ＮＥＷ　ＷＩＮＤ

～ＮＥＷ　ＷＩＮＤ社長　風間新手記より～

「完璧に極まっていますな」
　榎本に教えた張本人のダンディさんはどことなく満足そうにみえる。
「ですが、相手は……」
「市ヶ谷ですからな」
　榎本の技の入りは完璧に近いが、この程度で終わる市ヶ谷ではない。
「おーほっほっほ。この程度っ！」
　市ヶ谷は技を決められたまま、腕力で榎本を持ち上げる。
「う、うそっ？」
「ほんとですわっ！」
　一瞬ひるんだ榎本の隙をついて、のど輪に切り替えスカイブルーのマットにたたきつける。
「ぎゃうっ……」
「ふんっ」
　榎本の小柄な体を右足で踏んづけてフォール。
「わ～ん～！　トゥ～～！　す」
「ま、まだだもんっ！」
　カウント２．８で返した榎本は、市ヶ谷の右足をつかみながら起き上る。
「？」
「このおおおっ！」
　起き上りざま、ドラゴンスクリュー！
「あ、あれっ？」
　技が決まったかと思ったが、回転したのは榎本の体だけだった。
「何をしているんですの？」
　どうやら踏んばられたことで回転させることができず、勢いあまって自分だけ回転してしまったようだ。
「うーっ……麗華様のイジワルっ！」
　榎本はぷく～っと頬を膨らませる。
「いつも技が成功するとは思わないことですわ」
「うーっ！」
　榎本はまたも頭から突っ込んでいく。
「あら、またそれですの？」
「あうっ……」
　市ヶ谷は榎本の突進を左手で受け止め、ブレーンクロー！
「ほほほ。たわいもない」
「あぐううぐ……」
「ふんっ！」
　一瞬で榎本の体が一回転する。
「頭をつかんでの……」
「ドラゴンスクリュー？」
　相手の首をつかんで繰り出す技は見たことがあるが、ブレーンクローの状態から回転させるというのは初めてみたな……。いくら小柄な榎本が相手とはいえ、片手でこの技を決めることができるのは市ヶ谷くらいのものだろうな。