NEW WIND社長 風間新 手記より
改訂版発行にあたり、編集部よりご挨拶。
この作品は連載126回で終了した長編リプレイ『NEW WIND社長 風間新 手記』に大幅な加筆・修正を加えた作品です。
以前の作品と比べると印象が変わる部分もあるかもしれませんが、より深みを増した風間新社長率いるNEW WINDの成長物語を楽しんでみてください。
(※今回はNEW WIND編のその38「弟子」およびその39「一年早かったら」に前半に該当するお話です。)
改訂版発行にあたり、編集部よりご挨拶。
この作品は連載126回で終了した長編リプレイ『NEW WIND社長 風間新 手記』に大幅な加筆・修正を加えた作品です。
以前の作品と比べると印象が変わる部分もあるかもしれませんが、より深みを増した風間新社長率いるNEW WINDの成長物語を楽しんでみてください。
(※今回はNEW WIND編のその38「弟子」およびその39「一年早かったら」に前半に該当するお話です。)
「ええっ!!本当ですか?!やったあ!!」
WWCAから連絡があり、8月のタイトル戦挑戦者を指名してきた。
タッグ王座には『サイレントヴォイス』を、Jr王座には永沢を指名してきている。本来ならタッグ王座には今一番乗っている『νジェネ』をあてたいのだが、彼女たちはAACへタッグの防衛戦に行っているので不在だ。
それにしてもWWCAも抜け目ないよな…そろそろJrを卒業させようかなと缶上げている永沢を指名してくるとは。これでは永沢が勝ったとしても、すぐにベルトを返上する形になってしまう。もっとも、現在の所属選手でJr王座に挑戦できるのは永沢と吉田しかいないのだけど。
「相手のカトリーヌ・チャンは結構強いぞ。」
「大丈夫です!勝ちます、勝ちます!」
お気楽だなあ…こいつは。
「師匠に教わっている技もあるし、それで決めます。」
「まだ…ダメ。完成して…ないから、危ないもの」
「えーっ!!」
「ダメ。練習…足らない…」
この言葉に永沢は目を輝かせ、「じゃあ練習すればいいですか?」と尋ねた。
「でも…今月は無理。」
「ううん、出来る!デキル!」
ま、いつもこんな調子なのだよね。それでも以前よりも伊達がしゃべるようになったし、永沢も伸びてきている。いい感じだな。よしよし…
「目論見通りって顔ね、社長。」
南が意味ありげに微笑む。
「またヒール社長な顔していたわ。」
図星。
「はは…別にそんな事は。」
「どうだかね。ところで…舞は来月にはジュニア枠を外れるのでしょう?」
「ほぼ間違いないな。うちは実力者揃いだから目立たないけど、永沢の実力はもうヘビーに入ってもおかしくないところまで来ている。永沢のキャリアは1年と少しだから、キャリアから考えればジュニア枠だろうけど、永沢はずっと格上の相手に揉まれてきたからね。他の団体の同世代の選手とは違うよ。」
「…それをわかっていて舞を指名か。あちらも策士ね。」
☆『WWCA認定世界ジュニア選手権試合』
「行っきま~す!」
永沢がフィニッシュに選んだのは、『ブリザードスープレックス』。フォールが取れる技を覚えたいという永沢に、伊達が教えた最初の技だ。永沢は強靭な足腰の持ち主だから、ブリザードスープレックスの高さ、パワーは一級品だな。
現在別のフィニュッシュホールドを練習中らしいが、Jrレベルならブリザードで十分だろう。試合はわずか7分30秒で終わった。まったく危なげなく永沢の勝利。
勝った永沢は一応、喜んではいたようだが…
「うーん、嬉しいけれど嬉しくない…不思議な気持ち。」
「それはね…多分物足りなかった…から。」
納得がいかない様子の永沢に、コーチである伊達が声をかける。
「物足りない?」
「そう。もう舞はジュニア枠では…強すぎるの。」
伊達は例によってボソボソとしゃべっているのだが、力強さは込められている。
「じゃあ…もうヘビーに転向した方がいいのかな?」
「そうね。」
永沢はちょっと考えていたが…
「舞、このジュニアベルト返上します。ベルトを獲れて嬉しかったけど、私の欲しいベルトはジュニアじゃないです。こっちです。」
永沢は伊達の腰を指差した。もちろんベルトは巻いていないのだが…意味はわかるよね。
WWCAタッグ選手権は『サイレントヴォイス』が抜群の連携を見せつけた。
得意連携の『クロスボンバー』をなんと4連発!最後もクロスボンバーからクロスフェイス・カンナへとつないで勝利。
『サイレントヴォイス』対決となったEWAヘビー戦は、王者伊達が50分を超える熱戦の末カンナを下し、防衛に成功。これで4度目の防衛に成功となり、伊達政権は長期化しつつある。
◇5年目9月◇
「ふ~。さすがに疲れましたね、社長。」
心底疲れきったという顔の井上さん。
「ああ…さすがにきつかったな。」
昨日夕方にリリースを流したのだが、EWAタッグ王者『νジェネ』のEWAマットでの防衛戦が急遽決定し、9月シリーズを欠場する事になってしまった。おかげで朝からファンからの抗議の電話が殺到。私と井上さんはその対応に終日費やしてしまった。ようやくひと段落した時にはあたりはもうすっかり暗くなっていた。
「先月がAACで、今月はEWAか。」
結城&武藤の『νジェネ』は、先月のシリーズを欠場して、AACへ王座防衛の為遠征し、見事に防衛して数日前に日本に帰国したばかりだったのだが、今度はEWA遠征が決定。
人気・実力ともに急上昇中の二人だけに今は国内で試合をさせたいのだが、この防衛戦を断ればタイトルは剥奪となってしまう。
「タイミング悪いですよね。WWCAタッグへの挑戦を発表した後でしたのに。」
井上さんは机に頬杖をついている。普段はあまり見せないが姿だが、今日はよほど疲れたのだろうな。
「今月の目玉だったからね。『νジェネ、WWCAタッグ奪取でタッグ3冠なるか』と、ガールズ・ゴングなど各誌が特集を組んでくれたのに。」
「代替カードも考えないといけませんね。」
結局、みことVS南の『パーフェクツ対決』でのWWCAヘビー戦を今月の目玉に変更し、急遽ジュニア王座の防衛戦を開催する。永沢に挑戦するのは5期生の吉田だ。正直なところ勝ち負け云々という試合ではないだろう。だが、未来のエース候補と期待している吉田に、タイトル戦を経験させるチャンスだ。きっとこの経験が将来生きてくるだろう。
「遙さん、もう使ってもいいですか?」
最近お馴染みとなった道場での永沢のお願い風景。もちろんお願いする相手は、伊達兼任コーチだ。永沢は練習を積んでいる新必殺技を早く使いたいらしい。
「…もう…大丈夫。」
「本当?」
「…嘘…」
「えーっ!!ひどいー!!」
永沢判断が早いよ…伊達のタイミングをわかってないな。伊達の話すテンポをちゃんとわかってあげないと。
「嘘…じゃない…もう使っても…大丈夫。」
「やったあ!!」
まったく…色々と忙しい奴だな。見ている分にはころころ表情が変わって面白いけど。
「…大事にね。」
「はーい!」
永沢は元気に返事をして、スキップで道場から出て行った。
「お疲れ、伊達。永沢の新技はどうだい。」
「…あっ…社長……もう大丈夫です。」
「そっか。で、どんな技なんだい?」
「…これと…これ…です。」
伊達は言葉では表現せず、右腕をチキンウイングに極めて、後方に投げる動作と、左腕をフルネルソンに近い形から後方に投げる動作で教えてくれた。
「欲張りだな。タイガースープレックスとドラゴンスープレックスを両方使いたいのか。」
「うん。」
「歴史的にはどちらか片方が基本だけどな。」
「だから…融合させて…一つに。」
「なるほど。考えたな伊達。タイガーとドラゴンの融合とはね…なんだかどこかで、似たようなのを見た事があるような気がするが。」
私の記憶に間違いがなければ、多分あの技になるだろうな。確かに必殺技としての説得力はある技だし、ブリッジワークが得意な永沢なら必殺技に出来るだろう。お披露目を楽しみに待つとしようかな。
WWCAから連絡があり、8月のタイトル戦挑戦者を指名してきた。
タッグ王座には『サイレントヴォイス』を、Jr王座には永沢を指名してきている。本来ならタッグ王座には今一番乗っている『νジェネ』をあてたいのだが、彼女たちはAACへタッグの防衛戦に行っているので不在だ。
それにしてもWWCAも抜け目ないよな…そろそろJrを卒業させようかなと缶上げている永沢を指名してくるとは。これでは永沢が勝ったとしても、すぐにベルトを返上する形になってしまう。もっとも、現在の所属選手でJr王座に挑戦できるのは永沢と吉田しかいないのだけど。
「相手のカトリーヌ・チャンは結構強いぞ。」
「大丈夫です!勝ちます、勝ちます!」
お気楽だなあ…こいつは。
「師匠に教わっている技もあるし、それで決めます。」
「まだ…ダメ。完成して…ないから、危ないもの」
「えーっ!!」
「ダメ。練習…足らない…」
この言葉に永沢は目を輝かせ、「じゃあ練習すればいいですか?」と尋ねた。
「でも…今月は無理。」
「ううん、出来る!デキル!」
ま、いつもこんな調子なのだよね。それでも以前よりも伊達がしゃべるようになったし、永沢も伸びてきている。いい感じだな。よしよし…
「目論見通りって顔ね、社長。」
南が意味ありげに微笑む。
「またヒール社長な顔していたわ。」
図星。
「はは…別にそんな事は。」
「どうだかね。ところで…舞は来月にはジュニア枠を外れるのでしょう?」
「ほぼ間違いないな。うちは実力者揃いだから目立たないけど、永沢の実力はもうヘビーに入ってもおかしくないところまで来ている。永沢のキャリアは1年と少しだから、キャリアから考えればジュニア枠だろうけど、永沢はずっと格上の相手に揉まれてきたからね。他の団体の同世代の選手とは違うよ。」
「…それをわかっていて舞を指名か。あちらも策士ね。」
☆『WWCA認定世界ジュニア選手権試合』
「行っきま~す!」
永沢がフィニッシュに選んだのは、『ブリザードスープレックス』。フォールが取れる技を覚えたいという永沢に、伊達が教えた最初の技だ。永沢は強靭な足腰の持ち主だから、ブリザードスープレックスの高さ、パワーは一級品だな。
現在別のフィニュッシュホールドを練習中らしいが、Jrレベルならブリザードで十分だろう。試合はわずか7分30秒で終わった。まったく危なげなく永沢の勝利。
勝った永沢は一応、喜んではいたようだが…
「うーん、嬉しいけれど嬉しくない…不思議な気持ち。」
「それはね…多分物足りなかった…から。」
納得がいかない様子の永沢に、コーチである伊達が声をかける。
「物足りない?」
「そう。もう舞はジュニア枠では…強すぎるの。」
伊達は例によってボソボソとしゃべっているのだが、力強さは込められている。
「じゃあ…もうヘビーに転向した方がいいのかな?」
「そうね。」
永沢はちょっと考えていたが…
「舞、このジュニアベルト返上します。ベルトを獲れて嬉しかったけど、私の欲しいベルトはジュニアじゃないです。こっちです。」
永沢は伊達の腰を指差した。もちろんベルトは巻いていないのだが…意味はわかるよね。
WWCAタッグ選手権は『サイレントヴォイス』が抜群の連携を見せつけた。
得意連携の『クロスボンバー』をなんと4連発!最後もクロスボンバーからクロスフェイス・カンナへとつないで勝利。
『サイレントヴォイス』対決となったEWAヘビー戦は、王者伊達が50分を超える熱戦の末カンナを下し、防衛に成功。これで4度目の防衛に成功となり、伊達政権は長期化しつつある。
◇5年目9月◇
「ふ~。さすがに疲れましたね、社長。」
心底疲れきったという顔の井上さん。
「ああ…さすがにきつかったな。」
昨日夕方にリリースを流したのだが、EWAタッグ王者『νジェネ』のEWAマットでの防衛戦が急遽決定し、9月シリーズを欠場する事になってしまった。おかげで朝からファンからの抗議の電話が殺到。私と井上さんはその対応に終日費やしてしまった。ようやくひと段落した時にはあたりはもうすっかり暗くなっていた。
「先月がAACで、今月はEWAか。」
結城&武藤の『νジェネ』は、先月のシリーズを欠場して、AACへ王座防衛の為遠征し、見事に防衛して数日前に日本に帰国したばかりだったのだが、今度はEWA遠征が決定。
人気・実力ともに急上昇中の二人だけに今は国内で試合をさせたいのだが、この防衛戦を断ればタイトルは剥奪となってしまう。
「タイミング悪いですよね。WWCAタッグへの挑戦を発表した後でしたのに。」
井上さんは机に頬杖をついている。普段はあまり見せないが姿だが、今日はよほど疲れたのだろうな。
「今月の目玉だったからね。『νジェネ、WWCAタッグ奪取でタッグ3冠なるか』と、ガールズ・ゴングなど各誌が特集を組んでくれたのに。」
「代替カードも考えないといけませんね。」
結局、みことVS南の『パーフェクツ対決』でのWWCAヘビー戦を今月の目玉に変更し、急遽ジュニア王座の防衛戦を開催する。永沢に挑戦するのは5期生の吉田だ。正直なところ勝ち負け云々という試合ではないだろう。だが、未来のエース候補と期待している吉田に、タイトル戦を経験させるチャンスだ。きっとこの経験が将来生きてくるだろう。
「遙さん、もう使ってもいいですか?」
最近お馴染みとなった道場での永沢のお願い風景。もちろんお願いする相手は、伊達兼任コーチだ。永沢は練習を積んでいる新必殺技を早く使いたいらしい。
「…もう…大丈夫。」
「本当?」
「…嘘…」
「えーっ!!ひどいー!!」
永沢判断が早いよ…伊達のタイミングをわかってないな。伊達の話すテンポをちゃんとわかってあげないと。
「嘘…じゃない…もう使っても…大丈夫。」
「やったあ!!」
まったく…色々と忙しい奴だな。見ている分にはころころ表情が変わって面白いけど。
「…大事にね。」
「はーい!」
永沢は元気に返事をして、スキップで道場から出て行った。
「お疲れ、伊達。永沢の新技はどうだい。」
「…あっ…社長……もう大丈夫です。」
「そっか。で、どんな技なんだい?」
「…これと…これ…です。」
伊達は言葉では表現せず、右腕をチキンウイングに極めて、後方に投げる動作と、左腕をフルネルソンに近い形から後方に投げる動作で教えてくれた。
「欲張りだな。タイガースープレックスとドラゴンスープレックスを両方使いたいのか。」
「うん。」
「歴史的にはどちらか片方が基本だけどな。」
「だから…融合させて…一つに。」
「なるほど。考えたな伊達。タイガーとドラゴンの融合とはね…なんだかどこかで、似たようなのを見た事があるような気がするが。」
私の記憶に間違いがなければ、多分あの技になるだろうな。確かに必殺技としての説得力はある技だし、ブリッジワークが得意な永沢なら必殺技に出来るだろう。お披露目を楽しみに待つとしようかな。
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