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2024/04/20 09:17 |
イナエさんの投稿作品 その4「コスプレ」
『コレクターズ』軍団長イナエさんの投稿作品第4弾となります。
 



4.コスプレ

とある団体の所属する選手が下宿する選手宿舎。その一室で机に突っ伏して顔を伏せているのは、無類のコスプレ好きの富沢レイだ。
富沢「あ~どうすればいいのよ~」
彼女がどうして悩んでいるかというと明日、街中でコスプレ大会が行われる。その日は興行もないし、ジム練習もないから完全にオフだ。だから今回はサボることなく堂々と行くことが出来る。
富沢「うぅ、諦めきれない……優勝商品の限定版コスプレ衣装だけは何としても私の手に!」
その大会の商品は某アニメに登場する双子の少女たちの衣装。しかも市販の物とは違う装飾を施された特注品。オークションに掛ければ何十万も値段で取引されるほどのレア物。富沢はそれをどうしても欲しかった。欲しかったのに、彼女の前にどうしても越えることの出来ない壁があった。
出場条件……その衣装が似合う双子の姉妹に限る。
すなわち、この時点でどんなコスプレで挑もうと富沢の優勝はない。しかし、そんなことで富沢は諦めることはなかった。前に試合したことのあるあの極悪非道の村上姉妹のところまで態々赴き、頭を下げてコスプレ大会に出場してくれないかと頼んだところ……一蹴された。
そうなることは想定していた富沢は、お得意のプロレス罰ゲーム方式を持ち出してきた。自分が姉の千春に勝ったらそのコスプレ大会に無条件で参加することを条件に。が、試合はあっさり負けた。何せ相手は極悪非道、試合内容はシングルでも、セコンドについている妹の千秋の乱入で終始押されっぱなしだった。富沢が「卑怯だぞ~」と叫んでも後の祭り。逆に負けた富沢は試合後、千春姉妹に焼肉店に連れられて散々に集られるのだった。
富沢「どうせあの姉妹、見た目が良くても中身がだめだめね!! あれじゃあ優勝なんてぜぇ~~~~~~~~~~たい!!! 無理…………はぁ」
虚しかった。ついでに財布もすっからかんで食費もかなり切り詰めて、大声を張り上げるだけでお腹が空く。そういえばここ三日間まともなものを食べてない。コスプレ大会のことに頭が一杯で自分が危機的な状況に陥っている状況に今更ながら気が付く。
富沢「……お隣にご馳走になりに行こう」
こうしてフラフラと富沢は部屋を出たのだった。

富沢の隣の部屋は永沢舞の部屋。小物類は可愛い動物さんに統一し、ネコとウサギを部屋の中で飼っている。富沢にとってこの部屋のネコにはあんまりいい思いではない。大事なコスプレ衣装を何着かびりびりに破られてしまったことがあるからだ。そんな経緯から、自分がアニメグッズやコスプレ衣装を買いすぎて、経済が危機的な状態に陥ったときは、夕飯をご馳走してもらうというのが二人のお約束になっていた。
富沢「マイマイ、いる?」
富沢がひょいと永沢の部屋に入ると、永沢ともう一人先客――秋山美姫がウサギを抱えていた。
秋山「……こんな感じでいいのかなぁ?」
永沢「はい、ウサちゃんも気持ちよさそうですよ。美姫ちゃんは動物をあやすのが上手です」
一体何をやっているのか富沢は二人を覗き込むと、永沢がその存在に気付く。
永沢「あは、レイちゃん。その様子だと夕食をお呼ばれしに来ましたね?」
富沢「はは……面目ない。ところで、今アッキーと何してたのよ?」
すると秋山は持っていたウサギをそっと地面に置くと、この部屋に来た事情を話す。
秋山「今度、福祉活動で移動動物園のボランティアをするんです。それで私の担当がウサギになったので、ウサギといえば舞ちゃんということで、色々と教えてもらってたんです」
永沢「私も連れて行ってもらって、いっぱいのウサちゃんにモフモフされるのです!」
富沢「あはは……そうなんだ」
二人の存在が今の富沢には眩しく見えた。ボランティア活動に勤しみ、社会貢献をしている立派な秋山。周りに小動物さえいれば楽園と思えてしまう思考を持ち、存在自体が癒し系な永沢。二人を交互に眺めながら自分の惨めさを改めて実感――んん? と富沢の思考が停止した。
富沢「……………………」
秋山「……どうしたの?」
永沢「……あは?」
富沢「二人って……よく見ると……似てるわね」
その言葉に秋山と永沢は顔を見合わせて首を傾げた。二人にはわからないようだが、髪の色といい、瞳の色といい、顔の輪郭といい、身長といい、発育といい……。性格はともかくとして外見だけならば、双子と教えられたら何も知らない人々は、疑いもなく思い込んでしまうのではないか? その瞬間富沢の心の声がこう告げた――目的のためならば、手段は選ぶな……と。
富沢「…………あはは、………あっはははははははははははは!」
秋山「…………富沢さん?」
永沢「大丈夫、ダイジョウブ……じゃなさそうです……」
狂ったように笑う富沢に、二人は何やら悪い予感がしていた。そんな不安そうにしている二人をよそに、富沢は猫なで声である話を持ちかける。
富沢「ねぇ……、ウサギのことを知りたいのならもっといい方法があるんだけどなぁ~」
眼の焦点が定まらない。眼が逝っていた……。それでも口元は笑っている。
富沢「本当にウサギのことを知りたいなら……自分自身がウサギにならないと……ねぇ」
段々と声音が低くなってきた。秋山は恐る恐る口を開いた。
秋山「……そこまでしなくても――ひっ!」
と、富沢は否定しようとする秋山の目の前まで顔を近づけた。
富沢「――ウサギちゃんの気持ちを理解できないで、ウサギを飼育しようなんて10年早いわよ」
秋山「……はい」
あまりの迫力に秋山は頷くしかなかった。すると富沢のターゲットはその横の永沢に変わった。が、そこに永沢の姿はなく、部屋の入り口まで静かに這いながら外へ出ようとしていた。
富沢「――マイマイ、どこへ行くのかしら?」
永沢「……あは、私はウサちゃん気持ちがわかるから必要ない、ナイ」
富沢「――心配しないで、マイマイにはニャンコちゃんの気持ちを理解してもらうから」
永沢「ニャンコちゃんの!」
『ニャンコ』という魔法の言葉に永沢は引き込まれるように、富沢の下へと舞い戻る。
富沢「――さぁ私の部屋に行きましょう。明日の為に衣装合わせを行わないと……あはは」
秋山「………………ぐすん」
もはや秋山に逃れる術は残されていなかった。

月曜日。社長室に向かう富沢の足取りはまるで背中に翼があるかのように軽やかだった。満面な笑みと、鼻歌を響かせ、この世のしがらみから解放されたかのように心は穏やかだった。
富沢「私の眼に狂いはなかったわ!!」
日曜に行われた双子コスプレ大会の結果は、見事に秋山と永沢の偽双子コンビが優勝をさらった。元々二人とも質は非常に高いので、デコデコ飾り付けるより、シンプルに肉体美を魅せるようなコスプレを選んだのが功を奏したのだ。そして手に入れた優勝商品の双子限定コスプレ、もちろんあの二人には興味はなく、富沢がありがたく頂いた。とはいえ、富沢にも罪悪感がないわけでもない。自分のわがままに純粋な二人を騙す、もとい、振り回してしまったのだから。
富沢「ちょっと悪いことしちゃったな……お詫びに今度デザートでもおごってあげるかぁ」
そうこうしている社長室に着いた。コンコンとノックして扉を開ける。
富沢「社長~、はいるわよん」
社長室に入ると、机でスポーツ新聞を広げてじっくりと読み耽っている社長の姿があった。
富沢「それで今日は何? 給料日……にはちょっと早いわよね?」
社長「これで3人揃ったわけ」
富沢「3人? ……げっ!」
富沢が後ろを振り返ると、しょんぼりとしている秋山と永沢の姿が眼に入る。まさか、と富沢の頭にコスプレ大会のことが過ぎる。社長は読んでいる新聞をたたむと、ニヤリと口を開く。
社長「まずは双子コスプレ大会優勝おめでとう、富沢美姫くん、富沢舞くん」
その言葉に秋山と永沢の背中がびくっと反応する。とっさに富沢は社長に訊く。
富沢「もしかして社長! その大会を見に行っていたとか?」
社長「いや、今日はじめて知った。このスポーツ新聞のおかげでね」
社長はさっきたたんだはずのスポーツ新聞をパラパラと捲り、グラビアとかが載っているページを開いて富沢に見せた。そこには色々な女性の裸の姿が載っているのだが、その小見出しにあの双子コスプレ大会のことが特集されていた。そしてそこには、バニーガール風の姿をした秋山と、ニャンコスタイルの永沢の写真がカラーで乗せられている。そして二人の苗字が富沢と表記されていた。
社長「……さぁ、説明してもらおうか」
どっと背筋から冷や汗が溢れるのを実感する富沢。社長の視線がとても痛い。とりあえずここは軽く冗談をと口を開いた。
富沢「しゃ、社長ってスケベですよね、こんなグラビアページなんかに眼を通すなんて……」
社長「……………………」
無言の重圧。それが一番富沢にとって苦しかった。すると富沢は涙目で後ろの二人に助けを求めようと視線を移したが、二人とも視線を逸らした。
社長「二人とも、富沢に付き合わされたと言っているのだが?」
富沢「あっ、この! 裏切り者! マイマイは嬉しそうにやってたし! アッキーも始めはイヤイヤだったけど、後半は結構ノリノリだったじゃない!」
社長「ゴホン」
その咳払いに富沢は真っ直ぐ社長のほうに向き直った。
社長「嘘をついたうえ、こんなグラビアページに載ってしまったことは大変心苦しいことだ。最悪うちの団体のイメージを貶める行為だということは理解しているかい?」
富沢「……そのことについて、大変申し訳ありませんでした」
富沢は渋々社長に頭を下げる。後ろの二人も同じように頭を下げた。富沢自身も今回のことは少しやりすぎたと思った。後先考えず自分が突っ走りすぎ、秋山と永沢に迷惑を掛けた。そのことにだけは心の底から反省した。
社長「……まぁ、終わってしまったこともくどくど言っても仕方ない。その分試合で返してもらうから覚悟しておけ。馬鹿なことが出来ないよう来月はバシバシ興行を入れるからな」
あっさりと許してくれた社長に、富沢は思わず机を越えて社長に抱きついた。
富沢「さっすが社長! 話がわかる! 大好き、愛してるぅ!」
社長「あー、まだ話は終わってない」
富沢「えっ?」
社長「今回手に入れた優勝商品、霧子君が調べたら結構な値段で売れるそうだ。そして、富沢はうちの団体の秋山と永沢を使いそれを手に入れた。つまり、キミが持っている優勝商品の半分はうちの団体の所有物となる。わかるかい?」
「――はい?」と気のない返事をする富沢。社長を抱きしめたままその話を聞く。
社長「どうだ、一つをオークションで売るのは? 単品だと値が半減するが、それでも団体を運営していく上では、非常に助かるのだが。どう――うぐっ!」
富沢の抱きつきは瞬時にスリーパーホールドへと切り替わっていた。
秋山「社長!」
永沢「レイちゃんダメだよっ!」
社長「ギブッ! ギブアップだぁ!!! ぐああああっ」
――こうして、富沢の優勝商品の行方は有耶無耶のうちに幕を閉じたのだった。



その後、社長室の机を整理していた井上霧子はスポーツ新聞のグラビアページの一部が切り抜かれているのを発見する。でもそのことに霧子は目くじらを立てたりはしない。そして、歴代の資料が集められている書棚の、最新の物を手にして開いてみる。そこには今までスポーツ新聞に載っていた自団体のことを切り取って、スクラップにしていた。試合のことも、プライベートのことも、どんな些細なことでも……。
霧子「まぁ……可愛いウサギさんとニャンコちゃんね」
その記事を見ながら口元を押えてクスクスと笑う霧子だった。
イナエさんのイラスト

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2008/06/01 18:00 | Comments(2) | 参加企画

コメント

まず始めにNさんに、自分の作品を発表できる場を頂いて大変感謝しています。
――それとワード文章にまとめて絵を貼ったことは申し訳ないです……。
(しかも掲載前日にわかってはいたけど、ごめんなさい。)
画像ファイルは色々と形式があって、どれにすればいいのかわからなかったので、
ワードで貼り付ければ関係なくなるよね……なんて思っていた自分が浅はかでした。今後はPNG、JPEGのどちらかの形式、文章と画像を別にします。
そして私のつたない4作品をサイトに載せる作業、ご苦労様でした。

SSに関してですが、基本的に自分がサバイバー初期プレイを参考にネタを考えました(2話でわかると思います)。近藤に焦点を当てて書いたのは、初期プレー時のメンバーと周りの人間関係を考えた上での結論でした。秋山好きの自分は彼女を主役でもと考えましたが、たぶん彼女の性格上、主役は無理だろうと判断。脇役として徹してもらいました。
3話の遥と南のタッグはここのサイトを参考にさせていただきました。1話で近藤と遥の関係上、どうしても再び試合させてやりたかったのです。そして南がやけに悪役ぽく書いたことは反省します。(南ファンの皆さんごめんなさい)
自分の想うとおりに書いて、ノリというか勢いで書いた……試合内容でした。最後の遥の「はい!!」は今も疑問に残ったり。ありといえばありですよね? でもやっぱり「……うん」なのかなぁ。全ては南との関係しだいですけど。
4話はぶっちゃけるとキャラデザのお話です。コメディー感覚で仕上げましたが、自分にとってはこれが一番まともに書けたのかなぁと思います(イラストはノーコメントです)。

全体的な感想として、読みにくい文あり、間違いあり、失敗してしまったなぁというやり取りありと、まだまだなところが多々ありますが――
それでも読んでくれた人、ありがとうございます!!
4話すべて読んでくれた人、本当にありがとうございます!!!
そしてNEW WINDならびに、Nさんに感謝、カンシャ。(永沢風)
それではこれで。(今後は愛関連の内容に出現しようと思ってます)
posted by イナエat 2008/06/02 01:17 [ コメントを修正する ]
 予約記事なので、入れ違いでしたね。
感想は感想文のほうにまとめさせていただきました。

 なるほど。サバイバー設定なのですね。

 画像はま、次回からということで(笑)

 ご参加ありがとうございました。

posted by Nat 2008/06/02 21:11 [ コメントを修正する ]

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