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”運命の歯車がとまる時” その88
 NEW WIND社長 風間 新 手記より。



※この手記は基本的にリプレイですが、風間 新 社長視点で書かれており、創作要素を多分に含んでいます。
 ここでの各登場人物の設定は公式なものでなく、管理人N独自のものです。
 それをご了承の上、つづきへとお進みくださいませ。
 ◇9年目12月◇

 氷室の引退興行シリーズではゆかりの深い土地を回る。
 さらにEWAとの提携を久しぶりに結び、若手時代に戦った懐かしい顔との再会を演出。
 もっとも懐かしい顔たちもすでに現役を引退、もしくは一線からは引いていて、EWAも代替わりをしていたのだけど・・・



「ギブアップ・・・」
 氷室の必殺技紫龍が冴える。後輩相手とは言え、今月の氷室は絶好調。
 今年度の新人王候補の筆頭と言われる天才娘、ジーニアスを完璧な紫龍で絞り上げ、ギブアップさせる。
「まだ出来ますよ!」
 ジーニアスが試合後に氷室に向けて贈った言葉に会場から同意の拍手が起きた。
「この後の運命を決めるのは貴方たち。」
 氷室はすでに悟りの域に達したようだった。

 このシリーズの氷室は若手との対戦を希望し、このジーニアス武藤戦後もスターライト相羽、スイレン草薙、シャイニング神威と8・9期生を全て紫龍で撃破する。
「まだやれると思うけどな。」
 と私も本気で言うが、氷室は・・・
「テクニックで誤魔化しただけ。」と意に介さない。
 
 地元富山大会では最後のメイン出場を果たし、後輩フェニとの一騎打ち。
 地元の大声援を背に懸命に戦ったが、フェニの必殺技“フェニックスライジング”に沈む。

「ね、長時間になるとだめ。」
 と試合後の氷室。
やはり仕方のないことなのか・・・


 そうこうしているうちに最終戦を迎える事になってしまった。
「社長、氷室紫月ファンクラブの代表の方がお見えですが。」
 と井上さん。
氷室のファンクラブといえば、その組織規模、熱心さ全てが業界トップレベル。
「さては引退試合の演出について何か持ってきたかな・・・」
 と私は呟く。

 その後代表と会談したのだが、予想通りに演出面での打診を受けた。
その案は素晴らしいものだったので、取り入れる事になった。
 決してレスラーとして最強ではなかったが、氷室はお客さんに愛されていた度では最強かもしれないな。


 
 
 最終戦の”どさんこドーム”は超満員。
氷室を送り出したいファンが全国から終結していた。
 贈られた花にはユイナで共演した俳優さん達の名前も多数。
花の数では南の引退試合よりも多いと思う。皆に愛されていたのだなあと実感したよ。
  
「赤コーナー 富山県出身 “神秘の美少女”! 氷室~しず~く~!!」
 紫の紙テープが飛ぶ。今回も私が特別リングアナ。
 
 さあ紫月、最後の試合存分に楽しんでくれ!

 とはいったものの、やはり伊達が相手では厳しいか。

 伊達は南の引退試合同様にヒザを中心に試合を組み立てる。

 伊達の重い打撃が決まるたびに氷室ファンから悲鳴が上がる。
ヒザをもらい、ふらふらとする氷室のバックに伊達が回る。
 そして”鳳凰の広げた羽”を意識した懐かしい技、フェニックススープレックスが決まる。
 若手時代に一時期フィニッシュに使っていた技で、あの技をフィニッシュに使っていた頃は氷室ともいい勝負をしていたものだ。
「まだ終わるな!!」
 セコンドのマッキーが叫ぶ。
氷室はカウント2.8でクリアすると起き上がりつつ伊達を捕まえる。
 そして・・・必殺の紫龍へ!!
 氷室はここを勝負どころと見てグイグイと絞りあげる。
「負けられない・・・」
 体勢がかなり厳しい状態だったが、腕力で氷室のクラッチを外し、技から脱出に成功。
 だが氷室は逃げる伊達の腕を取り、即座に技を脇固めに切り替え、再び伊達をグラウンド地獄へと引きこむ。
「うわあああ・・・」 
 伊達の悲鳴が漏れる。
「絞れ!絞れ!!」
 マッキーが声を枯らす。
「くっ・・・・」
 伊達はどうにかエスケープに成功するが、腕にかなりのダメージを受けたようだ。
 氷室はその腕に狙いを定め、再び脇固め。
「あうっ・・・」
  伊達は呻くが、まだ目が死んでいない。
「やらせない!」
 伊達は決められていない左腕を使って氷室の頭を押さえると、脇固めを決められた状態から氷室を肩に担ぎ立ち上がる。
 そしてそのまま急角度でマットへ叩き付ける。
「うっそだろ!あの状態からデスバレーかよ!!」
 脇固めを決めに行っていただけに氷室は受身が上手く取れない。
「あうつ・・」
 無理な体勢からだったので伊達も腕を痛めたようだが、そのままカバーする。
 
 氷室へ「返せ!」という声援が飛ぶが、氷室はもう限界だったようだ。
 そのまま静かに3カウント。
「17分16秒 変形デスバレーボムからの体固めで勝者伊達遥!」
 氷室は穏やかな顔で立ち上がる。
“やりきった”という満足感を感じているのが見ていてわかる。

 伊達は右腕を押さえていたが、今回は泣いていない。
「ありがとう、遥。全力で来てくれて。」
「う、うん・・・お疲れさま・・・紫月」

 氷室紫月ファイナルマッチはこうして終わり、メインのMAX WIND戦が始まった。

 新世代の代表として挑戦した永沢だったが、結城のパワーとテクニックに翻弄されてしまい、らしさの出せないままスーパーフリーク2連発で撃沈。
 これには私はがっかりだった。
勝てないまでも見せ場は作らないとお客さんも納得しないだろう。
 強さを持つわりにもろいところがあるのが永沢だ。
まだ・・・ドーム大会のメインを任すのは酷だったか・・・
 いや、永沢だって十分キャリアを積んでいる、メインを任せた判断は間違ってはいなかったはずだ。

 うーん・・・結城が強すぎるのかな・・・

 結城の絶対王者化をよしとしているファンは満足そうだったけど、カウント2.9連発の好試合を期待していたファンの人はガッカリ。
 さすがにドーム大会ともなると、色々な客層の人がいるし、男子に比べれば女子は体が小さいから表現が伝わりにくいのもあると思う。
  埋まる事に満足するのではなく、そのお客さんを満足させる試合を出来るようにしないといけないよね。これは今後の大きな課題だと思う。

 バックステージでは不甲斐無い試合をしてしまった永沢が泣きじゃくっていたという報告もあった。
 引退式を控えた氷室の言葉を聞き立ち直ったらしい。

 永沢にはまだやり直すチャンスはある。この汚名を返上し、名誉を挽回することを切に願う。



 そして氷室紫月引退式・・・

 所属選手たちから花束の贈呈。
マッキーは花束を渡すふりをして花束で殴りかかり、客席から笑いをとっていた。
「紫月!元気でな。」
 マッキーは顔をくしゃくしゃにしてそう叫ぶと、ガッシと氷室を抱きしめる。
 あれじゃあ・・ベアハッグだな・・・
「紫月・・・お疲れ・・・さま」
 伊達が花束を渡す。
「ありがとう。遥たちもケガしないようにね。」
 旗揚げメンバーである1期生も残りはマッキーと伊達だけになってしまったね。
「うん。」
「心配すんなって。アタシは頑丈なんだからさ。」
 と二人が応えたところで、テーマ曲がかかる。
 まだヒザが痛むのか足をひきずりながらだが、ラッキー内田が花束を持ってリングへと上がってくる。
「お疲れ様 紫月。」
「佐知子さん・・・」
 氷室はうるうるしている。
一言二言小声で言葉を交わし、ラッキーはリングを降りる。
 ラッキーのヒザは順調に回復に向かっているみたいだ。
 そしてさらに懐かしいテーマがかかる。
 この曲がかかるのは2月以来・・・
この曲をしっているファンからどよめきが起きる。このテーマで入ってくるのは南利美。
 公の場に姿を現すのは引退後始めてとなる。
「お疲れさま紫月。私と一緒に茶飲み会入りね。」
「もう。まだそんな年じゃないです。」
 南は花束を持っていない事に気づき氷室は不思議そうな顔をする。
「あの・・・」
「私が貴方に渡すのは花束じゃないわ。」
 と南が言ったところで、私がマイクを取る。

「これより氷室紫月選手に、ベルトの授与式を行います。」

 これには皆キョトン。
 そしてファンクラブから預かった氷室専用のベルトが運ばれてきた。
太陽と月をかたどったベルトだ。

「このベルトは多くのファンに愛された氷室紫月選手の為に作られた、お客様認定のチャンピオンベルトです。」
 この発表に会場から拍手。
「認定状、氷室紫月殿。あなたは9年の現役生活の間に、大勢のファンから愛され、そして映画出演などを通じ、女子プロレスを世に広めました。その功績を称えこのベルトを贈呈します。 9年12月 氷室紫月ファンクラブ代表 鈴木一郎、NEW WIND株式会社代表 風間新。 おめでとう氷室。」
 私が認定書を手渡し、南がベルトを氷室に巻いてあげる。
「あり・がとう・・・ございます。」
 ここまで涙をこらえていた氷室だったが、さすがにここで涙を流す。

 氷室はシングルのベルトを巻く事はなかったが、多くのファンに愛された”ピープルズチャンプ”だったと思う。

 氷室今までありがとう。

「最後にこんないい贈り物までいただけて幸せです。今日を最後に運命の歯車はとまります。応援ありがとうございました。」
 氷室の挨拶の後、惜別のテンカウントゴング。

「赤コーナー 富山県出身、143パウンドー!氷室~しず~く~!!」
 このコールとともに大量の紫の紙テープが投げ込まれる。
 
だが、“まだだ、まだ終わらんよ”
 しんみりムードの中私はニヤリとする。

 ここで聞き覚えのあるバラード調の曲のイントロが流れ、場内がざわめきはじめる。

「氷室、マイク!」
 私はリング下から氷室にマイクを投げる。
「え?」
「これも運命だ。歌え!!」
 流れているイントロは氷室が出演して好評だった映画、女子プロお嬢様伝説ユイナのエンディング曲だ。

「歌えって言われても・・・ひとり・・じゃ・・・」
 といいかけた氷室が止まる。
花道を駆けて来る人を見つけたのだろう。
「氷室紫月最後のお仕事。神楽坂ユイナと氷室紫月で、“月と太陽の贈りもの!”」
 
 そう、駆けてきたのは神楽坂ユイナ。
奇跡的なタイミングでちょうどオフだったそうな。

 真冬のどさんこドームに氷室とユイナの歌声が響き、そして・・・この曲とともに氷室は引退していった。

 9年目12月 氷室紫月 引退。

 多くのファンに愛された彼女は、きっと本当に自分を愛してくれる運命の人に巡りあえるだろう。
 
 この日運命の歯車はとまった。   
  
 



↓ご感想などはこちらからどうぞ。


※名前読み間違えてたので修正しました。

 あと、”神秘の美少女”はNEW WIND限定のコピーです。
”運命の~”という公式コピーが気に入らないので変えました。
 





 
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2007/01/22 01:21 | Comments(0) | NEW WIND編

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