NEW WIND社長 風間新 手記より
改訂版発行にあたり、編集部よりご挨拶。
この作品は連載126回で終了した長編リプレイ『NEW WIND社長 風間新 手記』に大幅な加筆・修正を加えた作品です。
以前の作品と比べると印象が変わる部分もあるかもしれませんが、より深みを増した風間新社長率いるNEW WINDの成長物語を楽しんでみてください。
(※今回はNEW WIND編のその68「夢」に該当するお話です。)
◇7年目6月◇
新世代の成長を促すべくチャレンジマッチを多数組んでみる。
一期生の中心だった南の衰えが目立ち始め、伊達以外のメンバーの成長は頭打ち。
ただ一人、伊達がエースとしてトップ戦線で活躍しているが、1期生の活躍できる時間は残り少ない事に変わりない。
ウチの所属選手は一期生が一番多い5人で、2期生・3期生がそれぞれ二人。以下4期生以降は1人ずつという構成になっている。年齢的に1期生に上積みは見込めないし、もう成長のピークは過ぎているし、これから先、南のように衰えを見せ始める可能性の方が高い。
2期生&3期生の4人(カンナ・みこと・結城・武藤)はまだ成長中で、あと2,3年は能力をキープできるだろうか。この4人を脅かすような後輩が現れてくれれば面白くなるのだが、4期生永沢、5期生吉田、6期生ハイブリットはまだまだそこまで達していない。この3人の成長に、そして未来のNEW WINDはかかっている。
6期生ハイブリットの対戦相手は、関節技を得意とするラッキーとカンナ。この二人との対戦を通じ、試合運びやハイレベルな関節の攻防を学んでもらいたい。
5期生吉田は、同タイプのルミー・ダダーンとのシングルの他、メインイベンターである伊達と武藤とのシングル戦を組んだ。未来のメインイベンター候補生として、メインイベンターから多くのものを学んで欲しいと思っている。
永沢は、みこと、モーガンそして師匠の伊達とのシングル。どれも勝利するには難しい相手ではあるが、今の永沢はこの3人を倒すだけのポテンシャルは秘めていると思う。
3人に共通していることではあるが、『先輩に対する遠慮』これを取り払うことができれば、勝利できるだろう。
なお、『AAC認定世界タッグ選手権試合』王者伊達&南には、みこと&氷室が挑戦、『IWWF認定世界タッグ選手権試合』では南&ハイブリットが挑戦。そして『IWWF認定世界ヘビー級選手権試合』王者モーガンに、南の挑戦を予定している。
かなり南に偏った編成ではあるが、残り少なくなった彼女のレスラー生活・・・悔いのないようにしてあげたい。
☆『カミカゼ』☆
古の時代、元の国に攻め込まれ存亡の危機を迎えた鎌倉幕府軍だったが『神風』によって、二度まで撃退に成功したという。この故事にならっての命名である新世代チャレンジマッチ『カミカゼ』決してファイアーマンキャリーの体勢から走りこんで前方回転する技ではない。
(なおコーナーからのカミカゼは『超カミカゼ』という。)
『カミカゼ』のオープニングマッチは、ハイブリット南VSラッキー内田。
すでにラッキーは永沢・吉田にシングルで敗れており、ここでハイブリットにまで負ける事は許されない状況だ。ラッキーはここ数年、タイトルマッチどころか、メインイベントからも遠ざかっており、ここで踏ん張れないようだと、居場所がなくなってしまう可能性がある。
「負けるわけにはいかないんです。」
気合を漲らせてリングへと向かったラッキーだったが、時間切れ引き分けに終わる。
正直なところ、この引き分けはラッキーの負けに等しい。ラッキーもそれがわかっていて、かなりのショックを受けたようだ。
「絶対勝たなければいけない試合だったのに・・・」
これだけコメントすると、ラッキーは右膝をそっと撫でた。
『勝つ』ではなく、『負けるわけにはいかない』というマイナスの気合の入れ方がこういう結果を招いたのかもしれないな。
ルミーと吉田はパワーに関してはまったくの五分なのだが、二人には決定的な違いがあった。それは『バランス』だ。
これは以前永沢も指摘されたことがあるが、吉田も得意のパワー技だけが突出し、他の技が上手く使えない。これでは試合の創り方のバリエーションが少なく、相手に読まれやすいのだ。結局、バランスのよさで上回るルミーが主導権を握り、最後までパワーに固執した吉田は、まったく本領を発揮できずに、ルミーの裏拳3連発に沈んだ。
予想を上回るパフォーマンスを見せる永沢は、みことに投げ技を出す余裕を与えず、一気呵成に攻め込む。しかし、キャリアで上回るみことは、草薙流蛇がらみ(草薙流コブラツイスト)で長時間捕獲に成功。これで、永沢はスタミナ一気に消耗してしまったようだ。
こうなると地力に勝るみことが試合を完全に支配する。一発目の草薙流兜落しがカウント2で返されると、もう一度兜落しを放つ!しかしこれはカウント2.5。追い詰められた永沢が不用意に起き上がったところに、『ジャンピングネックブリーカー』を叩きこみ、みことの勝利。
「舞さん、強くなりましたね。でも私はまだ負けません。次も楽しみにしています。」
みことは永沢の成長を感じたのだろう、晴れやかな顔をしている。
「勝てなかったのは悔しいです・・・でも・・・次は絶対ゼッタイ勝ちます!」
このあたりまでは見せ場もあったのだが、これ以降のカードは現状での力の差のみを見せつけられる形となってしまった。 人とも確かな成長は見せているけれど、まだ上位との差は開いたままだ。『カミカゼは吹かず』 今後の3人の成長を期待しようと思う。
なお、南はモーガンに敗れ、IWWF王座の奪取はならなかった。
☆『AAC認定世界タッグ選手権試合☆
「・・・南さん、ダメージは・・・・大丈夫?」
「・・・大丈夫よ。モーガンはすごい力だったけどね。心配いらないわ。」
伊達が気遣ったのは、数日前のモーガン戦のダメージである。
南はモーガンの持つIWWF王座に挑戦したものの、パワーに粉砕されたのだ。
「それよりも、紫月が怖いわ。油断しないでね。」
「・・・うん。」
王者伊達&南に挑むのは、みこと&氷室。氷室は久しぶりの王座戦となる。もしかするとこれが最後のチャンスかもしれない。それがわかっているからこそ、氷室がハッスルし、それにみことが呼応する。二人は南をターゲットに息の合ったコンビネーションを披露した。
南も切れのある関節技で反撃したが、孤立させられてしまい万事休す。
最後はみことの隠し技『草薙スペシャル(変形ストレッチプラム)』で南がギブアップ。
氷室はレスラー生活7年目にして初のタイトル獲得となった。旗揚げから一緒に頑張ってきた氷室の、7年目の初戴冠。正直なところ、ほっとしたよ。
映画『女子プロお嬢様伝説ユイナ』で氷室がベルトを巻いている姿を見た時に、この子にもベルトを巻かせてあげたいと思ったものだ。
「やっと取れました。これも運命です。」
氷室のコメントに場内から笑いが漏れる。これで氷室も『映画でしかベルトを巻いた事がないレスラー』からの脱出に成功だ。
☆『IWWF認定世界タッグ選手権試合』☆
カウント2.9の攻防戦となったこの試合。終盤、流れは王者組へと傾いたかに見えたのだが・・・ハイブリットのネオ・サザンクロスロックでルミーが動けなくなってしまうと、ハイブリットはルミーをリング中央に引きずってから南にタッチ。
勝利の予感に会場が沸き立ち、大・南コールを受けてリングインした南は、期待に応えて、元祖ネオ・サザンクロスロック!戦闘意欲を失っていたルミーは即ギブアップを宣言。
「39分24秒、39分24秒 ネオ・サザンクロスロックで勝者、南利美!!」
ほぼ会場はオールスタンティング状態。南&ハイブリット南の南姉妹がタッグタイトルを戴冠。なるほど・・・夢を信じて・・・か。
「応援ありがとう!このハイブリットがデビューした時、私は複雑な想いで一杯でした!でも、今は感謝しています。」
南のマイクに客席が沸く。
「ハイブリットがデビューしてくれたから、私たちは・・・今タッグのベルトをとることが出来ました。私のプロレス人生・・・幸せです!」
しっかりと抱き合う姉妹の姿に拍手の雨が降り注ぐ。セコンドについていた選手たちの中には涙を流す者までいた。
☆試合後☆
「私はまだまだやれると思っていますし、ここが終わりじゃありませんよ。」
ガールズ・ゴングのO坂記者から「ここを花道に引退するのか?」という質問を受け南は笑う。
「まだこの子に教えることもあるしね。まだまだ辞められないわよ。」
「南利美が引退する時は私に負けた時だから。望むのならいつでも負かすわ。」
ハイブリットはいつもの調子だ。いくら見た目が似ていても性格は違うからねえ。
「まだまだ負けないわ。」
「言ってなさい。完璧なギブアップで勝ってみせるわ。」
「とにかく、私にはまだ夢があるから。それを達成するまでは現役でいるわ。」
PR