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2017/05/23 14:12 |
あの日々はもう二度と戻らない 〜 outsider's report 後編_5
 このお話は、NEW WIND管理人Nの書いた『もう一度あの日のように~再会~』を、「Heel So Bad」のHIGEさんが別の視点から描いてくださった作品です。
 なおHIGEさんの承諾を得て、転載させていただいております。
 ~再会~ と合わせてお読みいただければ幸いです。





以下のSSはレッスルエンジェルスの世界観や、「NEW WIND」のN様により執筆された「NEW WIND」の設定、キャラクターを参考に描かれていますが、内容についてはHIGE個人の創作となります。必ずしも公式設定や開発者の意図、「NEW WIND」の原作、ファンの皆様一人一人の世界観に沿う内容ではない場合がありますことを予めご了承願います。
  ++  ++  ++  ++  ++
「あの記事について何かご意見がおありですか」
俺は駆け引きも何もなく単刀直入に言った。下から睨み、口髭を斜めに上げて。
周囲のざわめきが強くなる。休憩が終わろうとしていた。
「もちろんあるとも。だがね、君に語る意見を私は持ち合わせていない」
威圧するでもなく、ただ静かに立って俺を見下ろすダンディ須永は、奥に力を秘めた澄んだ瞳のまま言った。言葉とは裏腹に、怒気も非難の調子もなく飄然と。
辺りの空気が固くなる。俺の口の上の毛虫が、斜めからへの字に形を変える。
眉根を寄せてきつくした視線と、大海を思わせるどこまでも平静で深い視線が交差する。
遠くでゴングの音が鳴って、試合の始まりを告げた。
精一杯の強がりで鼻を鳴らし、俺は皮肉な口調で言う。
「あの程度の記事では、プロレス界の重鎮たるダンディ須永様のお言葉は賜れませんか」
それを聞いてダンディ須永が、ふ、と零した笑みは、嘲笑ではなかった。
一層優しくなった視線が、俺の歪んだ目に、矢よりも鋭く突き刺さる。
「あの記事への意見はNEW WINDの選手一人一人が持つべきものだからね。意義のある問題提議をしてくれた君には感謝しているよ」
再び言葉を失った俺は、歓声に誘われるようにリングへと視線を逸らす。
海外の名だたる王者たちが詰め込まれた四角いジャングル。いかにもワールドワイドなスケールを感じさせる、巨体同士のど派手な肉弾戦。
力と力のせめぎ合いとでも言えば聞こえも良いが、酷く大味に過ぎる展開に、海の向こうでもプロレス人気が陰っていることを感じざるを得なかった。
「海外王者たちをこの扱いとは、よほど今のNEW WINDは充実しているんですね」
「そのとおり。あの娘たちはいい風を吹かせているよ。少し塩辛い海風よりもね」
皮肉はユーモアに打ち消された。
誰がどう見ても、捻くれた子供と優しく諭す大人にしか見えない構図。
ラリアートの打ち合い。自分のエゴを抑えられない王者たちが、少しでも目立とうと暴れまわり、試合は次第に収集がつかなくなっていく。
「とっくに引退した元選手も、その“いい風”には入っているんですか」
暗い情念を宿した目で、陽性に輝く瞳を見やる。
「引退した選手というのが伊達と南を指すのなら、もちろん入っているさ。彼女らが吹かす熱い風は、NEW WIND全体に上昇気流を生み出してくれているよ」
パワーボムはカットで決らず、リング上では4人の海外王者が入り乱れての大乱戦となった。ゴングが打ち鳴らされ、ノーコンテストが告げられる。
大味な戦いは大味なまま、大味に決着した。
「……それで、本題はなんですか。このビッグマッチに賭けている風間社長が、俺に批判的な記事を書かせないために貴方を寄越したんですか」
興奮した観客達の声に負けぬよう、歯に衣を着せぬ物言いで核心を問いただす。
「ここに来たのは私の意志だよ。風間社長も君の事を気にしてはいたがね」
ダンディ須永は本部席をちらりと見て微笑を浮かべた。
「NEW WINDの記事を書く心構えは、君がプロレス記者だったころと何も変わらないさ。それとも、もう忘れてしまったかね」
何も変わらない?何もかも変わってしまった今でさえ?
NEW WINDの記事を書く心構え。忘れちゃいない。忘れるものか。
「ハッハッハッ、風間社長が記者に向けていつも言ってるアレですね」
試合を堪能し終わったO坂が話に入ってくる。ダンディ須永と笑みを交わすと、
「「見たままを、思ったように書いてください」」
風間社長の口調で同時に唱和した。
——結局、ダンディ須永は俺に面当ての一つもなく、手塩にかけた娘たちの試合を見るために立ち去った。去り際に、
「あの娘たちを良く見て、思ったように書きたまえ。もう一度あの日のように、ね」
とだけ言って。
あの頃と変わらぬ大きく温かな人間性が、輝きに満ちた日々を思い出させる。
かつての輝きをまとった二人の勇姿を見ることができるかもしれない……一瞬、そんな奇跡を信じたくなり……頭を振って甘い誘惑を打ち払った。
希望は絶望の根源だ。期待するから落胆する。夢を見るから悪夢に変わる……
同じ場所をどうどう巡りする思索を断ち切ったのは、一際大きな歓声だった。
セミファイナルにラインナップされた、ミドル・ウインドを賭けたタイトルマッチ。
ジーニアス武藤と相羽和希の一戦が佳境を迎えていた。
フライングニールキックの直撃で鼻から流血した相羽が、ひるむことなくフロントスープレックスで武藤を投げる。
受け身を取って跳ね起きる武藤。だが、その視界に相羽はいなかった。相羽はテクニックもスピードも上回る武藤のバックを取ってのけると、ジャーマンスープレックスで投げ切った。
スターライトジャーマン。輝かしき太陽ではない。その対となるべき月でもない。無限を数える星明りの一つでしかない相羽が、ただひたすらに磨き続けた必殺技。
間合い、呼吸、タイミング。バックへの回り込み、投げ切りブリッジで押さえる術の全てが一体となった芸術品を、天才の意地が跳ね返す。
幾度となく辛酸を舐めさせられた必殺技を耐え抜き、ジーニアスが猛反撃に出る。ニールキックの連発から、軽やかに天を舞うムーンサルトプレス。点を穿つ技の適確さ、圧倒的な安定感が天才の天才たる所以か。
相羽はなんとか返すが動けない。素早く立ち上がった武藤がこちら側のロープを見る。
ロープに向かって駆け——そのままトップロープに跳び乗った。
刹那の静止に、会場中が息を呑む。高く、ライトで逆光になった武藤が見せた決死の表情が、膝を抱えての高速回転の渦に巻き込まれる。
スワンダイブ式のダブルスピンムーンサルト!驚愕の声が巨大なドームを震わせる。超難度の神技を、大舞台のこの場面で見事決めてみせたジーニアス武藤は、紛うことなき天才だ。
——しかし、相手もひとつの天才だった。
5万の大観衆がレフェリーと一緒に叫んだカウントが、3ギリギリで止まった。
重低音ストンピングと共に立ち上がる相羽和希。大観衆の誰にも増して愕然とした表情を浮かべるジーニアス武藤。
信じ難い神技を返すこともまた、神技である。それを成し遂げたのは、素質などない凡人がたったひとつだけ持ち得た、努力と言う名の天賦の才。
苦しい修練により薄皮一枚を積み重ねて鍛え上げた身体が躍動する。
南への強い想いを込めた肘打ちから、数え切れぬ反復練習を経て身につけた伊達と同じフォームのハイキック。
崩れ落ちた天才の背後を奪うと、両腕を交差させて掴む。“ハイパースターライト”の構えに起きたどよめきは、両の手を振りほどいた天才の怒号が打ち破った。
その瞬間、天才の前には無数の道があった。
背後の首を掴みダイヤモンドカッター。目の前のコーナーを蹴って三角跳びウラカンラナ。バック宙しての回転蹴り。いや、ロープに走ってのダブルスピンムーンサルトアタックならば、今度こそ確実に倒すことができるはずだ——
そして凡人にはただ一つしかなかった。
迷いのない手が武藤の腰に回りクラッチする。華麗に舞わんとした体を持ち上げ、流麗な人間橋の弧を描く。
完全な形で決まったスターライトジャーマンが、激戦に終止符を打った。
リングには星が落ちているという。
あがいて、もがいて、のたうち回ってなお立ち上がる者だけが、
己の限界を知り、これ以上は辿り着けぬと知ってなお歩みを止めぬ愚か者だけが、
それを手にすることができるという。
そんな、希望でむせ返るほどの戯言を。
信じさせるだけの輝きを見せた凡人に、惜しみない賞賛を送ろう。
拍手の雨がリングに向けて降り注ぐ。掌を真っ赤にして手を打ち合わせ続けるO坂は、早くも感極まって瞳を潤ませている。
確かに名勝負だった。かつてのNEW WINDにはない、新しい風を見せてくれた。
ダンディ須永の語った言葉に偽りはなかった。
だからこそ、俺の胸の内に、かの試合への不安が際限なく膨らみ始めた。
古き風はもはや澱んで色褪せており、せっかくの熱を帯びた空気を殺すかもしれない。
期待は疑念にすり替わり、希望は絶望の予感となる。
深海に沈められたような息苦しさを覚えて、おもむろに席を立つ。
O坂の呼び声とリングに背を向けて足早に歩き出す。
肺が不安で埋め尽くされる前に、酸素とニコチンとタールを補給しなければならない。
  ++  ++  ++  ++  ++
NEW WINDにて掲載された『もう一度あの日のように〜再会〜その19「憧れたあの人の為に」』の時間軸におけるマスターシュ黒沢の動きを追ってみました。
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2015/07/28 18:00 | Comments(0) | あの日々はもう二度と戻らない 〜 outsider's report 

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