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2017/11/24 00:02 |
あの日々はもう二度と戻らない ~ outsider's last report
このお話は、NEW WIND管理人Nの書いた『もう一度あの日のように~再会~』を、「Heel So Bad」のHIGEさんが別の視点から描いてくださった作品です。
 なおHIGEさんの承諾を得て、転載させていただいております。
 ~再会~ と合わせてお読みいただければ幸いです。




以下のSSはレッスルエンジェルスの世界観や、「NEW WIND」のN様により執筆された「NEW WIND」の設定、キャラクターを参考に描かれていますが、内容についてはHIGE個人の創作となります。必ずしも公式設定や開発者の意図、「NEW WIND」の原作、ファンの皆様一人一人の世界観に沿う内容ではない場合がありますことを予めご了承願います。

  ++  ++  ++  ++  ++

 全選手の挨拶も終わり、グランドフィナーレを終えてなお熱冷めやらぬ新日本ドーム。
 エンディングテーマに送られて、上ずらせた声で興奮を伝えあい、満足を湛えた表情で帰路につく観客たち。
 吉田龍子もその人波に紛れて去っていった。

 リング上で全選手の挨拶が行われていた時、俺は彼女に訊ねた。
「あなたもあそこに上るべきじゃないですか。彼女たちに伝えるべきことがあるはずだ」
 すると吉田はリングから目を離さずに、
「いいえ。私はあそこに上ることを諦めたから、あの二人を信じ切ることができなかったから、ここにいるんです。今の私には、あの光の中に立つ資格はありません」
 そう言って――敵愾心に満ちたあの目とは違う、優しい憧憬の宿る眼差しで微笑んだ。

「今なら分かります。リングで全てを出し尽くし、やりきった私には、あそこに遺してきたものがありませんでした。だけどあの二人は違った。あの試合こそ二人にとって、胸に燻っていた、遺していた全てを燃やし尽くすのに必要な、最後の炎だったのだと」

 “最強の龍”は軽く手を上げて俺たちに別れを告げると、ベースボールキャップを目深にかぶり、しかしぐっと顎を上げ、颯爽とした足取りで去っていった。
 人の波へと消えゆく龍の背中には、凛と澄み切った空気が纏われていた。


「……何も言わなくていいのか?」
 リングの撤収作業が始まろうとしている中、激戦の余韻を味わっていたO坂がようやく立ち上がったのを潮に、俺は重たい口を開いた。

 腰を叩いて伸ばしていたO坂は、キョトンとした顔で「何をです?」と俺に訊ねる。

「今の俺は悪質な三流週刊誌のゴシップ記者だ。ああいった雑誌にとっちゃ実際の試合がどうだったか、大会が盛り上がったかどうかなんぞ知ったこっちゃないんだ。どんな悪辣な記事を書くか分からんぞ」
 それは、どんなに素晴らしい黄金であろうとも、錆び果てた真鍮に変える悪意の逆錬金術。

 そんな俺に、O坂はにんまりと笑みを広げると、
「風間社長の言葉通りですよ。“思うがまま、好きなように書いてください”」
――ダンディ須永と同じ言葉を告げた。

「……今の俺にも、あの人は同じ言葉を掛けるってのか?あの頃のような記事はもう書けやしないこの俺に?」

「言うでしょうねぇ~風間社長のことですから」

「なぜそう言い切れる?」

「はっはっはっ、それはきっと、あなたがゴシップ週刊誌の記者である前に、
 プロレスが好きで好きでたまらない、プロレスファンだからじゃないですか」

「――――」


 かつて、俺が憧れのプロレス記者になったばかりの遠い日のこと。
 新規に旗揚げされた団体の担当になり、カチコチに緊張していた新米記者に、
 風間社長は柔らかい笑みを浮かべて言った。

 好きなように書いてください。
 あなたが見たまま、感じたままを、あなたが思うように書いてください。


 その後。
 大会会場のバックステージにおいて、ばったり出会った風間社長が俺に告げた言葉は――

 もう繰り返すまでもないだろう。

 --- --- --- ---

 好きなように書いた記事をクライアントに手渡すと、出だしをざっと斜め読みした「セキララ」副編集長はゴルフ焼けの面を大いに破顔させた。

 締め切りの関係上「セキララ」にそのまま載ることになったその記事は、何やかやと波紋を呼んで、副編集長の作り笑いを苦虫の噛み潰しに変えることになる。

 小さな毛虫にも棘はある。
 今まで散々世話になったお礼代わりの、ささやかな一刺しだ。

 --- --- --- ---

 自分の記事を読み終えた俺は三流ゴシップ誌を投げ出し、伸びをしながら背もたれにもたれかかる。
 胸ポケットに伸びた手が、煙草を切らしていたことに気付いて口ひげを所在無くつまんだ。

 買いに出ようと腰を浮かせかけ、まあいいさと座り直す。
 実入りの良い仕事が減ったばかりだし、新しいクライアントは煙草がお好きではないようだ。
 今の内から体を慣らしとくのもいいだろう。

 どうせこのご時世、プロレス会場はどこもかしこも禁煙なのだから。


  ++  ++  ++  ++  ++

週刊セキララ NEW WIND新日本ドーム大会特集
この世の真実を追い続けるコラム「outsider's report」NO.75
「あの日々はもう二度と戻らない」



 前回の記事が誌面を飾って間もなく、NEW WINDから新日本ドーム大会の招待状が届いた。
「そこまで言うならその目で見て記事を書け」ということだろう。
 なるほど先方はこの大会に余程の自信があるとみえる。

 この“挑戦”を真っ向から受け、今回のoutsider's reportは大増版として新日本ドーム大会観戦記にさせていただいた。

 会場入りしたのはセミ前あたりだったろうか。
 もちろんアンダーカードなど見るまでもないと思ったからだ。

 そのため、下位の試合に見るだけの価値があったかどうかはわからない。
 少なくとも大会前の私には価値を見出せなかったということだ。
 実力が足りぬアンダーカードの選手たちには、カードを見ただけで早い時間に足を運ばせるだけの魅力をしっかり発信してもらいたいものだ。

 そんなわけで、私が最初に見た試合は場外モニターに映し出された八島静香とノエル白石の試合だった。

 大舞台における中ほどのカード……それ以上でもそれ以下でもないという印象。
 八島の荒っぽさには迫力があるものの技術がまるで足りず、安定感にも欠けていた。
 白石はパワーこそ大したものだが、心の強さと覚悟が足りず早々にへし折れていた。
 まあ、このまま単なる中堅選手に甘んじるつもりならあれで十分だろう。
 だがトップを狙うには、あまりに足りないものが多すぎる試合だったのではないだろうか。

 次の試合はNEW WINDの抱える問題点、トップ陣と中堅選手の隔たりを顕著に表していた。

 ミミ吉原とブレード上原は、技のキレに定評がある選手だ。
 洗練されたテクニックは確かにキレイで見栄えがする。
 鮮やか過ぎて、まるで舞台でも見ているのかと錯覚したほどだ。
 彼女らの技には戦いの持つ怖さや緊迫感、倒さんとする気迫がまるで感じられなかった。
 自分の武器を磨くのは結構だが、竹光から真剣味など感じられるはずもない。
 次に見る機会があるなら、今度は演舞ではなく“プロレス”を見せてもらいたいものだ。

 二代目サンダー龍子は、彼女らと真逆の存在だった。
 腕力にものを言わせて相手をぶっとばす豪快なファイトスタイル。
 しかし自分の力量をわきまえず、相手が受けきれる限界を見極めもせずに危険な攻撃を繰り出すだけなら、鉄パイプを振り回す街のごろつきと変わりはしない。
 かつて“クラッシャー”と呼ばれ怖れられたサンダー龍子は、練習と経験を積み重ねた確かな技術による揺ぎ無い安定感を持っていた。
 「サンダー龍子」 の凄みは、赤子がとんでもないことをしでかさないかとハラハラさせられるスリルとはまるで別物だと知るべきである。畏れと憧憬の宿る“クラッシャー”ではなく、誰からもリスペクトされぬ恥ずべき“壊し屋”に成り果てる前に。

 そして伝説となった南利美の影として生きてきた南智美。
 彼女の試合を観ていると、かつて輝いていた宝石を思い起こさせ、次いで妙に出来のいい模造品を見ているような違和感に苛まれる。
 この違和感は、仮面を脱ぎ去って素顔に戻ったはいいが、素顔の自分が未だ何者か定まっていないという歪みから生じているようだ。
 この日の南智美は太陽の光を借りて輝く月――しかも迷いという霞の掛かった朧月だった。
 彼女が姉の影から抜け出してただ一つの満月として輝くには、自分だけが持つ光を自分自身の手で見い出さねばならないのだろう。

 セミファイナルはなかなかの熱戦だった。

 天才をリングネームに冠する武藤の技は、異名通りすべてが的確で小気味良さがある。
 努力の人として知られる相羽の技には、積み重ねた修練に裏打ちされた説得力がある。
 NEW WINDのトップ戦線に名を連ねる両者は、今まで登場した選手とは別格だ。

 超難度の大技を大舞台で決める武藤のハートの強さと華麗さは、なるほど天才の名に相応しい。
 だが、ああいった大技が最高の威力を誇るのは初お披露目の時であり、それを返されてしまった事実を真摯に受け止めねばならない。
 試合を決めた技が今まで数え切れぬほど使われてきたスターライトジャーマンであったことも合わせ、技の説得力とは何なのか一度見つめ直すべきだろう。

 勝利した相羽からは円熟期に入って久しい印象を受けた。
 それは裏返せば成長の限界を迎えており伸びしろがもうないという意味である。
 もしかしたらまだ先があるのかもしれない。
 相羽は幾度も限界を超えて来たのだから。
 しかし時は無限ではない。もう上を目指すよりも、すぐ下でまごついている連中に何かを伝えるべき時が来ているのかもしれない。
 プロレスラーとして最も大事な“魂”を受け継いだ者として、自分が成すべきと信じる道を思い残すことなく走り抜けて欲しい。

 新日本ドーム大会のメインイベントは、フルタイムを戦う激戦であった。

 金色の獅子と紅蓮の戦乙女の激突は、会場を揺るがし観客を熱狂させた。
 ビューティボムの豪快無比な破壊力。
 ムーンサルトプレスの圧倒的な説得力。
 必殺技とはなんであるのか。
 信念とプライドがぶつかりあう、ビッグマッチのメインイベントに相応しい闘い。

 試合内容についての言及は週刊レッスルやGirls Gongといった専門誌に譲り、ここでは大仕事を成し遂げた二人のメインイベンターに注目したい。

 ビューティ市ヶ谷は途切れることのない攻め手でチャンピオンを始終守勢に回らせていた。
 結果こそ引き分けだが、この試合は間違いなくビューティ市ヶ谷のものだったと言える。
 にも関わらず、引き分けてしまった。
 勝利に近しい試合内容を誇るより、まだ勝利していない試合を驕慢なる高笑いにて落とした愚かさを省みる必要がある。
 あの油断を戒めとしない限り、“絶対女王”として君臨することは決して叶わない。
 ビューティ市ヶ谷の最大の敵はマイティ裕希子ではなく、自分自身の傲慢なのだ。

 “絶対女王”マイティ裕希子の築き上げてきた必勝パターンが破られたとき、炎の女帝は想像以上の脆さを見せた。
 勝利の方程式が絶対的なまでに強固だったからこそ、その他の展開に対する柔軟さが失われ、自信が深かった分だけ迷いも深くなってしまったのだろう。
 「何ゆえ破られたのか」 という答えのない迷宮に嵌りこむ前に、自らの戦法が今まで 「何ゆえ必勝たりえたのか」 を改めて考察せねばならない。
 ビューティ市ヶ谷が自らのパワーに揺ぎ無い自信を持つように、マイティ裕希子が自身の持つ絶対の武器を思い出した時、新たなる高みに続く道を見出すことができるはずだ。

 そして大会の最後に迎えた、南利美と伊達遥の再会試合。

 この試合が“趣味の悪いロートルショー”だったかどうかは、実際にその目で見た観客一人一人の判断に委ねたい。

 一つだけ間違いなく言えることがあるとすれば。
 「NEW WIND17周年記念興行」をこの試合が締め、その内容が大会の全て――
 ひいてはNEW WINDの現在過去未来の全てを象徴していたということだけだ。

 私たちは知っている。
 かつて黄金時代を彩った選手たちの艶やかな勇姿を。

 あの日々は二度と戻らない。

 そして世界は、まだ見ぬ今日を紡ぎ続ける。

 いつかの風に思い出を遺して来たものたちよ。
 今こそ風の中へと還る時は来た。

 新たな風に乗り、新たな風になり、天使たちは羽ばたき続けていた。

 南十字星が輝いて道標を示した、あの空を。
 燃え上がる翼で不死鳥が飛んだ、その先を。

 その目で確かめるのだ。

 新たなる風が、あの戦いに勝るとも劣らぬ熱を帯びた時、
 我らは至極の感動を知るだろう――


 もう一度、あの日のように。


  ++  ++  ++  ++  ++

NEW WINDにて掲載された『もう一度あの日のように~再会~』後の、マスターシュ黒沢の書いた記事になります。

まあともかくこんな感じに、まだまだ伊達や南には程遠いなどと苦言を呈すふざけた“毛虫野郎”を見返すべく、NEW WINDの未来を担う選手たちの奮起があったわけですよ!

その後の選手たちの活躍はNさんの関連SSにてお確かめくださいっ
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2015/08/12 18:00 | Comments(0) | あの日々はもう二度と戻らない 〜 outsider's report 

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