NEW WIND社長 風間新 手記より
改訂版発行にあたり、編集部よりご挨拶。
この作品は連載126回で終了した長編リプレイ『NEW WIND社長 風間新 手記』に大幅な加筆・修正を加えた作品です。
以前の作品と比べると印象が変わる部分もあるかもしれませんが、より深みを増した風間新社長率いるNEW WINDの成長物語を楽しんでみてください。
(※今回はNEW WIND編のその39「一年早かったら」の後半に該当するお話です。)
改訂版発行にあたり、編集部よりご挨拶。
この作品は連載126回で終了した長編リプレイ『NEW WIND社長 風間新 手記』に大幅な加筆・修正を加えた作品です。
以前の作品と比べると印象が変わる部分もあるかもしれませんが、より深みを増した風間新社長率いるNEW WINDの成長物語を楽しんでみてください。
(※今回はNEW WIND編のその39「一年早かったら」の後半に該当するお話です。)
◇WWCA認定世界ジュニア選手権試合◇
「『ドラゴンタイガー』いきます!!」
永沢のフィニッシュ宣言。
『ドラゴンタイガーって何?』という会場の空気。
だが、その空気をまったく気にせず、永沢は嬉々としてバックから吉田を捕らえる。
吉田の左手首を後ろで掴み、相手の右腕を上に伸ばして手首を掴むと、そのままスープレックス!急角度で叩きつけ、そのままブリッジワークでフォールした。
こんな急角度のスープレックスを、まだまだ新人の吉田が返せるわけがない。よく受け切れたものだと感心してしまうよ。
この技は確かに、ドラゴンスープレックス的な要素と、タイガースープレックス的な要素が含まれている感じだけど、正確にはドラゴンタイガーとは言わない。
「12分6秒、12分6秒。ドラゴンタイ、いえ『テキーラサンライズ』で勝者、永沢舞!」
さすが、うちが誇る『コールするプロレス技辞典』の仲間リングアナだ。ちゃんとわかったみたいだね。
「ドラゴンタイガー!っていったのにィ!」
永沢が抗議するが、会場から笑いがおきる。
「ただ今の試合は、12分6秒、『テキーラサンライズ』で永沢舞選手の勝ちです。」
仲間リングアナは涼しい顔で再度コールする。
「いいぞ、仲間~!」と声援が飛び、会場から笑い声が起きた。
伊達は「両方を使いたいです。」という永沢に対し「…なら融合してみるのはどう?」とアドバイス。ドラゴンとタイガーを融合したようなこのテキーラサンライズを教えた。正確にはクラッチがドラゴンとは少々違うのだが、まあ親戚みたいなものだろう。
ちなみに技のアレンジの名手のダンディさん曰く「一工夫すれば『ドラゴンタイガー』にも出来ます。」だそうで。
さて兼任コーチである伊達だが、選手としては今シリーズ不調だった。タッグとは言えカンナにドラゴンスープレックスでフォール負けを喫し、南のネオ・サザンクロスロックでギブアップ負け。悪い事は重なるもので、試合中に負傷し、来月のシリーズは欠場となる。
「…ごめんなさい…社長。」
「気にするな。ケガはつきものだから。それに…」
「…それ…に?」
「全部、永沢のせいだから。」
「ひどーい!舞何もしていませんよ!」
「クス。そうかもしれない…」
「あー遥さんまで…ひどいです。」
ぷくーっと頬を膨らませて抗議する姿に、ちょっと重かった控え室の空気が和らいだ。
◇WWCA認定世界ヘビー選手権◇
南VSみこと『パーフェクツ対決』となったこの試合は、みことが南を圧倒していた。みことからは『誰も勝てなかったカオスに勝った』という自信が漲っている。
だが、それ以上に自信を漲らせていたのは南の方だった。みことのように表面に出ているわけではないが、南の瞳は常に輝いていた。どんなに劣勢になっても、南の瞳は輝きを失っていなかったのだ。
そして、みことがフィニッシュの草薙流竜巻兜落しを狙いに入った時、南が研ぎ澄ませていたナイフがみことを確実に抉った。
「きゃあああ!!!!」
南の必殺、ネオ・サザンクロスロックが完璧に極まり、みことは悲鳴を上げる。しかも、みことからすれば最悪な事に場所はリング中央ど真ん中だった。これは確実にフォールがとれるように『リング中央で草薙流竜巻兜落し』を狙った為なのだが、完全に裏目に出た。
(草薙流竜巻兜落しは、担ぎ上げてから旋回する為リング中央で仕掛けるのがベスト)
「このおお!!」
南が渾身の力で絞る。みことは必死に逃れようともがくが、今日のネオ・サザンクロスロクはこれ以上ないというほど完璧に決まっている。みことは、振りほどくことも、ロープに逃げることも出来ないままだった。
「くっ…ぐっ」暫くの間耐えていたみことだったが、やがて、右手でマットを叩き、ギブアップを宣言した。
「24分57秒 ネオ・サザンクロスロックにより勝者、南利美!」
試合後の控え室で南は満足そうな顔でシューズを脱いだ。
「強くなったわよ、みこと。」
この一言に全てが込められているな。
「そうか。」
「ええ。カオスに勝ったのも当然ね。」
「でも、そのみことに南は勝ったわけだろ?」
「そうね。確かに勝ったけど、私の力じゃない…あれは油断したみことが悪いのよ。」
南は寂しそうな顔をする。
「南?」
「…私はもう20歳よ。アスリートとして伸びる時期を過ぎたと思うの。」
「そんな事はないと思うけど。」
私はそうは思わない。
「そんな事はないわ。とりあえず今日は勝つには勝ったけれど、内容としては完璧じゃなかったわ。」
南は納得のいかない顔をする。相変わらず完璧を目指すからなあ。
「だな。確かに褒められた内容ではなかったかな…けど技は完璧だった。」
「あと…1年早かったらなあ…」
南は寂しそうな表情を浮かべる。
「一年早かったら?」
私は意味がわからず、そのまま聞き返してしまった。
「NEW WINDがあと1年早くできていたらよかったのに…って、こと。」
「…」
「1年早かったら、もっと違う結果になっていたかもしれないなって思う時もあるのよ。」
「南…」
「あら、もしもの話よ。そしたら私は、もっといいレスラーになれたと思わない?遥達はまだ伸びる時期なのに私だけが現状維持。この差は結構大きいわ…でも、私は諦めないけどね。あの子達には無駄にして欲しくないなあ。」といって南は故郷のある方向を見つめる。
「南…」
「ねえ、社長。食事奢ってよ…勝ったご褒美に♪」
「あのなあ…」
こうして南の名演技に騙された私は、食事を奢るはめになってしまった。私も策を練る人間だけど、ここまで完璧な演技は出来ないな。
南利美…やっぱり策士だよ。
「『ドラゴンタイガー』いきます!!」
永沢のフィニッシュ宣言。
『ドラゴンタイガーって何?』という会場の空気。
だが、その空気をまったく気にせず、永沢は嬉々としてバックから吉田を捕らえる。
吉田の左手首を後ろで掴み、相手の右腕を上に伸ばして手首を掴むと、そのままスープレックス!急角度で叩きつけ、そのままブリッジワークでフォールした。
こんな急角度のスープレックスを、まだまだ新人の吉田が返せるわけがない。よく受け切れたものだと感心してしまうよ。
この技は確かに、ドラゴンスープレックス的な要素と、タイガースープレックス的な要素が含まれている感じだけど、正確にはドラゴンタイガーとは言わない。
「12分6秒、12分6秒。ドラゴンタイ、いえ『テキーラサンライズ』で勝者、永沢舞!」
さすが、うちが誇る『コールするプロレス技辞典』の仲間リングアナだ。ちゃんとわかったみたいだね。
「ドラゴンタイガー!っていったのにィ!」
永沢が抗議するが、会場から笑いがおきる。
「ただ今の試合は、12分6秒、『テキーラサンライズ』で永沢舞選手の勝ちです。」
仲間リングアナは涼しい顔で再度コールする。
「いいぞ、仲間~!」と声援が飛び、会場から笑い声が起きた。
伊達は「両方を使いたいです。」という永沢に対し「…なら融合してみるのはどう?」とアドバイス。ドラゴンとタイガーを融合したようなこのテキーラサンライズを教えた。正確にはクラッチがドラゴンとは少々違うのだが、まあ親戚みたいなものだろう。
ちなみに技のアレンジの名手のダンディさん曰く「一工夫すれば『ドラゴンタイガー』にも出来ます。」だそうで。
さて兼任コーチである伊達だが、選手としては今シリーズ不調だった。タッグとは言えカンナにドラゴンスープレックスでフォール負けを喫し、南のネオ・サザンクロスロックでギブアップ負け。悪い事は重なるもので、試合中に負傷し、来月のシリーズは欠場となる。
「…ごめんなさい…社長。」
「気にするな。ケガはつきものだから。それに…」
「…それ…に?」
「全部、永沢のせいだから。」
「ひどーい!舞何もしていませんよ!」
「クス。そうかもしれない…」
「あー遥さんまで…ひどいです。」
ぷくーっと頬を膨らませて抗議する姿に、ちょっと重かった控え室の空気が和らいだ。
◇WWCA認定世界ヘビー選手権◇
南VSみこと『パーフェクツ対決』となったこの試合は、みことが南を圧倒していた。みことからは『誰も勝てなかったカオスに勝った』という自信が漲っている。
だが、それ以上に自信を漲らせていたのは南の方だった。みことのように表面に出ているわけではないが、南の瞳は常に輝いていた。どんなに劣勢になっても、南の瞳は輝きを失っていなかったのだ。
そして、みことがフィニッシュの草薙流竜巻兜落しを狙いに入った時、南が研ぎ澄ませていたナイフがみことを確実に抉った。
「きゃあああ!!!!」
南の必殺、ネオ・サザンクロスロックが完璧に極まり、みことは悲鳴を上げる。しかも、みことからすれば最悪な事に場所はリング中央ど真ん中だった。これは確実にフォールがとれるように『リング中央で草薙流竜巻兜落し』を狙った為なのだが、完全に裏目に出た。
(草薙流竜巻兜落しは、担ぎ上げてから旋回する為リング中央で仕掛けるのがベスト)
「このおお!!」
南が渾身の力で絞る。みことは必死に逃れようともがくが、今日のネオ・サザンクロスロクはこれ以上ないというほど完璧に決まっている。みことは、振りほどくことも、ロープに逃げることも出来ないままだった。
「くっ…ぐっ」暫くの間耐えていたみことだったが、やがて、右手でマットを叩き、ギブアップを宣言した。
「24分57秒 ネオ・サザンクロスロックにより勝者、南利美!」
試合後の控え室で南は満足そうな顔でシューズを脱いだ。
「強くなったわよ、みこと。」
この一言に全てが込められているな。
「そうか。」
「ええ。カオスに勝ったのも当然ね。」
「でも、そのみことに南は勝ったわけだろ?」
「そうね。確かに勝ったけど、私の力じゃない…あれは油断したみことが悪いのよ。」
南は寂しそうな顔をする。
「南?」
「…私はもう20歳よ。アスリートとして伸びる時期を過ぎたと思うの。」
「そんな事はないと思うけど。」
私はそうは思わない。
「そんな事はないわ。とりあえず今日は勝つには勝ったけれど、内容としては完璧じゃなかったわ。」
南は納得のいかない顔をする。相変わらず完璧を目指すからなあ。
「だな。確かに褒められた内容ではなかったかな…けど技は完璧だった。」
「あと…1年早かったらなあ…」
南は寂しそうな表情を浮かべる。
「一年早かったら?」
私は意味がわからず、そのまま聞き返してしまった。
「NEW WINDがあと1年早くできていたらよかったのに…って、こと。」
「…」
「1年早かったら、もっと違う結果になっていたかもしれないなって思う時もあるのよ。」
「南…」
「あら、もしもの話よ。そしたら私は、もっといいレスラーになれたと思わない?遥達はまだ伸びる時期なのに私だけが現状維持。この差は結構大きいわ…でも、私は諦めないけどね。あの子達には無駄にして欲しくないなあ。」といって南は故郷のある方向を見つめる。
「南…」
「ねえ、社長。食事奢ってよ…勝ったご褒美に♪」
「あのなあ…」
こうして南の名演技に騙された私は、食事を奢るはめになってしまった。私も策を練る人間だけど、ここまで完璧な演技は出来ないな。
南利美…やっぱり策士だよ。
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