南 利美 回顧録『MINAMI』より。
改訂版発行にあたり、編集部よりご挨拶。
この作品は連載126回で終了した長編リプレイ『NEW WIND社長 風間新 手記』に大幅な加筆・修正を加えた作品です。
以前の作品と比べると印象が変わる部分もあるかもしれませんが、より深みを増した風間新社長率いるNEW WINDの成長物語を楽しんでみてください。
(※今回はNEW WIND編の”二人の南”~デビュー戦side南利美~」に該当するお話です。)
『妹のデビュー』
(いよいよデビュー戦なのね。)
私は妹であり後輩でもある『ハイブリット南』のデビュー前最後の練習を見守っていた。
ハイブリット南は素質があると思う。姉である私が言うのもなんだけど、新人離れしたいい動きをしていると思うわ。もちろん『デビュー前の新人としては』だけどね。
彼女が私の妹だということは、南という名を名乗らなくても顔を見ればわかること。きっと、ファンは私と比べることでしょうね。
私と寿美は姉妹だから比べられ続けてきた。ことあるごとに親や親戚から「寿美ちゃんはこうなのに~」だとか、「利美ちゃんはこうだったのにね。」と比較されていた。そういうわけで私も寿美も比べられなれてはいるけど、今度は比べる人数が違う。
プロレスファンだけでも何万人もいるし、それにファンだけが比べるわけじゃないわ。
同業者であるプロレスラーも、プロレス関係者、さらにマスコミ…みんなが常に『南利美の妹』という見方をする事になるわ。あの子は苦しい道を選んだのかもしれない。
そういうことを考えると、私は今さらながらあの子の入団をとめるべきだったかなとも思ったりもしたけれど…彼女が決めたことなら私はそれを応援することしかできない
彼女が『南利美の妹』という存在を脱却した時が、一流のプロレスラー『ハイブリット南』の誕生の時だと思うの。そしてその第一歩となるデビュー戦の相手は私がやる。
今の『南利美』の力を刻みこんであげるわ。そして彼女との力量差を見せ付ける。彼女のこの先のレスラー人生に過酷な運命が待っているのならば、私はあえて鬼になることで彼女の成長を促したい。そして…1流のレスラーへと成長してもらいたいの。
私と同じくらい……いえ、それ以上のレスラーになって欲しいと思うから。もっとも多分彼女が1流のレスラーになる時、私をリングには立っていないと思っているけどね。
「南、本当にいいのか?」
風間社長は心配そうに私に尋ねる。
「ええ、もちろんよ。」
「…そうか。」
社長はそれ以上言ってこなかった。私の目と声の強さから全てを理解してくれたのだろう。ありがたいことだと思う。
「……それならなら私は何も言わないよ。南の好きなようにやってこいよ。」
「ありがとう、社長。」
私は社長の言葉に後押しされてリングへと向かった。
私の大好きなスカイブルーのリングに、寿美いえハイブリット南が立っている。
(生意気ね。落ち着きすぎなのよね…)
私がデビューしたときはもっと緊張していたものだけど。可愛くないわねえ。
そして…南利美とハイブリット南はついにリング上で向き合った。リングに上がる前は、ちょっと恥ずかしい気持ちもあったけど、リングに上がってしまええば、寿美は…いえアイツはもう敵なのよ。一度リングに立ったのならば…私は完璧な試合で相手を倒すだけ。
この試合を裁くのはダンディ須永さん。気のいいオジサンであり、私達の師でもある。色々な経験を積んでいる方だからレフェリーもこなせるそうだけど、NEW WINDでは今回が初のレフェリングになるのよね。ともかくダンディさん、私は完璧なレフェリングを期待するわ。
「青コーナ~高知県出身132パウンド~み…ハイブリットみな~み~!」
まったく6年もやっているのに仲間さんたら何をしているのかしら。完璧に間違えたわね。仕事が完璧じゃないわよ。
コールにあわせて、紅白の紙テープがリングに舞い込む。この紙テープは私のファンクラブ『サザンクロス』の皆が配ってくれたもの。私の紙テープはお断りしたわ。あくまでも試合が始まるまでの主役はハイブリット南なのだから。
そうそう、ファンクラブの皆が用意してくれた紙テープは芯を抜いて巻きなおしたものよ、完璧な仕事だわ。芯があたると結構痛いのよね。それと紙テープを投げる時は放物線を描くように投げるのがコツ。直線で投げると完璧じゃないし…前のお客さんを直撃するのよね。
『芯を抜いて巻き直して、放物線を描くように投げる。』これが完璧な紙テープの投げ入れ方よ。
あっ…そうそう、試合の話だったわね。そうね~ダンディ須永さんのレフェリングも完璧だったし、よかったわよ。
「え?ハイブリットはどうだったって?」そうね…合格点は上げられるけど、まだまだよ。
あの程度の絞め技じゃ私には…いえNEW WINDでは通用しないわね。上を目指すならもっともっと磨く事ね。私は違いを分かってもらう為に、あえて変形のネオ・サザンクロスロックを出して終らせた。これを受けることで上に行くにはどれくらいのレベルが必要なのか、わかってもらいたかったから。
私もデビュー当初は強い相手に負け続けたけど、負けて学ぶものは多いわ。でもその頃と違って今のうちの団体は猛者ぞろい。何しろ、ライバル団体新女のエースですら『NEW WINDに入団したら、4期生永沢舞より下になるだろう』と言われるほどなのだから。
今のメンバー相手に揉まれればあの子はは必ず成長するはず。 そして成長したら…私が引退する前に『姉妹でタッグベルト』を巻いてみたいものだわ。今はまだ遠い夢だけど…ね。
社長…その時が来たらちゃんと組んでね。
この頃の私は、そう思っていたのよ。
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