NEW WIND社長 風間新 手記より
改訂版発行にあたり、編集部よりご挨拶。
この作品は連載126回で終了した長編リプレイ『NEW WIND社長 風間新 手記』に大幅な加筆・修正を加えた作品です。
以前の作品と比べると印象が変わる部分もあるかもしれませんが、より深みを増した風間新社長率いるNEW WINDの成長物語を楽しんでみてください。
(※今回はNEW WIND編のその47「門を叩きし者」に該当するお話です。)
3月シリーズ最終戦が終った翌々日の朝、珍しく朝早くから私は道場にいた。
「社長、連れてきたわよ。」
南が一昨日私に声をかけてきた少女を連れて道場へと入ってきた。
この子は6期生として採用した新人だが、南以外の所属選手は入団してくる事を知らない。
「社長、よろしくお願い致します。」
少女が丁寧にお辞儀をする。さすがにまだ初々しいな。
「こちらこそよろしく。南、案内してあげて。早めにアップを始めておこう。みんなが出てくる前に。」
「わかっているわ。」
それから小一時間が過ぎた。南と新人はすでにアップを終え、リング上で練習している。
これはリングの感触を覚えさせるという作業で、マットの堅さ・ロープの堅さを認識させるのが目的。初めてのロープワークに顔をしかめている。
「懐かしい光景だな…」
私は南たちの初めての練習を思い出していた。泣いてしまった子もいれば、あまりのハードワークに吐いてしまった子もいたな。私も練習に付き合わされて、プロレスラーの凄さを再認識させられたものだよ。年上のダンディさんが余裕でこなすのに、私はまったくついていけなかったよ。
「そろそろ、みんなが出てくる時間だな。南、予定通りにね。」
「わかっているわ。」と返事をして南は道場を出て行った。
リングでは新人が受身の練習をしている。
「おはようございます~!あれれ?」
「ウイーッス…あ?」
「あれ…社長…早いですね!」
「おはよ~です。あれ?社長。」
「今日もよろしくお願いしま~す。社長?」
「…おはよう。…あ…社長?」
口々に挨拶をして道場に入ってきたみんなの足がぴたっと止った。
私がここにいる事にびっくりした顔ばかり。そしてリングで受身を練習している人物を見て皆ぽかーんとしている。
「み、南さんが…」
「髪を…染めている!!」
「髪を染めたってことは…南さん不良になった?!」
「不良って事はヒール転向?」
「うそ~~!!」
「これも運命…なの?」
「しかも肌まで若返っているし~~!!」
「もしかしてエステ?南さんだけずるーい。社長えこひいきした~!」
各自がリング上の『新人の姿』を見て騒ぎだした。
ふふ…想像通り…いや想像以上だな。というか、ちょっと五月蝿過ぎるぞ。
「皆、どうしたの? そんなに騒いで。」
道場の入り口に姿を現したのは、先ほど道場から出て行った南。
「あ、南さん!聞いてください、南さんが髪を染めてヒール転向!しかも肌まで若返って…って南さん!?」
状況を説明しようとした吉田だったがどうやら気づいたようだ。
「え。ええ~~っ!!」
「み、南さんが二人?」
道場の入り口には紛れもなく南利美がいて、リングの上には髪を赤系に染めた、ちょっぴり肌の若い南がいる。
みんなびっくりして、二人の南を見比べている。
「社長…これでいいのかしら?」
「OK、南。」
私はニヤリと笑った。
「社長…どういう事?」
真っ先に聞いてきたのは意外にも伊達。
「説明するよ。まずは集合!」
全員が集まってきたところで私は右側に南利美を、左側に南に似ている新人を立たせた。
「紹介するよ、この子がうちの新しい入門生の…」
「南寿美(みなみ・ことみ)です。よろしくお願いします。」
「南…ことみ?ってまさか…南の知り合いか!?」
ズコッ!!マッキーのこのボケに全員こける。
「このバカ!…せめて親戚って言いなさいよ!!」
ラッキーが逆水平チョップで突っ込みを入れている。これだと引退後は…漫才コンビに転向かね…
「…で?本当のところはどうなの?」と武藤が冷静さを取り戻して尋ねる。
「私の妹よ。」
「いもうと?…それにしてもよく似ていますね。」
「似るも似ないも運命…」
「ホントだよなあ。こんなに似るのか?双子みたいにそっくりだ。」
みんな感心しているようだ。
「似たのは顔だけじゃなかったみたいね。まさか私もこの子が入団してくるとは思わなかったもの。」
「ちなみにリングネームもすでに決定しているんだ。」
「リングネームですか。確かに南が二人だと呼びにくいですし。」
「で、リングネームは?」
「ハイブリット南です。」
本人が答える。
「…セコンドの時はハイブリット!って声をかけるわけか。」
「ところで…やっぱり関節技は得意なのですか?」
「もちろんよ!…と姉なら言う所ですけど、わりと得意な方だと思います、草薙さん。姉の真似をして覚えたりしています。」
顔だけじゃなく、声までそっくりだ。きっと姉に告白するつもりで電話をかけたら、妹だったという話が多数あっただろう。
「なるほど…先が怖いですね。」
「遙、関節の防御練習した方がよさそうだな。」
「…そうかも…」
「あら?マッキー先輩も、人の事言えないと思いますけど?」
「ぐっ…武藤…てめえ…」
「ホントの事だと思いますけど?」
「二人ともいい加減にしろ!」
「すいません…」
社長である私に怒られ二人はシュンとなってしまった。ま、いいだろこの方が静かで。
「ともかく、ハイブリット南が唯一の6期生だ。みんなよろしく頼むよ!永沢!吉田!可愛い後輩だから仲良くしろよ。」
「はい!任せてマカセテ!」
「…了解しました。…なんか変な感じですけどね。」
6期生 南寿美ことハイブリット南入団。いますぐとは言わないが、数年先のNEW WINDを支える存在になって欲しいね。
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