NEW WIND社長 風間新 手記より
改訂版発行にあたり、編集部よりご挨拶。
この作品は連載126回で終了した長編リプレイ『NEW WIND社長 風間新 手記』に大幅な加筆・修正を加えた作品です。
以前の作品と比べると印象が変わる部分もあるかもしれませんが、より深みを増した風間新社長率いるNEW WINDの成長物語を楽しんでみてください。
(※今回はNEW WIND編のその48「クイーンズカーニバル開幕」及びその49「クイーンズカーニバル」に該当するお話です。)
◇6年目4月◇
今回が初の試みとなる『クイーンズカーニバル~女王競演』だが、これが最初で最後の開催となるかもしれない。
☆『クイーンズカーニバル~女王競演~』(九州・沖縄シリーズ)☆
□第1戦 『WWCA認定世界ジュニアヘビー級選手権試合』
『WWAC世界ジュニア女王』吉田龍子 VS ダイナマイト・リナ
□第3戦 『AAC認定世界タッグ選手権試合』
『AAC世界タッグ女王』カンナ神威&草薙みこと組 VS 伊達遥&南利美組”
□第4戦 『WWCA認定世界タッグ選手権試合』
『WWCA世界タッグ女王』伊達遥&永沢舞組 VS 草薙みこと&『X』組
□第5戦 『EWA認定世界タッグ選手権試合』
『EWA世界タッグ女王組』結城千種&武藤めぐみ組 VS 伊達遥&カンナ神威組
□第7戦 『WWCA認定世界ヘビー級選手権試合』
『WWCA世界ヘビー級女王』カンナ神威 VS 『X』
□第8戦 『EWA認定世界ヘビー級選手権試合』
『EWA世界ヘビー級女王』結城千種 VS 武藤めぐみ
発表されたカードを見てさすがの記者さん達も言葉が出ないようだ。ここまでタイトル戦を並べられる団体はそうはないだろう。うちだって………今後これだけのタイトルを保持するチャンスもあるとは思えないし、本当に最初で最後の開催になるかもしれない。なおこのシリーズ中のみ王者の事を女王と称することになっている。
「これはすごく豪華なシリーズですね!ところで、どれが一押しですか?」
ガールズ・ゴングのO坂記者が真っ先に質問をしてきた。
「もちろん全部ですよ、O坂さん。」
私は自信を持って答える。
「なるほどそう来ましたか。ところで……カードに『X』が2つありますが?」
「O坂さんならおわかりでしょうが、プロレスで『X』といえば正体は不明。当然当日まで秘密ですよ。」
「なるほど、それもそうでしたな。」
「予想するのは自由ですけどね。…なお、このシリーズの最優秀選手(MVP)には、特別ボーナスが支給される事になっています。」
「ほっほう…競争を煽るわけですな。ますます面白い大会になりそうですね。」
☆『WWCA認定世界ジュニアヘビー級選手権試合』
ジュニア女王吉田2度目の防衛戦。挑戦するのはダイナマイト・リナ。開始直後のラリアート4連発で主導権をガッチリと握ると、そのままパワーで圧倒。前回の反省も込めてか、説得力のあるタイガードライバー一発で仕留めてみせた。
「そうだよ、吉田、それだ!やれば出来るじゃねえかよ。」
「ありがとうございます、マッキー先輩。」
「最後のタイガードライバーはアタシの『マッキータイガー』に比べれば説得力はまだまだだけど、よかったぞ。『魂込めれば一撃でフォールは取れる』ってもんよ!」
吉田の試合内容に、ご機嫌のマッキー。
「…じゃあマッキー先輩は『魂が足りない』んですね。」
「チッ、またお前か武藤。」
「武藤先輩、お疲れ様です。」
「よかったわよ、吉田。今のタイガードライバーは、どっかの誰かさんの『マッキータイガー』より説得力あったと思う。もっと磨きをかければ遥さんだって倒せるわよ。」
武藤が人を褒めている…結構珍しい光景。まあ、しっかりマッキーの事はけなしているのだが(苦笑)
「ありがとうございます、武藤先輩。」
マッキーと武藤はこの後いつもの口げんか。そして例によってラッキーと結城に止められるという毎度毎度のパターン。「これが名物なのね。」とハイブリットが呟くのが私には聞こえた。
☆『AAC認定世界タッグ選手権試合』
「!?」私は一瞬何が起こったのかわからなかった。
伊達が『シャイニングフェニックス』で止めを刺しに助走をつけたのはわかっていたし、これで決まるとも思った。だが、一瞬の間に伊達が両肩をマットにつけており、カンナが伊達を押さえこんでいた。歓声と悲鳴が入り混じる中、レフェリーのトニー館の右手がマットを3度叩く。
「51分11秒、51分11秒。フランケンシュタイナーからの体固めによりまして、勝者、カンナ神威!」
このコールを聞いて納得した。シャイニング狙いで突っ込んでくる伊達を、カンナがカウンターの』フランケンシュタイナー』で伊達をマットに叩きつけたわけか。
さすがはカンナだな。伊達のフィニッシュホールドをこんな風に切り返すとは。
「凄かったな、最後。」
「最後…だけですか?」
カンナは面白くなさそうに言う。
「いや…そうではなくて、最後が『特に』凄かったと言いたいのだけど。」
慌てたわけではないがフォローはしておく。
「ありがとうございます。前から試して見たかったのです。」
「前から?」
「ええ。以前よくタッグを組んでいた時から考えていました。そのときから思っていたのですが、伊達さんはシャイニングに入る時、攻撃する事に集中しすぎているのです。」
「魂を込めているから…?」
「そうでしょうね。だからこそ反撃するチャンスだと考えていました。」
そういうことか…カンナって勝負事になると凄いね。だからこそ強いのだろうな。
「なるほど…」
「ですが…相手は伊達さんです。他の人ならともかく伊達さんの事ですから…直前でこちらの動きを見切って技を切り替えてくる可能性があります。正直なところタイミングはシビアですね。今回は成功しましたが、これはある種の賭けですよ。いつも巧くいくわけではないですから。読みを外した時は怖いですね。」
カンナはそういって肩をすくめた。
◇『WWCA認定世界タッグ選手権試合』
「一昨日防衛したばかりで今日は挑戦者。なんだか忙しいですね。」
「…すまないな。強行日程で。」
「気にしないでください。私は楽しんでいますから。」
みことは笑顔を見せる。この笑顔のかわいらしさと所作の美しさ。人気が出て当然だろう。
今は失われつつある日本美人。男性ファンのみならず、女性ファンも多いのも頷ける。
「それならいいのだが…今日は頼むぞ。」
「任せてください。社長は、私のことをそんなに信用できませんか?」
「いやそんな事はない。信頼しているよ。」
「ありがとうございます。」
『師弟タッグ』伊達&永沢に挑戦するのは、みこと&『X』組。もちろん『X』にしたのは形だけですでに決まってはいるのだが。
みことが先に入場し、あとから『X』が入場するという形式を取る。
「青コーナーより選手入場!」
ここで会場に流れたテーマ曲は『サンダー龍子』のテーマ。客席はどよめき、一瞬の後に『サンダー!サンダー!』とサンダー龍子への声援が飛ぶ。
だが、サンダーのテーマはイントロだけが流れ、すぐに吉田龍子のテーマに変わる。
落胆の声も聞かれたが、ここは吉田の地元。歓声に変わるまでには、そんなに時間はかからなかった。
「まだまだっ!」
吉田の必殺技『プラズマサンダーボム』をカウント2.8で永沢は返してみせた。
「このお!」
吉田は気合を込めた『ぶん殴りラリアート』で起き上がったばかりの永沢を吹き飛ばす。
そしてすかさずカバー!
「とお~っ!」だがしかし、永沢はこれをブリッジで返す。
「そんな…」
「吉田ァ!!」ここで永沢の得意技『たいあたり』が炸裂。
「ぐっ!」吉田の動きが止まる。
ここがチャンスとみた永沢は「みんな~必殺技だよ、必・殺・技!」と高らかにアピール。
「あ…バカ!!」
永沢が呑気にアピールしている間に、みことが吉田を救出しようとしていた。
それに気づいた伊達は素早くリング下を回りこみ、みことの足を引っ張る。不意をつかれたみことは場外へと引き摺りおろされてしまう。
その間に永沢は必殺の『ドラゴンタイガー』を決めて試合を終わらせた。
「51分55秒、『テキーラサンライズ』によりまして勝者、永沢舞!」
後輩相手とはいえこの師弟タッグでは永沢は初のフォール勝利となる。
「やったあ!」フォールをとり、ご機嫌な永沢。だが、『ゴン!』と鈍い音がしたかと思うと、永沢が頭を抑えて蹲っている。そばには無言で見下ろす伊達の姿が。
「いった~い。」
「……舞…余計なアピールはするな……と教えたはずだけど?」
伊達は冷たく言う。
「あはは…」『ゴン!』笑ってごまかす永沢にもう一度ゲンコツが…
「いった~い。」
「…ごまかさない…の。」
「えへへ…だって…」
「…ニーの方が…いい?」
伊達は右ひざをポンと叩く。
「ごめんなさい…調子に乗りすぎました。」
「…舞の元気なところは…いいと思う。でも無駄な…アピールはいけないの。」
「はい。気をつけます。」
「でも…最後のテキーラは…よかったよ。」
「はい、ありがとうございます!!」
永沢はゲンコツの痛みなのか褒められた嬉しさなのか、涙を流していた。
一方の挑戦者組は…
「すいませんでした、草薙先輩。」頭を下げる吉田。
「負けたのは残念ですけど、謝る事はありませんよ、龍子さん。」
みことは満足そうな顔をしている
「…そうでしょうか?」
「はい。龍子さんは全力を出し切ったのですから、褒めこそすれ、誰も貴女を攻めたりはしませんよ。」
「ありがとうございます。草薙先輩、でも…」
「でも?」みことは吉田の瞳をじっと見る。
「負けました。」吉田は奥歯をぎゅっと噛みしめた。
「悔しいですか?」
「はい。」
「なら…その悔しさを忘れないでください。先ほど私は、『龍子さんは全力を出し切った』と言いましたよね?」
「はい。」
吉田はまっすぐな瞳でみことを見る。
「現時点での龍子さんの全力はこの程度ということです。」
「はい。」
「ならば、修行を積み、今以上に強くなればいいのです。負けて学ぶ事もあるのですから。」「はい!」
みこと&吉田組というのもいいなあと思った。見た目だと吉田の方がお姉さんに見えるけど、みことはしっかりしているからな。初のタイトルマッチをリードするには適任だったと思う。うん、ナイスセレクト。
「いい仕事したなあ。」
「…それ私のアイデアなのだけど。」
南に私の呟きを聞かれてしまい、結局夕飯をおごらされてしまった。失敗した…よ。
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