NEW WIND社長 風間新 手記より
改訂版発行にあたり、編集部よりご挨拶。
この作品は連載126回で終了した長編リプレイ『NEW WIND社長 風間新 手記』に大幅な加筆・修正を加えた作品です。
以前の作品と比べると印象が変わる部分もあるかもしれませんが、より深みを増した風間新社長率いるNEW WINDの成長物語を楽しんでみてください。
(※今回はNEW WIND編のその52「デビュー戦」に該当するお話です。)
◇6年目5月◇
「へ~そっくりだな。」
「ホントだよな。若いし可愛いじゃん。乗り換えようかな。」
「ばっかだな。南さんの大人の色気のほうがたまらんよ。」
「ばーか、お前なんかじゃ相手にもされねえよ。あの人は完璧な男が好きに決まっているんだからさ。」
「あん?そんなの居るわけねえ、俺の南さんだし。」
試合開始前の会場内。いつも同じ席に座っている常連客が好き勝手言っている。ま、彼らのおかげでうちの団体は持っているわけだし、ある程度は好き勝手言ってもいいのだけどね。
「俺の南さんだってことわかってないよなあ…」
一瞬遅れて聞こえてきたのは、常連客の一人で熱烈な南利美ファンで有名な“哲”さんの声だった。
ところで、今日は5月シリーズ『緑色の風』の第1戦だ。今日の話題はなんと言っても、6期生『ハイブリット南』のデビュー戦だろう。その注目のデビュー戦は第1試合に組まれている。
『NEW WIND ネオ・ソウルバトル 15分1本勝負』と題し、姉の南利美がデビュー戦の対戦相手となる。これは彼女達の要望でもあったし、私も望んでいたカードだ。
私はリング上のハイブリットを観察してみた。佇まいはすでに立派なレスラーのそれだし、表情を見ている限りは落ち着いているように見える。普通の新人は緊張でコチコチになるものだが、ハイブリットはデビュー戦だというのに妙に風格があるな。身にまとっている雰囲気、オーラは通常の新人のそれではない。姉南利美のデビュー時よりも雰囲気はあるかもしれない。まあ、対戦相手の南利美の方が今は、何倍もの強力なオーラを放っているのだけど、これは仕方がないこと。
試合は15分1本勝負。南がどんな試合を組み立てるのかつもりか、私はまったくわからない。
「お待たせいたしました。只今より本日の第一試合 第6期生デビュー戦、NEW WINDネオ・ソウルバトル15分1本勝負を行います。」
何回聞いてもデビュー戦という響きはいいな。
「青コーナー、高知県出身132パウンド~み…ハイブリットみな~み~!」
南と間違えそうになったな、仲間リングアナ。わかるけどね。『高知県出身132パウンド~』の後は南利美だものな。なおコール後のハイブリットは四方にお辞儀をする。新人だからね、コレでいいと思う。 投げ込まれた紙テープは白と赤、お祝いって事だろう。
「なおハイブリット南選手は本日がデビュー戦となります。」
ここで大きな拍手が起きる。
「赤コーナー、高知県出身132パウンド~南~とし~み!」
南はあえてアピールせずじっとハイブリットを見ている。南からの要望で紙テープはなしだ。これはファンクラブに通達済なので徹底されている。
「レフェリー、ダンディ須永!」
『ダンディー』と声がかかる。ダンディさんがレフェリーとしてリングに上がるのは、うちの団体では初めて。これもちょっとしたサプライズであり、今後のことを考えるとレフェリーがトニー館だけというのも厳しいしね。
「OK、GO!」というダンディさんの合図で姉妹対決のゴングが鳴った。
「さあ、かかってらっしゃい。」
「言われなくてもっ!」
二人の南はロックアップで組み合った。
「はあっ!」
「はああっ!」
ハイブリットは一歩も引かない。必死の形相で姉を押し返そうとする。
「へえ…頑張るわね。」
南はそう呟くと本気を出した。いくら体格が似ているとはいえ、片方はトップレスラーで、片方は新人だ。当然鍛え方が違う。当然のことながら南の方が強く、ハイブリットはあっと言う間に押し込まれてしまい、ブリッジで耐える。
「頑張れ!ハイブリットー!」
客席からの声援を受けてハイブリットはなんとか押し返し、その場飛びで新人のお約束ドロップキックを放つ。胸板を正確に打ち抜いた美しいドロップキックだったが、南はびくともしない。そして逆にドロップキックをハイブリットの顔面に叩きこむ。ハイブリットはたまらずダウン。南は、すかさずカバーに行く。もちろんこれはカウント1で返すハイブリットだったが、肩を上げた隙を突かれスリーパーで絞めあげられてしまう。
「逃げろ、ハイブリット!」声援を受け必死にロープへと逃げるハイブリット。だがロープに逃げる前に南は技をとく。何の警戒もなく立ち上がったハイブリットに南の掌底がヒット。ハイブリットは完全に不意を突かれダウン。南はダウンしたハイブリットの足を掴むとサザンブレーカー。
「うわああ…!」
始めてリングで味わう本気の関節技に悲鳴を上げるハイブリット。
「ギブアップ?ハイブリット?」
レフェリーのダンディさんが尋ねる。もちろんここでギブアップするわけにもいかないだろう。
「ノー!」
その声を聞きながら『氷の微笑』を浮かべる南。
「…!!?」
もう声にならないのか。だがハイブリットはこのサザンブレーカーを自力で脱出してみせる。これには場内から拍手&歓声。
スリーパーを狙うハイブリット。どうやら、南はわざとコレを受けたようだ。懸命に絞め上げるハイブリットだったが、南は表情ひとつ変えない。
「その程度で絞めているつもりなの?」
この言葉に顔を真っ赤にして絞めるハイブリット。
「ほら、ハイブリット!もっと、絞れ!絞れ!」
ダンディさんの声が飛ぶ。どうやら南はまったく効いていないらしい。
「絞めるっていうのはね、こうやるのよ。」
南はごくあっさりとスリーパーを振りほどき、『ネオ・サザンクロスロック!』
今日はいつものフェイスロックではなく、スリーパー気味に極めている。デビュー戦の新人が南の必殺技に耐えられるわけないだろう。
「ストップ、南!」
タップを確認したダンディさんが南の技を解かせる。
「6分15秒 変形ネオ・サザンクロスロックで勝者、南利美!」
悠然と引き上げる南。それを悔しそうに睨みつけるハイブリット。
南は、プロレスの厳しさを刻みこんだか。
「ハイブリットよ…強くなれって事。これでいいでしょ社長。」
「お疲れ様、南。ありがとう。」
「疲れてなんかいないわ。あとでメインにでも乱入しようかしら。」
「それは盛り上がるけど…やめてくれ。」
「やらないわよ。そのかわり食事奢ってよ。」
はいはい、わかりましたよ。なお2戦目以降は『南姉妹』南&ハイブリット南組で主に外国人選手とあたる予定になっている。
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これからも、レッスル&DQの話、楽しみにしてますので
ご自分のペースで頑張ってください