・・・か。」
「社長ったら、ロマンチストね。私が天使かどうかは知らないけど、まだ私は飛べるわ。私の翼はまだ、折れていない。ちょっぴり破れた翼ではあるけどね。」
南は両腕を交差して、自分をぎゅっと抱きしめる。この時、彼女の腕の中にエンジェルの翼が見えた気がする。7年というレスラー人生の中で輝いていた南の翼。
その輝きの数だけ傷ついた南の翼。輝きを放てる回数はもうそんなに多くないだろう。
「南、夢をかなえろよ。」
「私の夢はこれだけじゃないから・・・まだあるから。来月、姉妹タッグでの王者戴冠を叶えて・・・そしたら・・・最後の夢を信じて頑張るだけよ。」
そういって笑った南の顔は、とても綺麗だった。
「天使・・・ね。」
この時の南の表情は私の脳裏から消えることはなかったのである。
NEW WIND6月興行にてリマッチ決定!!
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