NEW WIND社長 風間新 手記より
改訂版発行にあたり、編集部よりご挨拶。
この作品は連載126回で終了した長編リプレイ『NEW WIND社長 風間新 手記』に大幅な加筆・修正を加えた作品です。
以前の作品と比べると印象が変わる部分もあるかもしれませんが、より深みを増した風間新社長率いるNEW WINDの成長物語を楽しんでみてください。
(※今回はNEW WIND編のその45「熱い真冬」に該当するお話です。)
◇5年目2月◇
◇WWCAJr選手権試合◇
「フンッ!」
吉田のプラズマサンダーボム(サンダー龍子からは名称使用許可済)が完璧に決まった。
リンの反応を見ている限りでは決まりそうだったのだが、ロープが近すぎた。懸命に足を伸ばしたリンはカウント3ぎりぎりでロープエスケープ。
「このっ!!」
返された吉田はカッときたようで、即座にもう一度プラズマサンダー!
うーん…ロープが近いんだよなあ。案の定またもやロープへと逃げられてしまい、吉田はさすがに一工夫する。ロープを背にしてリング中央へとプラズマサンダーを放った。これで決まったと思ったのだが、なんとリンはカウント2.9で肩を上げた。
「な…っ」完全に決まったと思っただけに吉田は驚きを隠せない。朦朧としながらも、リンはパイルドライバーを狙う。
「させるかああ!!」
これを食らってはならないと判断したのだろう。吉田はリバーススープレックスで切り返し、そのままカバー。下敷きになったリンはまったく反応しない。
(…あらら…まずいなこれは…)
私が思ったとおり、これで3カウントが入ってしまい、吉田は呆然。リンは気を失っているようだ。あの様子を見る限り、どうやら3度目のプラズマサンダーボムは本能で返したものらしい。これは私のような素人にはわからない感覚なのだが、プロレスラーはカウントを取られると意識がなくても肩を上げてしまうらしい。
担がれて退場していくリンに会場から大きな拍手が送られていた。
「…くそっ!」
それをリング上から悔しそうに睨みつけている吉田の姿があった。
控え室ではマッキーが真っ赤な顔をして吉田が戻ってくるのを待っていた。
「吉田!しょっぱい、しょっぱすぎるよ、バカヤロー!」
控え室に戻ってきた吉田にマッキーの怒声が浴びせられ、強烈な張り手が炸裂した。
「ぐうっ…」
あまりの威力に床に叩きつけられる吉田。
「すいませんでした…」
「お前、しょっぱすぎるぞ!バカかっ!大切な必殺技を3回も連発で使うな!落ち着いていれば2度目のロープエスケープはなかったし、あれで決まっていたはずだぞ!」
マッキーは同じパワーファイターとして吉田の資質を高く評価している。だからこそ、このミスは許せないのだろう。
「すいません…」
「リングの広さとロープの位置!ちゃんと把握しておけ!!」
「は、はい、ありがとうございます。マッキー先輩。」
◇EWAタッグ選手権試合◇
第5戦で組まれたこの試合は、王者組からの指名で『サイレントヴォイス』が挑戦。
しかし今日の『サイレントヴォイス』はあの強かった『サイレントヴォイス』ではなかった。カンナはみこととの同期タッグ『ホワイトスノー』に気持ちが傾いていたし、伊達はといえば、永沢との師弟コンビに楽しみを見出している。こんなバラバラな二人では抜群の連携を誇る『νジェネ』に勝てるわけもなく、結城主体の合体パワーボムで伊達が沈んだ。
その時カンナはといえば、カットに入らず控え室へと向かって歩いていた。
「カンナ~~!!そんなプロレスしか出来ないのか?」
結城のマイクにも反応せず、カンナは控え室へと消えていった。
カンナはこの頃から、他の選手達との距離を置き始める。パートナーのみこと以外とはあまり絡まなくなり、試合も温かみを感じるスタイルではなく、凄みをともすれば冷酷さすら感じるような試合運びへと近づいていた。
「…カンナは何を目指しているのだろう?」
この頃の私はカンナの真意を測りかねていた。
◇WWCAタッグ選手権試合◇
第7戦で組まれたこのカードは永沢の成長ぶりが発揮される試合となった。永沢は『ジューシーペア』の二人と互角の勝負が出来るようになっていて、12月に対戦したときとはまったく違うチームになっていた。以前は伊達に保護されているという感じだったのが、この試合は永沢がその元気さで伊達を引っ張る感じになっている。フィニッシュこそ伊達だったものの、試合の中心は永沢だったのは間違いない。
「やりました!やりました!」
「まだ…まだ。」
「えーっ!!」
「…自分で最後とらないと…だめ。」
「えー!!譲ってあげたんですよ!」
この調子なら永沢がフィニッシュを決めるのもそう遠くはなさそうだけどね。
◇EWA認定世界ヘビー級選手権試合◇
伊達を下し、新王者となったカンナ。ファンの間に流れていた『カンナ神威最強説』を証明した形となったわけだが、ベルトは獲るより守るほうが難しい。そんな大事な初防衛戦の相手は結城千種だ。カンナからすれば一年後輩になるわけだが、結城は油断できる相手ではない。 先月の対戦ではカンナが連勝したとはいえ、結城は負ければ負けるほど強くなってくるタイプだ。現時点の総合力ではカンナが上だが、結城にも切り札がある。それは団体最強、いや国内最強といえる投げ技の破壊力だ。あのバックドロップが決まれば、試合の流れをガラッと変える事が出来てしまう。
そして……結城はカンナの鋭い打撃技の前に完全に圧倒され、ペースをまったくつかめないままだった。誰もが配色濃厚と思ったのだが、一発のバックドロップが…結城の必殺のバックドロップが、試合の流れを引き寄せ、カンナの体力をごっそりと奪いとった。
それでもエクスプロイダーを狙いに行ったカンナだったが、投げ技では結城の方が上だ。クラッチを外した結城は、素早くハイアングルの裏投げを繰り出しカンナを沈めてしまった。
「30分4秒、30分4秒。高角度裏投げからの体固めで勝者、結城千種!!」
カンナまさかの敗退劇。ようやく伊達超えを果たしたばかりなのに、ここで後輩結城にやられるとは。ここまでくると世代交代というよりも、これは個人闘争というべきだろう。
伊達・南・カンナ・みこと・結城・武藤の6人での個人闘争。『ジューシーペア』と氷室は成長の限界が見えてきた感じだし、これから先上位を争うのは相当の努力がないと厳しいだろう。この闘争に加わってくる新たな戦力を育てるのが、我々の仕事になる。それは永沢か吉田か。それともまだ見ぬ新人たちか。 出来れば全員で争うような環境にしたいが、それは遠い夢になるだろうな。
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