NEW WIND社長 風間 新 手記より。
※この手記は基本的にリプレイですが、風間 新 社長視点で書かれており、創作要素を多分に含んでいます。
ここでの各登場人物の設定は公式なものでなく、管理人N独自のものです。
それをご了承の上、つづきへとお進みくださいませ。
※この手記は基本的にリプレイですが、風間 新 社長視点で書かれており、創作要素を多分に含んでいます。
ここでの各登場人物の設定は公式なものでなく、管理人N独自のものです。
それをご了承の上、つづきへとお進みくださいませ。
◇4年目1月◇
「26分10秒、26分10秒 ハイキックからの体固めによりまして勝者伊達遥! 」
シリーズ最終戦。
このアナウンスで決着がついた事が分かった。
所用で遅れ、ようやく会場に到着した私はこのアナウンスに出迎えられた。
「うーん、伊達か・・・どっちが勝ってもおかしくはないと思ったけどなあ。」
今日のメインイベントは【EWA認定世界ヘビー級選手権試合60分1本勝負】
現王者南に昨年の”女子プロレスMVP”伊達が挑戦する事になっていた。
二人とも我が”NEW WIND”の一期生であり、一期生の中でもこの二人は抜けた実績を残している。
入団当初は南の方が評価は上だった。
1歳年上という事もあり、基礎が出来ていたからだと思う。
だけど今は伊達の方が上という見かたをファン・関係者にされてしまっている。
この二人の立場はいつ逆転したのか・・・改めて考えてみる。
ベルトへ挑戦したのは南が先だった・・・だがベルトを奪取したのは伊達が先。
それでもAACJr王座をとったばかりの頃は伊達よりも南の方が強いと言われていた。
だけど伊達はAACJr王者の身分のままAAC世界王者のベルトを巻いてしまう。
この後伊達は強敵チョチョカラス相手に防衛を重ね、確実に成長していった。
強敵との対戦、タイトルマッチの重圧、海外遠征・・・これらの要因がより伊達を強くしたんだろう。
自分が先へ行っていたはずなのに1歳下の同期に抜かれ、それを追いかけ続ける南。
南は”伊達を超える”なんて事は言わない。
”完璧な試合をお見せするわ”というのが彼女の言葉であり、信念だからだ。
だが、完璧な試合というのは”負けること”では成り立たない。
先月の受賞式で彼女がコメントを出していたように”負けて受賞しても”完璧な試合ではない。
完璧な試合というのは勝ってこそ意味がある。
だから彼女は完璧な試合にこだわる以上、自分より常に先を行くライバルから勝利を奪わなくてはならない。
彼女が完璧な試合をするという事はすなわち勝利宣言。
ライバルの背中を見続けているからこそ、勝った時はすごく嬉しそうにしているんだよね。
負けた時の彼女はどんな顔をして戻ってくるのか・・・
などと考えていたら・・・
「社長、負けちゃったわ・・・遥の奴また強くなってさ。ドンドン打撃が重くなって嫌になっちゃうわ。」
控え室に戻ってきた南は、負けたのになんとなく嬉そうに見える。
「なんか負けたのに嬉しそうだね?」
私のこの言葉に南は顔を強張らせる。
「負けたのに嬉しいわけないでしょ?冗談じゃないわよ・・・なんで私が嬉しそうにしなきゃならないの・・・負けたら完璧な試合にはならないんだから・・・」
「ご、ごめん南、そうだよな、負けたのに嬉しいなんてわけないよね・・・」
あわてて謝る私に南はかすかに微笑みを浮かべる。
「でもね、社長。なんだか遥に負けた時って悔しいって気分よりも嬉しいって気分になるのよ。なんでだと思う?」
「ライバルだから?」
「あはは。いい線いってるわね。まあ、そんなところなんだけど・・・遥が強くなるって事は、私も”まだ”強くなれるって事じゃない? 負けたのは悔しいけど、だったら”強くなってやる””今度は勝つんだ”って思えるのよ。」
「うーん・・・それで嬉しいのか?」
私にはちょっと理解しにくい感情な気がする。
「そうよ。レスラーにしか分からないと思うけど、手強いライバルがいるって事は楽しい事なのよ。先を行くライバルの背中を見ながら、どうやって倒してやろうか、どうギブアップさせようか・・・そういうことを考えたりするのよ。それに同期ならなおさらね。」
「ライバルの背中か・・・さすがに分からないな。」
「ふふ、でしょうね。・・・社長、ありがとう。」
「・・・何をだ?」
訝る私に南は屈託のない笑顔で答える。
「伊達遥という選手を見つけてくれて。あの子は最高のライバルよ。遥が強くなるなら、私はそれを超えて完璧な試合をして見せるわ。
できる事なら遥とのシングルで勝利してベストバウトを受賞したいものね。」
それは私も見てみたいな。
一方勝った伊達は・・・
「勝てて・・・ほっとしてるの。」
相変わらずこの子はしゃべるのが苦手だな。
”メールでならおしゃべりなのよ”という誰かの言葉が疑わしい。
「そうか。」
「うん、だって・・・南さん強いから・・・」
「そうだな。」
「うん。 私にとって彼女・・・南さんはライバルだから・・・」
おやおやこの子まで。
「そうか。 ライバルか。それは知らなかったなあ。」
「うん・・・はじめて会った時からこの人凄いな・・って。」
「うん。」
「でね・・・この人に勝ちたいって気持ち・・・持ったの。」
「そうか。」
「・・・でも今日勝ったけど・・・次は南さんも強くなるから・・・負けられないから・・・もっと強くならないといけない。」
伊達の言葉はボソボソとだが、しっかりとした意思を感じる。
「頑張れよ・・・なんて言わなくても頑張ってるよな。よし、その気持ちを大切にしろよ。」
「はい。社長、南さんの背中って・・・いつも無言で語ってるの知ってる?」
「なんとなくね・・・ハッキリとは分からないな。」
私は南の後ろ姿を思い浮かべてみる。
いつも背中で何かを語ってはいると思うのだが、レスラーでない私にはやはりよくわからない。
「・・・あの人の背中はね・・・常に上を目指せ!前を向け!って語ってるの。あの存在感は・・・私には・・・出せないの。」
なるほど。
南の存在というのは大きいんだなあ・・・
「今の伊達遥には・・・だよね。だったらより上を目指して、後輩たちに背中で語れるレスラーになればいいんじゃないか。」
「うん。・・・頑張る」
私の言葉にニコっと微笑みを浮かべて応える伊達。
相変わらずボソボソとだったけど、力強い言葉ではあった。
”背中”か・・・
きっと皆それぞれこういう気持ちを抱えてファイトしてくれているんだろうなあ。
「ま、武藤あたりは考えてなさそうだけどな」
「社長、私がどうかしましたか?」
ゲッ・・・武藤居たの??
「いや、なんでもないさ・・・」
どうも私はこの子は苦手なんだよな。
「ま、別にいいですけど。」
やべ・・・怒ってる?
「武藤、背中って・・・考えたことあるか?」
私のこのセリフに武藤はきょとんとしている。
「背中ですか?・・・背筋は鍛えてますよ。勝つためですから。」
「そう。それならいいんだ。背筋鍛えておかないとダメだぞ。」
「は、はあ・・・」
戸惑う武藤を置いて私は足早にその場を去った。
ま、質問も悪かったけどさすが武藤めぐみだな。
今日は試合は見れなかったけど、いい一日だった気がするな。
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「26分10秒、26分10秒 ハイキックからの体固めによりまして勝者伊達遥! 」
シリーズ最終戦。
このアナウンスで決着がついた事が分かった。
所用で遅れ、ようやく会場に到着した私はこのアナウンスに出迎えられた。
「うーん、伊達か・・・どっちが勝ってもおかしくはないと思ったけどなあ。」
今日のメインイベントは【EWA認定世界ヘビー級選手権試合60分1本勝負】
現王者南に昨年の”女子プロレスMVP”伊達が挑戦する事になっていた。
二人とも我が”NEW WIND”の一期生であり、一期生の中でもこの二人は抜けた実績を残している。
入団当初は南の方が評価は上だった。
1歳年上という事もあり、基礎が出来ていたからだと思う。
だけど今は伊達の方が上という見かたをファン・関係者にされてしまっている。
この二人の立場はいつ逆転したのか・・・改めて考えてみる。
ベルトへ挑戦したのは南が先だった・・・だがベルトを奪取したのは伊達が先。
それでもAACJr王座をとったばかりの頃は伊達よりも南の方が強いと言われていた。
だけど伊達はAACJr王者の身分のままAAC世界王者のベルトを巻いてしまう。
この後伊達は強敵チョチョカラス相手に防衛を重ね、確実に成長していった。
強敵との対戦、タイトルマッチの重圧、海外遠征・・・これらの要因がより伊達を強くしたんだろう。
自分が先へ行っていたはずなのに1歳下の同期に抜かれ、それを追いかけ続ける南。
南は”伊達を超える”なんて事は言わない。
”完璧な試合をお見せするわ”というのが彼女の言葉であり、信念だからだ。
だが、完璧な試合というのは”負けること”では成り立たない。
先月の受賞式で彼女がコメントを出していたように”負けて受賞しても”完璧な試合ではない。
完璧な試合というのは勝ってこそ意味がある。
だから彼女は完璧な試合にこだわる以上、自分より常に先を行くライバルから勝利を奪わなくてはならない。
彼女が完璧な試合をするという事はすなわち勝利宣言。
ライバルの背中を見続けているからこそ、勝った時はすごく嬉しそうにしているんだよね。
負けた時の彼女はどんな顔をして戻ってくるのか・・・
などと考えていたら・・・
「社長、負けちゃったわ・・・遥の奴また強くなってさ。ドンドン打撃が重くなって嫌になっちゃうわ。」
控え室に戻ってきた南は、負けたのになんとなく嬉そうに見える。
「なんか負けたのに嬉しそうだね?」
私のこの言葉に南は顔を強張らせる。
「負けたのに嬉しいわけないでしょ?冗談じゃないわよ・・・なんで私が嬉しそうにしなきゃならないの・・・負けたら完璧な試合にはならないんだから・・・」
「ご、ごめん南、そうだよな、負けたのに嬉しいなんてわけないよね・・・」
あわてて謝る私に南はかすかに微笑みを浮かべる。
「でもね、社長。なんだか遥に負けた時って悔しいって気分よりも嬉しいって気分になるのよ。なんでだと思う?」
「ライバルだから?」
「あはは。いい線いってるわね。まあ、そんなところなんだけど・・・遥が強くなるって事は、私も”まだ”強くなれるって事じゃない? 負けたのは悔しいけど、だったら”強くなってやる””今度は勝つんだ”って思えるのよ。」
「うーん・・・それで嬉しいのか?」
私にはちょっと理解しにくい感情な気がする。
「そうよ。レスラーにしか分からないと思うけど、手強いライバルがいるって事は楽しい事なのよ。先を行くライバルの背中を見ながら、どうやって倒してやろうか、どうギブアップさせようか・・・そういうことを考えたりするのよ。それに同期ならなおさらね。」
「ライバルの背中か・・・さすがに分からないな。」
「ふふ、でしょうね。・・・社長、ありがとう。」
「・・・何をだ?」
訝る私に南は屈託のない笑顔で答える。
「伊達遥という選手を見つけてくれて。あの子は最高のライバルよ。遥が強くなるなら、私はそれを超えて完璧な試合をして見せるわ。
できる事なら遥とのシングルで勝利してベストバウトを受賞したいものね。」
それは私も見てみたいな。
一方勝った伊達は・・・
「勝てて・・・ほっとしてるの。」
相変わらずこの子はしゃべるのが苦手だな。
”メールでならおしゃべりなのよ”という誰かの言葉が疑わしい。
「そうか。」
「うん、だって・・・南さん強いから・・・」
「そうだな。」
「うん。 私にとって彼女・・・南さんはライバルだから・・・」
おやおやこの子まで。
「そうか。 ライバルか。それは知らなかったなあ。」
「うん・・・はじめて会った時からこの人凄いな・・って。」
「うん。」
「でね・・・この人に勝ちたいって気持ち・・・持ったの。」
「そうか。」
「・・・でも今日勝ったけど・・・次は南さんも強くなるから・・・負けられないから・・・もっと強くならないといけない。」
伊達の言葉はボソボソとだが、しっかりとした意思を感じる。
「頑張れよ・・・なんて言わなくても頑張ってるよな。よし、その気持ちを大切にしろよ。」
「はい。社長、南さんの背中って・・・いつも無言で語ってるの知ってる?」
「なんとなくね・・・ハッキリとは分からないな。」
私は南の後ろ姿を思い浮かべてみる。
いつも背中で何かを語ってはいると思うのだが、レスラーでない私にはやはりよくわからない。
「・・・あの人の背中はね・・・常に上を目指せ!前を向け!って語ってるの。あの存在感は・・・私には・・・出せないの。」
なるほど。
南の存在というのは大きいんだなあ・・・
「今の伊達遥には・・・だよね。だったらより上を目指して、後輩たちに背中で語れるレスラーになればいいんじゃないか。」
「うん。・・・頑張る」
私の言葉にニコっと微笑みを浮かべて応える伊達。
相変わらずボソボソとだったけど、力強い言葉ではあった。
”背中”か・・・
きっと皆それぞれこういう気持ちを抱えてファイトしてくれているんだろうなあ。
「ま、武藤あたりは考えてなさそうだけどな」
「社長、私がどうかしましたか?」
ゲッ・・・武藤居たの??
「いや、なんでもないさ・・・」
どうも私はこの子は苦手なんだよな。
「ま、別にいいですけど。」
やべ・・・怒ってる?
「武藤、背中って・・・考えたことあるか?」
私のこのセリフに武藤はきょとんとしている。
「背中ですか?・・・背筋は鍛えてますよ。勝つためですから。」
「そう。それならいいんだ。背筋鍛えておかないとダメだぞ。」
「は、はあ・・・」
戸惑う武藤を置いて私は足早にその場を去った。
ま、質問も悪かったけどさすが武藤めぐみだな。
今日は試合は見れなかったけど、いい一日だった気がするな。
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