NEW WIND社長 風間新 手記より
改訂版発行にあたり、編集部よりご挨拶。
この作品は連載126回で終了した長編リプレイ『NEW WIND社長 風間新 手記』に大幅な加筆・修正を加えた作品です。
以前の作品と比べると印象が変わる部分もあるかもしれませんが、より深みを増した風間新社長率いるNEW WINDの成長物語を楽しんでみてください。
(※今回はNEW WIND編のその35「私に…できるのかな?」に該当するお話です。)
改訂版発行にあたり、編集部よりご挨拶。
この作品は連載126回で終了した長編リプレイ『NEW WIND社長 風間新 手記』に大幅な加筆・修正を加えた作品です。
以前の作品と比べると印象が変わる部分もあるかもしれませんが、より深みを増した風間新社長率いるNEW WINDの成長物語を楽しんでみてください。
(※今回はNEW WIND編のその35「私に…できるのかな?」に該当するお話です。)
◇5年目5月◇
5月…この5月という月は、我々NEW WINDにとって特別な月である。
旗揚げ戦を1年目の5月に開催したことが慣例となり、新人は一部例外を除き、5月デビューが原則だし、海外団体との提携も基本的には2年契約で、5月始期で行うようにしている。
旗揚げをフォローしてくれたAACとは、1年目5月~3年目4月までの2年間契約だった。AACの選手達には、まだまだひよッ子だったうちの1期生を鍛えてもらったものだ。
ルチャリブレという飛び技を中心としたプロレスは華麗だったなあ。
続く3年目5月~5年目4月…つまり先月まではEWAとの2年契約を結んでいた。
当初は外敵としての来日だったEWA勢だけど、何度も対戦を繰り返していくうちに、徐々に仲間になっていった気がする。そうでなければ、あのEX―Sタッグで『チームV』ハン&永沢組など実現しなかっただろうな。だけど、そのEWAとの提携もひとまず終了だ。
今月からは、2年間予定で、アメリカの強豪団体WWCAとの提携が始まる。
WWCAには『混沌たる悪の華』ダークスター・カオスというスーパースターがいる。実力はAACのチョチョ・カラス、EWAのナスターシャ・ハンを遥かに凌ぐという噂だし、そのカオスが率いる軍団のレベルは、今までの2団体よりも手ごわいと聞いている。
「手ごわい方が、やりがいがあるわね。」
南はそう言っていたが、果たして今のうちの選手たちがどこまで通用するかだな。
そして、ある日の午後。事務所の窓から、私は道場の様子を眺めていた。
(そろそろ1期生も19歳になるのか…今後の為の準備はしておかないといけないな。南は今度の誕生日で20歳になるのか。早いものだ。)
うちの選手たちは16歳でプロデビューした南を除いて、全員15歳でデビューしている。
NEW WINDも今年で5年目。彼女達もまた、現役5年目を迎えることになる。
デビュー当時、まだあどけなさが残っていた少女たちは、いつのまにか大人の女性へと変化しつつある。いや、もう十分大人の女性だな。そうなると、私達団体側としても考えていかないといけないことがある。
それが何かといえば…彼女達の未来だ。
一昔前の女子プロレスにはその事を考えた25歳定年制というものが存在した。女性の幸せを考慮しているものでもあり、アスリートとしての肉体の衰えを考慮したものでもある。
今はこの制度は事実上消滅しているといえる。25歳を超えてもなお現役、それも第一線で戦い続けている選手が多くなっている。
だが、私は過去にあったこの制度を支持したいと思っている。そのまま採用するつもりはないが、基本的に25歳定年制に近い形で彼女たちを第2の人生に送りだすつもりだ。
やはり女性の幸せを考えると、あまり長くこの仕事をするのはよくないだろう。
あれだけの激闘をするわけだし、ダメージは必ず蓄積される。腰やヒザなどに負担をかけるわけだしね。
コン!コン!
やや遠慮がちなノックの音がした。
「どうぞ」
しばらく間があって、ゆっくりとドアが開いた。
「…社長…呼んだ?」
伊達がおずおずと事務所へ入ってきた。
「ああ、来たか。そこへ。」
私は右手で応接セットのソファーを差し示す。
「…失礼します。」
伊達は背が高いのだが、なんとなく小さく座る。
「社長…なにか…あったの?」
「うん……伊達にとても重要な事を頼もうと思ってね。」
「重要なこと?……海外で防衛?……それとも…挑戦?」
「そうだな…あえて言うなら『挑戦』だな。」
私はちょっと意地悪な事を言ったかもしれない。挑戦は挑戦でも違う挑戦なのだが、きっと彼女はカオスに挑戦するのだと思うだろう。
「挑戦…ダークスター・カオス?」
やはりな。
「いや、そうじゃない。」
「じゃ、じゃあ…WWCAタッグ?…それとも…AACタッグのリマッチ?」
「はは、そうじゃないよ。」
「…じゃ…なに?」
伊達はもう思いつかないという表情を浮かべる。
「コーチに就任してもらおうと思ってね。」
「…南さんに?」
こらこら…だったら南に直接言うよ(笑)
「違うよ、南にじゃない。私は『伊達遥』に頼んでいる。」
しばしの間…
「えっ!私に…????」
どうやらかなり驚いたらしい。
確かに南の方が適任かなと思うよな、普通。
「…私が…コーチ?…まさか…私クビ…引退しろって事ですか?」
伊達は辞めさせられるのかと思って涙目になる。
「違う、違う!どこの世界にエースをいきなりクビにする団体があるんだ!『兼任コーチ』になってくれないか?ということなんだよ。」
「兼任…コーチ?」
「そう、『兼任』。だから、今居るコーチ達みたいに5人を見てくれとは言わない。1人だけ見て欲しい。」
「1人?…」
「もちろんお給料は上乗せするよ。」
「私に…できるのかな?」
明らかに不安そうな伊達、リングの上とは別人だよなあ。
「出来るさ。それに人に教えるのもいいと思うよ。きっと自分の役にたつから。」
「…やって…みようかな…」
まだ不安そうな伊達、だが瞳の奥に燃えるものがあるのを私は感じた。
「お給料は上乗せするからね。」
再度上乗せをアピールしてみる。
「やり…ます!」
「じゃこれにサインしてね。」
「はい。」
サインし終えた伊達から書類を受け取り金庫へ保管する。
「あの…誰を…コーチするの?」
「あれ言ってなかったっけ?永沢だよ、4期生の永沢舞。」
「!?」
「カオスより強敵かもしれないけど、頑張れよ。」
「う、うん…頑張る。」
物静かな伊達と、元気がありすぎる永沢。まるで正反対の組み合わせだと思うけど、あえてこの組み合わせでやらせてみる。伊達と永沢の成長を願って。
「社長も策士ねえ。わざと言わないで…」
伊達が出て行った後、応接セットの衝立の向こうから南が出てきた。
事前に南には話をしてあったし、彼女が様子を見たいというので隠れさせていた。
「言ったら多分やらないと思ったからね。」
「私じゃなくて遥を指名したのは正解だと思うわ。私は実戦で覚えさせるタイプだし…それに私が全てを伝える相手はもう決まっているし。」
南は思案顔になる。
「なるほど。その時を楽しみにしているよ。」
「楽しみにしておいて。私も楽しみだから。それより、ねえ社長、今度飲みに行きましょうか?今後の団体のことをお話しに。」
20歳になるのだから…か。
「ダメだ。まだ誕生日まであるだろう。」
「数え年ならOKよ。」
「駄目だ。それにうちの団体は、酒と男とタバコは禁止だ。」
「あら?じゃ…社長とも話しちゃ駄目ってことね。」
「えっ?」
「一応社長も男でしょ?」
「『いちおう』…?」
ちょっぴりショックを受ける私。
「冗談よ。折角堂々と飲めるようになるのだから、ちょっとだけ飲んでみたいのよね。」
「酒は事故の元だぞ。」
「大丈夫。1口飲んでみたいだけだから。お願いね。」
「あう…くそっ」
「じゃ約束よ、社長♪」
まったく…どっちが策士なのだか。
「誕生日を過ぎてからだ!」
「じゃ、いいレストラン予約しておいてね。」
おいおい、まだ一年近く先じゃないか。それにしても、本当に成長したよ(苦笑)
5月…この5月という月は、我々NEW WINDにとって特別な月である。
旗揚げ戦を1年目の5月に開催したことが慣例となり、新人は一部例外を除き、5月デビューが原則だし、海外団体との提携も基本的には2年契約で、5月始期で行うようにしている。
旗揚げをフォローしてくれたAACとは、1年目5月~3年目4月までの2年間契約だった。AACの選手達には、まだまだひよッ子だったうちの1期生を鍛えてもらったものだ。
ルチャリブレという飛び技を中心としたプロレスは華麗だったなあ。
続く3年目5月~5年目4月…つまり先月まではEWAとの2年契約を結んでいた。
当初は外敵としての来日だったEWA勢だけど、何度も対戦を繰り返していくうちに、徐々に仲間になっていった気がする。そうでなければ、あのEX―Sタッグで『チームV』ハン&永沢組など実現しなかっただろうな。だけど、そのEWAとの提携もひとまず終了だ。
今月からは、2年間予定で、アメリカの強豪団体WWCAとの提携が始まる。
WWCAには『混沌たる悪の華』ダークスター・カオスというスーパースターがいる。実力はAACのチョチョ・カラス、EWAのナスターシャ・ハンを遥かに凌ぐという噂だし、そのカオスが率いる軍団のレベルは、今までの2団体よりも手ごわいと聞いている。
「手ごわい方が、やりがいがあるわね。」
南はそう言っていたが、果たして今のうちの選手たちがどこまで通用するかだな。
そして、ある日の午後。事務所の窓から、私は道場の様子を眺めていた。
(そろそろ1期生も19歳になるのか…今後の為の準備はしておかないといけないな。南は今度の誕生日で20歳になるのか。早いものだ。)
うちの選手たちは16歳でプロデビューした南を除いて、全員15歳でデビューしている。
NEW WINDも今年で5年目。彼女達もまた、現役5年目を迎えることになる。
デビュー当時、まだあどけなさが残っていた少女たちは、いつのまにか大人の女性へと変化しつつある。いや、もう十分大人の女性だな。そうなると、私達団体側としても考えていかないといけないことがある。
それが何かといえば…彼女達の未来だ。
一昔前の女子プロレスにはその事を考えた25歳定年制というものが存在した。女性の幸せを考慮しているものでもあり、アスリートとしての肉体の衰えを考慮したものでもある。
今はこの制度は事実上消滅しているといえる。25歳を超えてもなお現役、それも第一線で戦い続けている選手が多くなっている。
だが、私は過去にあったこの制度を支持したいと思っている。そのまま採用するつもりはないが、基本的に25歳定年制に近い形で彼女たちを第2の人生に送りだすつもりだ。
やはり女性の幸せを考えると、あまり長くこの仕事をするのはよくないだろう。
あれだけの激闘をするわけだし、ダメージは必ず蓄積される。腰やヒザなどに負担をかけるわけだしね。
コン!コン!
やや遠慮がちなノックの音がした。
「どうぞ」
しばらく間があって、ゆっくりとドアが開いた。
「…社長…呼んだ?」
伊達がおずおずと事務所へ入ってきた。
「ああ、来たか。そこへ。」
私は右手で応接セットのソファーを差し示す。
「…失礼します。」
伊達は背が高いのだが、なんとなく小さく座る。
「社長…なにか…あったの?」
「うん……伊達にとても重要な事を頼もうと思ってね。」
「重要なこと?……海外で防衛?……それとも…挑戦?」
「そうだな…あえて言うなら『挑戦』だな。」
私はちょっと意地悪な事を言ったかもしれない。挑戦は挑戦でも違う挑戦なのだが、きっと彼女はカオスに挑戦するのだと思うだろう。
「挑戦…ダークスター・カオス?」
やはりな。
「いや、そうじゃない。」
「じゃ、じゃあ…WWCAタッグ?…それとも…AACタッグのリマッチ?」
「はは、そうじゃないよ。」
「…じゃ…なに?」
伊達はもう思いつかないという表情を浮かべる。
「コーチに就任してもらおうと思ってね。」
「…南さんに?」
こらこら…だったら南に直接言うよ(笑)
「違うよ、南にじゃない。私は『伊達遥』に頼んでいる。」
しばしの間…
「えっ!私に…????」
どうやらかなり驚いたらしい。
確かに南の方が適任かなと思うよな、普通。
「…私が…コーチ?…まさか…私クビ…引退しろって事ですか?」
伊達は辞めさせられるのかと思って涙目になる。
「違う、違う!どこの世界にエースをいきなりクビにする団体があるんだ!『兼任コーチ』になってくれないか?ということなんだよ。」
「兼任…コーチ?」
「そう、『兼任』。だから、今居るコーチ達みたいに5人を見てくれとは言わない。1人だけ見て欲しい。」
「1人?…」
「もちろんお給料は上乗せするよ。」
「私に…できるのかな?」
明らかに不安そうな伊達、リングの上とは別人だよなあ。
「出来るさ。それに人に教えるのもいいと思うよ。きっと自分の役にたつから。」
「…やって…みようかな…」
まだ不安そうな伊達、だが瞳の奥に燃えるものがあるのを私は感じた。
「お給料は上乗せするからね。」
再度上乗せをアピールしてみる。
「やり…ます!」
「じゃこれにサインしてね。」
「はい。」
サインし終えた伊達から書類を受け取り金庫へ保管する。
「あの…誰を…コーチするの?」
「あれ言ってなかったっけ?永沢だよ、4期生の永沢舞。」
「!?」
「カオスより強敵かもしれないけど、頑張れよ。」
「う、うん…頑張る。」
物静かな伊達と、元気がありすぎる永沢。まるで正反対の組み合わせだと思うけど、あえてこの組み合わせでやらせてみる。伊達と永沢の成長を願って。
「社長も策士ねえ。わざと言わないで…」
伊達が出て行った後、応接セットの衝立の向こうから南が出てきた。
事前に南には話をしてあったし、彼女が様子を見たいというので隠れさせていた。
「言ったら多分やらないと思ったからね。」
「私じゃなくて遥を指名したのは正解だと思うわ。私は実戦で覚えさせるタイプだし…それに私が全てを伝える相手はもう決まっているし。」
南は思案顔になる。
「なるほど。その時を楽しみにしているよ。」
「楽しみにしておいて。私も楽しみだから。それより、ねえ社長、今度飲みに行きましょうか?今後の団体のことをお話しに。」
20歳になるのだから…か。
「ダメだ。まだ誕生日まであるだろう。」
「数え年ならOKよ。」
「駄目だ。それにうちの団体は、酒と男とタバコは禁止だ。」
「あら?じゃ…社長とも話しちゃ駄目ってことね。」
「えっ?」
「一応社長も男でしょ?」
「『いちおう』…?」
ちょっぴりショックを受ける私。
「冗談よ。折角堂々と飲めるようになるのだから、ちょっとだけ飲んでみたいのよね。」
「酒は事故の元だぞ。」
「大丈夫。1口飲んでみたいだけだから。お願いね。」
「あう…くそっ」
「じゃ約束よ、社長♪」
まったく…どっちが策士なのだか。
「誕生日を過ぎてからだ!」
「じゃ、いいレストラン予約しておいてね。」
おいおい、まだ一年近く先じゃないか。それにしても、本当に成長したよ(苦笑)
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こちらに書き込んでなんですが、ようやく
~もう一度あの頃のように~の記事を上げてみましたw
こちらの方でも、各記者達が再開する展開を盛り込んでみましたw
続きも楽しみにしております!