NEW WIND社長 風間 新 手記より。
※この手記は基本的にリプレイですが、風間 新 社長視点で書かれており、創作要素を多分に含んでいます。
ここでの各登場人物の設定は公式なものでなく、管理人N独自のものです。
それをご了承の上、つづきへとお進みくださいませ。
※この手記は基本的にリプレイですが、風間 新 社長視点で書かれており、創作要素を多分に含んでいます。
ここでの各登場人物の設定は公式なものでなく、管理人N独自のものです。
それをご了承の上、つづきへとお進みくださいませ。
◇11年目4月◇
先月の最終戦でAACタッグ王座から陥落した“孤高の天才姫”武藤めぐみが引退を表明した。
彼女の引退試合の要求はいたってシンプルだった。
「社長、あと1試合だけで引退します。」
武藤は“させてほしい”という言葉は使わなかった。
決意を込めての言い切りだ。
「そうか。そういうからにはカードも決まっているのだね?」
と聞きながら私はすでにそれが何かもわかっていた。
「はい。」
武藤はまっすぐに私を見る。
「・・・九州ドームは押さえてあるよ。武藤の引退試合はメインイベントだ。」
「ありがとうございます。引退する私をメインに使ってくださって。」
「ドームのメインだ。カードはわかっているよね。」
「はい。多分私の希望するカードだと思います。」
その希望する対戦カードは・・・
☆NEW WIND九州ドーム大会“孤高の天才姫”ファイナルレジェンドバトル MAX WIND女王戦 60分1本勝負☆
“女王” 結城千種 VS 武藤めぐみ “挑戦者”
「最後に確認するが、タッグは組まなくていいんだね?」
「はい。先日の“どさんこドーム”が勝っても負けても最後のタッグのつもりでしたから。それに・・・」
「結城とはシングルで思いっきりやりたい。」
「はい。そうです。社長、我侭ばかりですがよろしくお願いします。」
武藤は素直に頭を下げた。
少しは成長したのかな・・・
「わかっているよ。存分に暴れておいで。」
「はい。」
武藤にしては珍しく素直だなあ。
それにしてもついに3期生までリングを去る時が来たか・・
結城よりも先に武藤が去るのは、“要”だった瞬発力の低下が著しかったのが原因だろうな。
武藤の得意技は“ジャンピングニー”、“シャイニング・ウイザード”や“ダブルスピンムーンサルト”といった技で、“膝”へのダメージが溜まりやすい。
武藤は大きな故障こそなかったけれど、長年飛び続ければ蓄積ダメージは相当のものだろう。
パフォーマンスが落ちたな・・・という時期は結城もほぼ同時期だったのに、結城は現時点でも未だ団体トップレベルの試合をこなしている。
この差は膝へのダメージしかないだろうな。
一見華やかに見える空中殺法だけど実は諸刃の剣であり、使う者へのダメージも大きい。
未だフォームこそ崩れてはいないけれど、飛距離・スピードの低下は明らか。
最強の武器を失った“孤高の天才姫”が、上位に踏みとどまれるほどNEW WINDのリングは甘くない。
多分武藤も、膝の限界を悟ったのだろう。あと一試合がぎりぎりなのかもしれない。
「社長、この間武藤さんが洩らしていましたよ、“悔しいけど今の私より藤島の方が綺麗に遠くへ飛べる。”って。」
「“・・・でも威力は私の方があるけどね。”だろ?」
「はい。その通りです。武藤さんらしいですね。」
「だな。」
私と井上さんは笑う。
いつもツンツンしているけど、武藤は新人藤島の事を気にかけてくれている。
マッキーの引退試合の時もそうだったけど、基本的には優しい子なんだよね。
誤解されやすいけど、とてもいい子なんだよ。
そのいい子である武藤の引退試合の九州ドームは超満員札止め。
熱気に溢れる中、本日の主役の登場を待っている。
「青コーナーより挑戦者 武藤めぐみ選手の入場です。」
今日はタイトルマッチ。
いくら引退試合とはいえ青コーナーが先に入場するのは決まりだからね。
テーマ曲に乗って登場した武藤に、大きな拍手が送られる。
武藤の後ろにはまだデビュー前の藤島の姿が。
武藤のご指名で本日のセコンドにつくことになっており、初めて歩くドームの花道に幾分顔が強張っている。
「しっかりついてきなさい。今度は一人で歩くんだから。」
「は、はい。」
武藤! 武藤!
武藤コールが九州ドームに響き渡る。
武藤はロープを前転してリングイン。
ライバルであり親友の結城の入場を待つ。
すでにガウンは藤島に預けて臨戦態勢だ。
「続きまして赤コーナーより女王、結城千種選手の入場です!」
女王として同期武藤の最後の挑戦を受ける結城。
どんな心境なのだろうか・・・それは私にはわからない。
一つだけわかっているのは“負けられない”ということ。
ここで武藤にベルトを奪われるような事になれば、価値は一気に下落してしまうし、“引退する武藤にとれる”ベルトを奪えない奴らという事になり、永沢たちの評価まで下がってしまう事になる。
本当なら挑戦させるべきではないのかもしれないが、武藤の貢献度を考えればこのカードは組んで当然。
早めにタイトル戦線から離脱した伊達やカンナとは対照的に、最後までタイトル戦線にいたいという武藤らしい引退試合だと思う。
女王の風格を漂わせながら入場してくる結城。
ロープの手前で“きっ”と武藤をにらみつけると、武藤同様前転でリングイン。
普段のリングインとは違うパフォーマンスは明らかに武藤を意識している。
武藤と結城・・・3期生だけで行う最後のシングルマッチ。
リング中央で睨みあう二人。
パァンツ!!
最後の選手紹介の前に武藤の右張り手が結城の頬を張る。
パアンッツ!!
即座に張り返す結城。
武藤はガウンを着たままの結城をアームホイップで投げつけるとストンピングを浴びせる。
ここでゴングが鳴る。
「本日のメインイベント、MAX WIND女王戦、武藤めぐみ選手引退試合60分1本勝負となります。レフェリー トニー館。」
ストンピングを浴びながらもガウンを脱いだ結城は足をつかんでグランドに引きずりこむと、スリーパーを仕掛ける。
「やってくれるわ」
「この程度・・・本気でかかってきなさいよ。」
(なおこの間にセコンドの相羽がさっとガウンを回収している。)
新人時代を思い出すタックル合戦、エルボーの打ち合い。
アームホイップで結城が放り投げれば、武藤は結城の髪を掴んでひっぱる。
「いったた・・・レフェリー反則!」
「こらー、ノーヘアーだ! 1・・・2・・・3・・・4」
もちろん5カウントの前に武藤は髪の毛から手を離すが、またすぐに捕まえる。
「はい、ノーヘアーだ!1・・2・・3・・4」
さっきよりカウントが早くなるがもちろん武藤は4で手を離す。
「離せばいいんでしょ?」
といってまた掴む。
「レフェリー、ヘアー!!」
結城側セコンドの相羽が大きな声を出す。
「1・2・3・4!」
で離すと武藤はもう一度髪を掴み振り回して放り投げる。
いわゆる“ヘアーホイップ”という奴だ。
放り投げられた結城は頭をガシガシと掻く。
いつ見ても地味に痛そうな技だよなあ・・・
「まだよっ!」
武藤は座り込んでいる結城の顔面へ低空のドロップキック。
結城は後ろにころがりコーナーへともたれかかる。
「千種~~!!」
武藤は助走をつけて、もう一度低空のドロップキックを顔面に叩きこむ。
会場からは、“おおー”という声。
地味な基本技のアームホイップとドロップキックも工夫次第で盛り上げる材料にはなるなあ。
「いい加減にしなさいよねっ!」
先に立ちあがった結城が武藤をコーナーにふり、クローズラインを叩きこむ。
今度は武藤がコーナーを背負ってしまう。
「よくもやってくれたわねっ!」
結城は武藤の顔にシューズを押し付けると、ぐいっっと押し込む。
“顔面ウオッシュ”といわれる技だ。
正直地味に痛いよなあ・・・
同期の意地の張り合いが続いたが、徐々に力の差がではじめてしまう。
一番の武器である飛び技を狙う癖が残っている武藤だが、切れがない。
ローリングソバットは簡単に受け止められ、そのままバックをとられてしまった。
「めぐみっ!!」
結城は裏投げで武藤を叩きつける。
ここで流れが一気に加速。
結城は裏投げでぐったりしている武藤を引き起こすと、胴を抱えて引き寄せる。
その瞬間会場に緊張感が走る。
結城はその勢いを利用して武藤の体を縦に回転させると、パワーボムの体勢に抱えあげ、横回転し、マットへと叩きつけた。
スーパーフリーク炸裂!
「武藤、返せっ!!」
セコンドの藤島が叫び、それに呼応するかのように客席からも「返せ~っつ!」と声援が飛ぶ。
バン!
バン!!
3カウント目の直前で武藤が肩を上げる。
「おおっ~~!!」
「まだ・・・」
武藤は結城を横から抱えると、背中から自分の前へと落す。
「ぐっつ!」
もちろんその結城の背中には武藤の右膝がつきささる。
シュミット式バックブリーカー・・・これは武藤の必殺技へのプレリュード。
考えてみればこれも自分の膝を痛めるなあ・・・
武藤はコーナーへと駆け上がる。
・・・とはいえ全盛期の半分以下のスピード・・・だ。
「千種~っつ!!」
これが見納めか・・・ここ最近は封印していた必殺技、ダブルスピンムーンサルト!
綺麗に回転してはみせたが、やはり飛距離が出ない。
それでも結城にはHIT、武藤はそのままカバーするが・・・カウント2で結城はクリア。
「くっ!」
武藤がここで繰り出した技はデビュー当時のフィニッシュホールド、ローリングソバット。
鮮やかに決まったが、やはり威力が足らない。
デビューした頃はこれで決まったのに。
「このおっ!」
武藤はジャンプすると結城の顔面へボレーキックを叩きこむ。
ジーニアスシュート・・・ジャンピング式(ボレー)ハイキックだ。
結城は倒れない。
「・・・千種っ!!」
武藤もう一度ジーニアスシュート。
完璧に決まったが結城は倒れない。
「めぐみっつ!!」
結城は起き上がってきた武藤のバックを掴む。
「ごめんねっつ!!」
結城必殺のバックドロップが炸裂。
「プロレス技は数多くあるけど、私が一番好きな技は千種のバックドロップです。あの綺麗さは同じレスラーとしても憧れます。食らうのは嫌ですけど。」
雑誌のインタビューでこんな事をいっていたことを思い出す。
ベルトをかけてのシングル戦で・・・一緒に組んだタッグ戦で・・・一番結城のバックドロップを見ている武藤。
その武藤のレスラー生活最後に食らう技は・・・やはりコレなのだろうか。
バン!
バン!!
2度マットを叩いたトニーさん。ためにためて、首を左右にふる。
「ああ~」
というため息が会場中から聞こえ、そのため息に包まれるように、3度目のマットを叩く音がした。
「17分52秒 バックドロップからの体固めで勝者 結城千種。」
女王結城7度目の防衛に成功・・・
正直ここ最近の女王戦では一番内容がよかった。
武藤・・・まだやれるんじゃないのか?
と思ったのだが、武藤はヒザを抱えて倒れたまま。
「武藤先輩っ!」
血相変えて素早くとび出したセコンドの藤島がコールドスプレーを吹きかけている。
「大丈夫ですか、武藤先輩。」
「う~ん・・・もう飛べない。あとは貴方が飛びなさい。」
「めぐみ~っ!!」
結城が心配そうに覗き込む。
「頭大丈夫?」
「平気よ。・・・社長、このままセレモニーに入ってくれないかな?」
「・・・わかった。」
「只今の試合は結城千種選手の勝利となります、引き続き武藤めぐみ選手の引退式を執り行います。皆様お席を離れないでください。」
最後に結城が大きな花束を渡して、花束贈呈が終わる。
そして10カウントゴングの前に武藤の引退のメッセージ。
「えーと私は今日でリングを降ります。ありがとうございました。・・・私は引退しますが、来月には新人がデビューします。あそこにいる藤島瞳です。応援してあげてください。」
武藤らしくないメッセージにどよめく場内。
「わかった~応援するぞ~!」
「お疲れ~。」
と声が飛ぶ。
場内の照明が落とされ、カメラマンのフラッシュの光に武藤の姿が浮かびあがる。
瞳を閉じて、ギュッツと自分を抱きしめるように立つ武藤。
・・・惜別の10カウントゴング。
カァン!
カァン!
初めてみるシーンに見入る藤島。
カァン!
祈りをささげているように見えるスイレン。
カァン!
カァン!
相羽が泣いているのが見える。
カァン!
吉田がギュッと唇をかみ締めている。
カァン!
カァン!
カァン!
こらえ切れずに涙を流す結城。
カァン!
10回目のゴングが鳴った。この瞬間プロレスラー武藤めぐみではなくなる。
武藤のイメージカラーの紙テープが大量に投げ込まれ、スカイブルーのリングを埋め尽くした。
「よっし!胴上げだっ!!いくぞお前らっ!!」
「はいっ!」
そしてOGの上戸蒔絵(マッキー上戸)の音頭で、武藤の胴上げが始まる。
「ちょっと、頼んでないわよっ!」
「いいからいいからよっ!それ武藤!!武藤!!っと」
1回・・2回・・・3回と武藤の体が宙を舞う。
「ラスト~~っ!!武藤覚悟しろよ~~!!」
とニヤリとマッキーが笑う。
「えっ!ちょ、ちょっとマッキー先輩っ!!」
武藤の抗議に聴く耳もたず、上戸は“せえのっつ!!”と掛け声をかける。
今までで一番高く宙に放りあげられた武藤。
そして・・・そのまま落下・・・
もちろん、胴上げしていた面々はすでにそこにはいない。
「きゃああっつ!!」
ドスン!!
武藤は背中から落下。
まあ、ちゃんと受身はとっているが。
「いったた・・・」
「これ女子プロレスのお約束だからよ。悪く思うなよな。」
「マッキー先輩っ!!」
賑やかに終わる。こんな引退式があってもいいよね。
武藤めぐみ11年目4月引退。
「孤高の天才姫」は一人ではなく、仲間に愛されてリングを去った。
おつかれさま 武藤。
ちょっとだけ微笑んだように見えたスカイブルーのリングだったけど、もう一度見たらやっぱり寂しそうに見えたよ。
やっぱり知ってる人がいなくなるのは寂しいよなあ・・・
↓感想などはこちらへどうぞ。
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先月の最終戦でAACタッグ王座から陥落した“孤高の天才姫”武藤めぐみが引退を表明した。
彼女の引退試合の要求はいたってシンプルだった。
「社長、あと1試合だけで引退します。」
武藤は“させてほしい”という言葉は使わなかった。
決意を込めての言い切りだ。
「そうか。そういうからにはカードも決まっているのだね?」
と聞きながら私はすでにそれが何かもわかっていた。
「はい。」
武藤はまっすぐに私を見る。
「・・・九州ドームは押さえてあるよ。武藤の引退試合はメインイベントだ。」
「ありがとうございます。引退する私をメインに使ってくださって。」
「ドームのメインだ。カードはわかっているよね。」
「はい。多分私の希望するカードだと思います。」
その希望する対戦カードは・・・
☆NEW WIND九州ドーム大会“孤高の天才姫”ファイナルレジェンドバトル MAX WIND女王戦 60分1本勝負☆
“女王” 結城千種 VS 武藤めぐみ “挑戦者”
「最後に確認するが、タッグは組まなくていいんだね?」
「はい。先日の“どさんこドーム”が勝っても負けても最後のタッグのつもりでしたから。それに・・・」
「結城とはシングルで思いっきりやりたい。」
「はい。そうです。社長、我侭ばかりですがよろしくお願いします。」
武藤は素直に頭を下げた。
少しは成長したのかな・・・
「わかっているよ。存分に暴れておいで。」
「はい。」
武藤にしては珍しく素直だなあ。
それにしてもついに3期生までリングを去る時が来たか・・
結城よりも先に武藤が去るのは、“要”だった瞬発力の低下が著しかったのが原因だろうな。
武藤の得意技は“ジャンピングニー”、“シャイニング・ウイザード”や“ダブルスピンムーンサルト”といった技で、“膝”へのダメージが溜まりやすい。
武藤は大きな故障こそなかったけれど、長年飛び続ければ蓄積ダメージは相当のものだろう。
パフォーマンスが落ちたな・・・という時期は結城もほぼ同時期だったのに、結城は現時点でも未だ団体トップレベルの試合をこなしている。
この差は膝へのダメージしかないだろうな。
一見華やかに見える空中殺法だけど実は諸刃の剣であり、使う者へのダメージも大きい。
未だフォームこそ崩れてはいないけれど、飛距離・スピードの低下は明らか。
最強の武器を失った“孤高の天才姫”が、上位に踏みとどまれるほどNEW WINDのリングは甘くない。
多分武藤も、膝の限界を悟ったのだろう。あと一試合がぎりぎりなのかもしれない。
「社長、この間武藤さんが洩らしていましたよ、“悔しいけど今の私より藤島の方が綺麗に遠くへ飛べる。”って。」
「“・・・でも威力は私の方があるけどね。”だろ?」
「はい。その通りです。武藤さんらしいですね。」
「だな。」
私と井上さんは笑う。
いつもツンツンしているけど、武藤は新人藤島の事を気にかけてくれている。
マッキーの引退試合の時もそうだったけど、基本的には優しい子なんだよね。
誤解されやすいけど、とてもいい子なんだよ。
そのいい子である武藤の引退試合の九州ドームは超満員札止め。
熱気に溢れる中、本日の主役の登場を待っている。
「青コーナーより挑戦者 武藤めぐみ選手の入場です。」
今日はタイトルマッチ。
いくら引退試合とはいえ青コーナーが先に入場するのは決まりだからね。
テーマ曲に乗って登場した武藤に、大きな拍手が送られる。
武藤の後ろにはまだデビュー前の藤島の姿が。
武藤のご指名で本日のセコンドにつくことになっており、初めて歩くドームの花道に幾分顔が強張っている。
「しっかりついてきなさい。今度は一人で歩くんだから。」
「は、はい。」
武藤! 武藤!
武藤コールが九州ドームに響き渡る。
武藤はロープを前転してリングイン。
ライバルであり親友の結城の入場を待つ。
すでにガウンは藤島に預けて臨戦態勢だ。
「続きまして赤コーナーより女王、結城千種選手の入場です!」
女王として同期武藤の最後の挑戦を受ける結城。
どんな心境なのだろうか・・・それは私にはわからない。
一つだけわかっているのは“負けられない”ということ。
ここで武藤にベルトを奪われるような事になれば、価値は一気に下落してしまうし、“引退する武藤にとれる”ベルトを奪えない奴らという事になり、永沢たちの評価まで下がってしまう事になる。
本当なら挑戦させるべきではないのかもしれないが、武藤の貢献度を考えればこのカードは組んで当然。
早めにタイトル戦線から離脱した伊達やカンナとは対照的に、最後までタイトル戦線にいたいという武藤らしい引退試合だと思う。
女王の風格を漂わせながら入場してくる結城。
ロープの手前で“きっ”と武藤をにらみつけると、武藤同様前転でリングイン。
普段のリングインとは違うパフォーマンスは明らかに武藤を意識している。
武藤と結城・・・3期生だけで行う最後のシングルマッチ。
リング中央で睨みあう二人。
パァンツ!!
最後の選手紹介の前に武藤の右張り手が結城の頬を張る。
パアンッツ!!
即座に張り返す結城。
武藤はガウンを着たままの結城をアームホイップで投げつけるとストンピングを浴びせる。
ここでゴングが鳴る。
「本日のメインイベント、MAX WIND女王戦、武藤めぐみ選手引退試合60分1本勝負となります。レフェリー トニー館。」
ストンピングを浴びながらもガウンを脱いだ結城は足をつかんでグランドに引きずりこむと、スリーパーを仕掛ける。
「やってくれるわ」
「この程度・・・本気でかかってきなさいよ。」
(なおこの間にセコンドの相羽がさっとガウンを回収している。)
新人時代を思い出すタックル合戦、エルボーの打ち合い。
アームホイップで結城が放り投げれば、武藤は結城の髪を掴んでひっぱる。
「いったた・・・レフェリー反則!」
「こらー、ノーヘアーだ! 1・・・2・・・3・・・4」
もちろん5カウントの前に武藤は髪の毛から手を離すが、またすぐに捕まえる。
「はい、ノーヘアーだ!1・・2・・3・・4」
さっきよりカウントが早くなるがもちろん武藤は4で手を離す。
「離せばいいんでしょ?」
といってまた掴む。
「レフェリー、ヘアー!!」
結城側セコンドの相羽が大きな声を出す。
「1・2・3・4!」
で離すと武藤はもう一度髪を掴み振り回して放り投げる。
いわゆる“ヘアーホイップ”という奴だ。
放り投げられた結城は頭をガシガシと掻く。
いつ見ても地味に痛そうな技だよなあ・・・
「まだよっ!」
武藤は座り込んでいる結城の顔面へ低空のドロップキック。
結城は後ろにころがりコーナーへともたれかかる。
「千種~~!!」
武藤は助走をつけて、もう一度低空のドロップキックを顔面に叩きこむ。
会場からは、“おおー”という声。
地味な基本技のアームホイップとドロップキックも工夫次第で盛り上げる材料にはなるなあ。
「いい加減にしなさいよねっ!」
先に立ちあがった結城が武藤をコーナーにふり、クローズラインを叩きこむ。
今度は武藤がコーナーを背負ってしまう。
「よくもやってくれたわねっ!」
結城は武藤の顔にシューズを押し付けると、ぐいっっと押し込む。
“顔面ウオッシュ”といわれる技だ。
正直地味に痛いよなあ・・・
同期の意地の張り合いが続いたが、徐々に力の差がではじめてしまう。
一番の武器である飛び技を狙う癖が残っている武藤だが、切れがない。
ローリングソバットは簡単に受け止められ、そのままバックをとられてしまった。
「めぐみっ!!」
結城は裏投げで武藤を叩きつける。
ここで流れが一気に加速。
結城は裏投げでぐったりしている武藤を引き起こすと、胴を抱えて引き寄せる。
その瞬間会場に緊張感が走る。
結城はその勢いを利用して武藤の体を縦に回転させると、パワーボムの体勢に抱えあげ、横回転し、マットへと叩きつけた。
スーパーフリーク炸裂!
「武藤、返せっ!!」
セコンドの藤島が叫び、それに呼応するかのように客席からも「返せ~っつ!」と声援が飛ぶ。
バン!
バン!!
3カウント目の直前で武藤が肩を上げる。
「おおっ~~!!」
「まだ・・・」
武藤は結城を横から抱えると、背中から自分の前へと落す。
「ぐっつ!」
もちろんその結城の背中には武藤の右膝がつきささる。
シュミット式バックブリーカー・・・これは武藤の必殺技へのプレリュード。
考えてみればこれも自分の膝を痛めるなあ・・・
武藤はコーナーへと駆け上がる。
・・・とはいえ全盛期の半分以下のスピード・・・だ。
「千種~っつ!!」
これが見納めか・・・ここ最近は封印していた必殺技、ダブルスピンムーンサルト!
綺麗に回転してはみせたが、やはり飛距離が出ない。
それでも結城にはHIT、武藤はそのままカバーするが・・・カウント2で結城はクリア。
「くっ!」
武藤がここで繰り出した技はデビュー当時のフィニッシュホールド、ローリングソバット。
鮮やかに決まったが、やはり威力が足らない。
デビューした頃はこれで決まったのに。
「このおっ!」
武藤はジャンプすると結城の顔面へボレーキックを叩きこむ。
ジーニアスシュート・・・ジャンピング式(ボレー)ハイキックだ。
結城は倒れない。
「・・・千種っ!!」
武藤もう一度ジーニアスシュート。
完璧に決まったが結城は倒れない。
「めぐみっつ!!」
結城は起き上がってきた武藤のバックを掴む。
「ごめんねっつ!!」
結城必殺のバックドロップが炸裂。
「プロレス技は数多くあるけど、私が一番好きな技は千種のバックドロップです。あの綺麗さは同じレスラーとしても憧れます。食らうのは嫌ですけど。」
雑誌のインタビューでこんな事をいっていたことを思い出す。
ベルトをかけてのシングル戦で・・・一緒に組んだタッグ戦で・・・一番結城のバックドロップを見ている武藤。
その武藤のレスラー生活最後に食らう技は・・・やはりコレなのだろうか。
バン!
バン!!
2度マットを叩いたトニーさん。ためにためて、首を左右にふる。
「ああ~」
というため息が会場中から聞こえ、そのため息に包まれるように、3度目のマットを叩く音がした。
「17分52秒 バックドロップからの体固めで勝者 結城千種。」
女王結城7度目の防衛に成功・・・
正直ここ最近の女王戦では一番内容がよかった。
武藤・・・まだやれるんじゃないのか?
と思ったのだが、武藤はヒザを抱えて倒れたまま。
「武藤先輩っ!」
血相変えて素早くとび出したセコンドの藤島がコールドスプレーを吹きかけている。
「大丈夫ですか、武藤先輩。」
「う~ん・・・もう飛べない。あとは貴方が飛びなさい。」
「めぐみ~っ!!」
結城が心配そうに覗き込む。
「頭大丈夫?」
「平気よ。・・・社長、このままセレモニーに入ってくれないかな?」
「・・・わかった。」
「只今の試合は結城千種選手の勝利となります、引き続き武藤めぐみ選手の引退式を執り行います。皆様お席を離れないでください。」
最後に結城が大きな花束を渡して、花束贈呈が終わる。
そして10カウントゴングの前に武藤の引退のメッセージ。
「えーと私は今日でリングを降ります。ありがとうございました。・・・私は引退しますが、来月には新人がデビューします。あそこにいる藤島瞳です。応援してあげてください。」
武藤らしくないメッセージにどよめく場内。
「わかった~応援するぞ~!」
「お疲れ~。」
と声が飛ぶ。
場内の照明が落とされ、カメラマンのフラッシュの光に武藤の姿が浮かびあがる。
瞳を閉じて、ギュッツと自分を抱きしめるように立つ武藤。
・・・惜別の10カウントゴング。
カァン!
カァン!
初めてみるシーンに見入る藤島。
カァン!
祈りをささげているように見えるスイレン。
カァン!
カァン!
相羽が泣いているのが見える。
カァン!
吉田がギュッと唇をかみ締めている。
カァン!
カァン!
カァン!
こらえ切れずに涙を流す結城。
カァン!
10回目のゴングが鳴った。この瞬間プロレスラー武藤めぐみではなくなる。
武藤のイメージカラーの紙テープが大量に投げ込まれ、スカイブルーのリングを埋め尽くした。
「よっし!胴上げだっ!!いくぞお前らっ!!」
「はいっ!」
そしてOGの上戸蒔絵(マッキー上戸)の音頭で、武藤の胴上げが始まる。
「ちょっと、頼んでないわよっ!」
「いいからいいからよっ!それ武藤!!武藤!!っと」
1回・・2回・・・3回と武藤の体が宙を舞う。
「ラスト~~っ!!武藤覚悟しろよ~~!!」
とニヤリとマッキーが笑う。
「えっ!ちょ、ちょっとマッキー先輩っ!!」
武藤の抗議に聴く耳もたず、上戸は“せえのっつ!!”と掛け声をかける。
今までで一番高く宙に放りあげられた武藤。
そして・・・そのまま落下・・・
もちろん、胴上げしていた面々はすでにそこにはいない。
「きゃああっつ!!」
ドスン!!
武藤は背中から落下。
まあ、ちゃんと受身はとっているが。
「いったた・・・」
「これ女子プロレスのお約束だからよ。悪く思うなよな。」
「マッキー先輩っ!!」
賑やかに終わる。こんな引退式があってもいいよね。
武藤めぐみ11年目4月引退。
「孤高の天才姫」は一人ではなく、仲間に愛されてリングを去った。
おつかれさま 武藤。
ちょっとだけ微笑んだように見えたスカイブルーのリングだったけど、もう一度見たらやっぱり寂しそうに見えたよ。
やっぱり知ってる人がいなくなるのは寂しいよなあ・・・
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コメント
こんにちは、武藤もついに引退ですね…『NEW WIND』ではキャラは立つけど実績が弱い、という先立って引退したカンナと逆な立場になりましたね。
私は現在はテーマ別の3団体同時経営して2日に一回1~2ヶ月分プレイする感じです。4月まで仕事が忙しいので他のシミュレーション系はお預けで、他は息抜き程度に終わる格ゲーやネットで拾った【マッスルファイト】(マイナー中のマイナーなのでhttp://www.youtube.com/results?search_queryの「検索」《マッスルファイト》を参照して下さい。キ○肉マン好きにはたまらないです!なお《ファイプロ レッスル》で検索するとムキムキな相羽と真鍋のガチバトルが見れます)とかを短時間やってますね。そんな訳でウチでは【サバイバー】は未だタイムリーなゲームです(^^)
私は現在はテーマ別の3団体同時経営して2日に一回1~2ヶ月分プレイする感じです。4月まで仕事が忙しいので他のシミュレーション系はお預けで、他は息抜き程度に終わる格ゲーやネットで拾った【マッスルファイト】(マイナー中のマイナーなのでhttp://www.youtube.com/results?search_queryの「検索」《マッスルファイト》を参照して下さい。キ○肉マン好きにはたまらないです!なお《ファイプロ レッスル》で検索するとムキムキな相羽と真鍋のガチバトルが見れます)とかを短時間やってますね。そんな訳でウチでは【サバイバー】は未だタイムリーなゲームです(^^)
posted by 赤猫at 2007/03/04 15:49 [ コメントを修正する ]
私も久しぶりにレッスルを付けてみたら、伊達がいない(笑)
カンナがいなくて、ライラも寂しそうだし相羽もパラが落ち始めてました~
そこでまた止めちゃった(苦笑)