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2024/04/20 22:48 |
あの日々はもう二度と戻らない 〜 outsider's report 後編_7

このお話は、NEW WIND管理人Nの書いた『もう一度あの日のように~再会~』を、「Heel So Bad」のHIGEさんが別の視点から描いてくださった作品です。
 なおHIGEさんの承諾を得て、転載させていただいております。
 ~再会~ と合わせてお読みいただければ幸いです。





以下のSSはレッスルエンジェルスの世界観や、「NEW WIND」のN様により執筆された「NEW WIND」の設定、キャラクターを参考に描かれていますが、内容についてはHIGE個人の創作となります。必ずしも公式設定や開発者の意図、「NEW WIND」の原作、ファンの皆様一人一人の世界観に沿う内容ではない場合がありますことを予めご了承願います。
  ++  ++  ++  ++  ++
俺の左隣に腰を下ろした人物は、ベースボールキャップを目深にかぶり、洗いざらしのジーンズにスカジャンをラフに着こなしていた。
カジュアルなスタイルが、アスリートを思わせる無駄のないプロポーションに似合っている。
胸元に光るシルバーのアクセサリ——龍の意匠が施された——が、女性らしさと力強さを同時に主張し、帽子の陰に隠れてなお美しいと判る形の良い口元は、固い意思でもって強く引き絞られていた。
隣席に腕を組んで座るこの客は、美しい女性だった。
謎の美女の発するただならぬ雰囲気に、訝しんだ俺が問いかける寸前、
「お久しぶりです、O坂さん、黒沢さん」
“最強の龍”が口火を切った。
「どうもどうも。まさか“最強の龍”とお会いできるとは思わなかったですよ〜」
O坂の能天気な再会の挨拶が俺越しに告げられ、最強の龍が丁寧な挨拶を返す。
俺はまたしても空気になった気分で、背中を丸めてそれを聞いていた。
ダンディ須永の次は吉田龍子だって?同窓会にしては豪華すぎるメンバーだ。
吉田龍子。
NEW WINDの一時代を築いた“最強の龍”。
伊達遥、南利美の初代エースたちの全盛期と、現在のトップであるスターライト相羽、マイティ祐希子たちを繋ぐミッシングリンク。
“最強の龍”は決して虚仮威しの称号ではない。競争の激しいNEW WINDにおいて、猛追する相羽や祐希子たちを退け続け、永きに渡って王座を保持した実力は、歴代の王者の中でも屈指の存在だ。
伊達と南の激戦を記事にし続けたあの日々においても、トップの栄光の陰から頂点をじっと睨み据えていた彼女の焦げつくような視線は、俺の記憶に焼きついている。
その吉田の逸らさぬ視線を感じ、腹を括った俺は、ようやくそちらに相対した。
「ご無沙汰してます。吉田さんもお元気そうで何よりです。ラーメン評論の大家になられたとのお噂は聞いていますよ。大した評判だとか」
分かりやすい社交辞令は、吉田の口元を苦笑で緩ませた。
「よしてください。女子プロレスラーからの転向組なんで、物珍しさで騒がれていただけです。これからは下駄を外した実力勝負でやっていかないと」
かつてのエースは、新しい居場所を自分の手で掴み取っていた。
そんな彼女がこの席に座った理由は何だろうか。
「そう言えば、吉田さんはなんでこの席に?本部席か解説席ではないんですか?」
O坂が珍しく気の利いた質問をすると、吉田はじっと俺たちを見て低い声で答えた。
「……この席でしかできない用事があるからです」
どうやら近場のラーメンを喰べるついでに寄った訳ではなさそうだ。
尊敬する先輩達を貶める記事を書いた俺を吊るし上げるためか?
ダンディ須永以上に思惑の見えない相手だった。
最後の休憩時間が終わる。観客たちが席に戻っていく。
ぐるりを埋めつくす大群集。空席はまるで見当たらない。
新日本ドーム興行での大入り満員札止め。
昔日のNEW WINDを思い起こさせる観客動員。
興行はまさに大成功だ。
——あとは二人のイケニエが裁きの場に現れるのを待つばかり——。
またしても息苦しくなった俺が襟元をゆるめていると、
「セミとメインを吉田龍子風に論評すると何級になりますかね?」
O坂が能天気な質問を吉田に投げかけた。
吉田は微笑してからゆっくりと答えた。
「どちらも“プラズマサンダースライド級”……と言いたいところだけど、違うな」
キャップのひさしを上げ、秀麗な目元を露にする。
「セミは“スターライトジャーマン級”、メインは“ムーンサルトプレス級”でした」
その目は、今は遠い、激しき戦いの日々を見つめていた。
「相羽も、祐希子も、この私——
 “最強の龍”を倒して、その先に辿り着いた奴らですから」
照明が一段階落ち、吉田の表情と真意を陰に隠した。
ビジョンに若き日の伊達の勇姿が映し出される。
懐かしさと憧憬が入り混じって俺の胸を掻き乱す。
ビジョンに映る伊達が次々にシャイニングフェニックスを決める。
続いて南のネオサザンクロスロックに数多の名選手たちがマットを叩く。
そのどちらにも、吉田は登場していた。
自らの敗北の瞬間。それを時経て眺めるのは、一体どんな心境なのだろうか。
「確かにあの二人は強かった。心も技も体も、全てが最高のプロレスラーでした」
吉田が誰にともなく独白する。
南と伊達の果てを知らず高まる名勝負が、夢の欠片となって大会場に降り注ぐ。
南の引退試合が、奥底に仕舞いこんだ思い出を蘇らせた。
惜別の技を放つ伊達の流す涙が、俺の心の壁を溶かしていく。
伊達の最後の試合が、冷え切った胸の内を熱く燃え上がらせた。
見事に決まったテキーラサンライズに、思わず叫びが込み上げる。
灼熱の太陽にも似た熱い戦い。だけど、それは——
「だけど——それは昔の話です」
弾かれたように吉田へと振り向いた俺は、強い意志を秘めた目と視線を合わせた。
「相羽や祐希子たちの活躍を見るたびに、全盛期の自分だったら……そう、血が騒いだことはありました。だけど、今の私は“全盛期の自分”じゃない。血を失い戦う力を失った、龍の成れの果てにすぎません」
輝かしい“全盛期の戦い”の煽り映像が終わり、明かりが完全に落とされた。
「でも、南さんと伊達さんは、自分とは違う考えだったようです。だから、私はこの席に座ることにしました。一人の観客として結末を見届けるために」
懐かしい仲間リングアナのコール。
絶叫にも似た大歓声と伝説となった入場テーマが響き渡る。
“完璧なる関節の女神”南利美の入場が始まった。
「そしてもし……私の憧れた先輩たちが、今を必死に輝いているあいつらを差し置いての締めの舞台で、不様を晒すようなことがあれば」
花道と天に煌く南十字星以外は暗くなったはずの場内で、
「——自分の手で“ケリ”をつけるために」
吉田の瞳がギラギラと燃えていた。
観客のボルテージは沸点をとうに越え、クライマックスを迎えようとしている。
確かに、ここであの二人が凡戦を行ってしまったら大変な事態になるだろう。
高まった熱量は全てマイナスの方向に変換され、暴動すら起きかねない。
過去の栄光のみならず、現在のNEW WINDも壊滅的な打撃を受けるに違いない。
セミやメインの名勝負も、俺のようなゴシップ記者が書き立てるスキャンダラスな記事に呑み込まれ、後には不名誉な烙印だけしか残るまい。
とはいえそうなってしまえば、もはや何をしたところで無駄だろう。
一体どうするつもりだ、という問いは言葉にならなかったが、吉田は低い声で答えた。
「その時は乱入して、二人をリングから叩き出してから、観客に誠心誠意謝ります」
O坂が息を呑む音が聞こえた。
「二度とリングには上がらないし上がらせないと誓って、これからも相羽や祐希子たちを応援して欲しいと皆さんに頭を下げます」
衝撃の告白に停止した俺の思考を、“偉大なる鳳凰”のテーマ曲『フェニックス』が蘇らせた。
ハッとして、パイロの火花が吹き上がる花道を見やる。
炎の中から、鳳凰の象られた大扉が浮かび上がった。
紅蓮の輝きを割って、扉の隙間から白光が溢れ出る。
不死鳥の復活。
わななく右手を、同じくらい震えている左手が押さえつける。
思い出の中ではなく、今を生きる伊達遥が、そこにいた。
「……万が一、そうなってしまったら、お二方は記事を書いてください」
吉田は伊達と南から視線を外さず、O坂と俺に言った。
「現役選手たちをしっかりと大きく扱った上で、小さな記事で、しかし確かな誓約の言葉でもって、私たちが二度とリングを汚さないと誓ったことを記してください」
それならば確かに論調として、最後の蛇足はともあれNEW WINDの選手たちが素晴らしい試合をしたことを伝えることはできるだろう。
悪評は避けられまいが、風評被害は抑えられる。
むしろ、話題性によって現在のNEW WINDが注目されるかもしれない。
たとえ最悪の事態となっても、NEW WINDは救われる。
——あの二人と、今一人のイケニエを贖罪として捧げることによって。
南も伊達も見事にコンディションを整えてきた。
現役時代もかくやという姿態に驚嘆する。
だが鍛え抜かれた肉体ならば、吉田とて勝るとも劣らない。
職業柄の暴食なぞ感じさせぬ筋肉が、肩に、腕に、雄々しく隆起している。
望まぬ結末を迎えた時、彼女はやるだろう。
“最強の龍”は、言ったことは全てやってのけてきたのだ。
龍の声音は、自らに悪役を任じる悲壮な決意と、偉大な先達への敵愾心を感じさせた。
煉獄の炎を宿して燃えたぎる相貌。
あの日々に見たのと同じ、焦げつくような視線がリングに向けられている。
“最強の龍”の魂はすでに席を離れ、リングの中で最高の好敵手たちとの戦いに臨んでいるようだった。
世界を割れんばかりの大歓声が満たしている。
成れの果てと断じるには、あまりに大きな威容をまとう両雄が相見える。
“完璧なる関節の女神”と“偉大なる鳳凰”が向かい合う。
伊達遥と南利美の名前を呼ばわる大声援が、最高潮に高まった時。
観る者全ての“戦い”の始まりを告げるゴングが、高らかに鳴り響いた。
  ++  ++  ++  ++  ++
NEW WINDにて掲載された『もう一度あの日のように〜再会〜』の「その21〜25」までの時間軸におけるマスターシュ黒沢の動きを追ってみました。
……無茶振りされたので、無茶過ぎる返しを試みてみました(血走った目で)
試合の最後、結果如何によっては“最強の龍”がスカイブルーのリングに雪崩れ込むというメガトン級の爆弾を、こう、ね。
もはやハードルが上がったとかそう言う次元の話ではない気もしつつ……
すでに始まっている再会試合をじっくりと堪能させて頂きます!
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2015/08/05 18:00 | Comments(0) | あの日々はもう二度と戻らない 〜 outsider's report 

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