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2024/04/26 07:14 |
イナエさんの投稿作品 その3「ギブアップ」
 『コレクターズ』軍団長イナエさんの投稿作品第3弾となります。
 単独作品としても楽しめるようになっているそうですが、第1弾・ライバル第2弾・パートナーを読まれてからの方がより楽しめると思います。


3.ギブアップ

関節の女神――この言葉を知らない女子プロレスラーはまずいない。彼女から繰り出される数々のサブミッションは、見ている側には一つの芸術作品のように感動を与え、また技を掛けられた側は地獄のような苦しみを等しく与える。

EXタッグマッチ。各団体から選出された代表の女子プロレスラーが集い、タッグ最強の座を争う7日にも渡る長いリーグ戦。そのため故障者も続出するが、彼女たちは恐れることはない。自団体の名誉のため、己の力を世間に知らしめるため、はたまた誰かのため……。
そんなEXタッグマッチ1日目もいよいよメインイベントを迎えた。そのとたん観客席から来場客数1万人の歓声が響き渡る。
リングコール共に現れる青コーナーは秋山美姫と近藤真琴のタッグ。颯爽とリングへと駆け上がる。
そして赤コーナーのリングコール告げられると、さっきの二人の何倍もの歓声が響き渡る。
入場口から現れる南利美と伊達遥は特に気負うこともなく、平然とリングへと上がった。
リング上で向かいあう両タッグ。周りの歓声が徐々に落ち着くと、南が秋山に手を差し伸べてきた。
南「お互い、いい試合を心がけましょう」
表情は微笑んでいるが、その言葉は明らかに攻撃的な感じがした。試合直前に相手に威圧感を与えることは別に卑怯なことではない。しかし、そんな威圧しなくても南の持つ「関節の女神」の肩書きは、同じ関節技を特技としている秋山でさえ震え上がる。だが今はそんな振るえなど抑え、南から差し出された手を握った。
秋山「よ、よろしくお願いします」
南「フフッ……」
一方の近藤と遥はというと、緊迫感がありながらも、二人とも笑顔だ。
近藤「今日こそ勝つ!」
遥「……私も……負けません…………」
そして互いに自コーナーに戻ると、いよいよ試合のゴング鳴らされた。
リング中央に最初に立つのは遥と秋山だった。

試合数時間前、選手控え室には近藤と秋山、それにいても立ってもいられず自団体の興行を抜け出してやってきた社長の姿だった。そして準備運動をしている二人にこう声を掛けた。
社長「頼むから、怪我だけは、怪我だけはしないでくれよっ!」
近藤「大丈夫です、あたしの身体はそんなにやわじゃありませんから」
秋山「私も根性だけは自信があります!」
そんな二人の様子に社長はやれやれと首を振り、二人に言い聞かすように話す。
社長「今のキミたちには……勝機は殆どない。今から試合に向かうキミたちに掛ける言葉じゃないんだろうけれど。あ、でも! もちろん二人のことは信じているよ。心の底からねっ!」
二人「………………」
社長「……けれどそれはまともにやりあったなら、の話だ。だから作戦を立ててみた」
すると社長は腕を振り上げて、力強く宣言したのだ。
社長「伊達遥からギブアップを奪う!」

秋山「ううっ!」
最初に仕掛けたのは遥のほうだ。ニーリフトの鋭い一撃が秋山を襲う。そんなに打たれ強いほうではない秋山には、遥の一撃は非常にキツイ。それでも秋山は遥の隙を突き、片逆えび固めで相手を絞り上げる。近藤と共に特訓した秋山の技には磨きがかかっていた。そう簡単には抜け出せない。
遥「…………くっ」
南「させないわ」
すぐさま南のカットが入り、遥にタッチするとそのままリング上に残る。
南「すぐに楽にしてあげる」
秋山「ちょっとピンチかも」
両指の第二関節辺りを滑らかに動かしながら接近する南に、秋山は後方に下がって、近藤にタッチする。勢いよく飛び出した近藤は奇襲エルボーで、何とか南に一撃を食らわす。だが、そう簡単に連続攻撃を許してくれる相手じゃない。続けざまに打撃を放とうとする近藤の身体に手を絡ませて、軽く投げ飛ばし、すかさず近藤の得意とする腕技を封じるために、関節を練り上げ始めた。
近藤「くぐぅ、うぁあああ!」
近藤にとって関節技は苦手だ。それなのに南相手に近藤はあまりに相性が悪かった。もちろん、そこへ秋山のカットが入るが、近藤の腕への負担は相当なものだ。
その後、南から遥へタッチすると、近藤も秋山へとタッチを繰り返す。そのたびに近藤は腕を、遥は脚を重点的に締め上げられる。
南「……まるで我慢くらべね」
現在リング外にいる南は、どうしてこちらのタッチに合わせて、向こうも合わせてくるのかを考えていた。別に南と秋山、遥と近藤となったところで不都合な点はない。むしろ相性から考えれば、そのほうが当然だと思える。
遥「…………ううっ、ぁああああ!」
秋山の締め上げに、とうとう遥も悲鳴をあげ始める。と、その瞬間南はほくそ笑む。相手は遥を狙っていることに気が付いたのだ。すると南は自力で抜け出した遥にタッチを求め、すぐさまリング内に駆け出し、近藤にタッチに向かおうとしている秋山を投げ飛ばし妨害する。今すぐにタッチは無理と判断した秋山は、南に対してドロップキックなどで応戦するも、怯まない南の関節技についにつかまってしまった。
近藤「秋山っ!」
遥「させない」
カットに入ろうとする近藤をすかさず遥が分断する。リング中央ではまさに「関節の女神」の独壇場であった。しかし、秋山とて関節技に精通しているだけあって、通常の関節技でギブアップはあまり見込めない。ならば――
南「これで眠りなさい!」
秋山「!!!!!!」
ネオ・サザンクロスロック、STFを南が独自にアレンジした最強クラスの関節技。一度決まってしまったらもう、抜け出すことはほぼ不可能だ。例えどんなに関節技に精通している選手でも……。
近藤「させるかっ!!!」
遥を振り切った近藤が、何とかカットに間に合い、南を引っぺがした。秋山は苦痛に顔を歪ませながら立ち上がるが、肩で呼吸をしている状態だ。近藤のカットがあと数秒遅れていたら、間違いなくギブアップしていただろう。この一連の攻防に観客席は歓声を再び上げた。
一方南はギブアップを奪えなかったものの、かなりの体力を奪ったと考えている。この状態ではもう遥に関節技を掛けられることは不可能だろうし、近藤も腕へのダメージが大きく、あのバックブローも本来の力を出すことは出来ないはずだ。勝利への道は磐石であり完璧だった。
秋山「やあああああっ!」
南が我に返ると、なぜか秋山が近藤にタッチすることなく南に向かってくる。飛び技、力技、投げ技、恐らくこの3つのいずれかから技が来るだろうと身構えた。が、秋山が繰り出した技は……。

あれはEXタッグマッチ目指した特訓の日まで遡る。
近藤も秋山も熱心にジムでトレーニングに励んでいた。そんな休憩時間、秋山が近藤に相談する。
秋山「あの近藤さん、私に打撃技のコツを教えてくれませんか?」
突然の申し出に、近藤は戸惑う。確かに秋山の打撃は一般女子レスラーに比べて威力が劣る。
近藤「すまない、あたし……人に何か教えるのはあんまり……」
人から教えてもらうのならいざ知らず、人に教えるなんて経験は近藤にはなかった。だが秋山は食い下がってくる。その瞳は真剣だった。
秋山「簡単なのでいいです。少しでも強くなってあの人に……勝ちたいんです」
近藤「おい……」
いつもニコニコしているあの秋山が、初めて悔しそうな表情をするところを見た近藤。そういえばと、近藤もこの前遥に負けたことを思い出す。すると無性に悔しい気持ちが蘇ってきた。誰だって負けたくないし、勝つためには努力するしかない。そうやって自分は強くなってきたんじゃないのか?
近藤はすくっと立ち上がると、秋山とは反対方向を向いて言った。
近藤「簡単……とは言わないぞ。打撃はただ殴ったり蹴ったりするわけじゃないから」
秋山「はい!」

南は驚く、不意を突かれたからといって秋山が突然放ったエルボーの鋭さに思わずしりもちをついた。そこへ間髪いれず秋山の関節技が南を襲う。振りほどこうとするが、死に物狂いで掴む秋山に対し南の気迫が負けていた。どうしても振りほどくことが出来ない。すがるように何とかロープへ逃げると、遥にタッチして後を託す。全力を使い果たした秋山も近藤にタッチして、その場へと崩れた。
南「相手の腕はもう使えないわ! 脚技だけに注意すればあなたの勝利よ!」
そのアドバイスに遥は小さく頷く。近藤は腕を上げて身構えた。正直言うと腕に力が入らない状態だった。得意な腕からの打撃を封じられている今、近藤にもう勝機はないように思えた。そんな状態の彼女に遥は徐々に距離を詰めていく。そんな遥も秋山に散々利き足を締め上げられて、いつ膝を崩してもおかしくない状況だった。もし相手が秋山だったなら、もう一度締め上げられた時点でギブアップしていただろう。だが、相手は幸いなことに打撃一辺倒の近藤だ。脚から出される打撃技にさえ注意すれば……。と、その瞬間、正面にいたはずの近藤の姿が消えた。
遥「えっ…………きゃっ!」
思わず遥は自分の足元を見ると、近藤が自分の利き足にしがみ付いていた。そしてそこから遥をマッドへ転ばすと、その利き足を締め上げた――片逆えび固めだ。

時間は再びあの特訓の日に遡る。近藤に打撃のコツを教わるはずだった秋山だが、話はそこで終わってはいなかった。
秋山「えーーーーーっ! 私にですか?」
秋山は口をパクパクさせながら近藤に聞き返す。
近藤「あたしは打撃を教える。だからあんたは関節技をあたしに教える。持ちつ持たれつだ」
秋山「それは……そうですけど……私の関節技ってそんなにすごいんでしょうか?」
自信なさそうに戸惑っている秋山に、近藤はぽんと背中を叩いてやる。
近藤「ああ、技の質ならきっと(関節の女神)にだって渡り合える実力はある」
実際のところは近藤にもわからない。でも、このくらい大きく言ったほうが一緒に戦うパートナーとして頼もしい。そんなことを知らずに秋山はその気になってもじもじする。
秋山「いや~近藤さんに褒められると何だか、照れちゃいますね」
近藤「……まぁ、いいか」
そんなわけで、特訓にはお互いの短所も補うトレーニングが加えられたのだった。

南は目の前で起こった出来事にまだ信じることが出来なかった。
試合時間47分40秒 ×伊達遥対近藤真琴○ 決め技 片逆えび固めからのギブアップ。
遥「…………ごめん…………なさい……………」
南「仕方がないわよ。まさかこんな展開になるなんて誰が予想できる?」
試合の主導権は南と遥が完全に握っていた。しかし、ちょっとした慢心と油断がこの試合結果を招いてしまった。それを許してしまった自分が許せなかった、許せなかったが……南の表情は晴れやかだった。今回の試合は南にとっての教訓――完璧に思い通りになる試合は無い――でもそんな教訓もいつか完全に覆してみせると心の中で誓う南だった。
南「遥、まだまだ試合は続くわ。気を引き締めていくわよ」
遥「はい!!」
その場から退場する南と遥。その途中で遥はリング上で喜び合っている近藤と秋山の姿を眺めた。
秋山は近藤の肩を借りて観客の声援に応えている。その観客の中に涙を流している社長の姿もある。
近藤は静かに去っていく遥のほうを見て、グッと指を立てた。そして心の中で誓う――また大舞台で試合しよう、と。


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2008/05/31 18:00 | Comments(0) | 参加企画

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