NEW WIND社長 風間新 手記より
改訂版発行にあたり、編集部よりご挨拶。
この作品は連載126回で終了した長編リプレイ『NEW WIND社長 風間新 手記』に大幅な加筆・修正を加えた作品です。
以前の作品と比べると印象が変わる部分もあるかもしれませんが、より深みを増した風間新社長率いるNEW WINDの成長物語を楽しんでみてください。
(※今回はNEW WIND編のその57「流行」およびその58「伊達とカンナ」に該当するお話です。)
◇6年目8月◇
毎月毎月どうして欠場者ばかりになってしまうのか。ケガからカンナが復帰したかと思えば、いきなりみことと保持しているAACタッグ防衛指令でAACへ遠征することに。2ヶ月もカンナが不在なのは興行的にかなりのダメージだ。
さらに期待の若手、永沢が負傷。そんなに重い怪我ではないのだが、ともかく今月は欠場となる。
やはり海外団体のベルトだけで6本も保持しているのは、よくないようだ。少しずつ整理しながら、NEW WINDのベルトを創設すべきなのかもしれない。吉田がジュニア王座を返上したので、ベルトは減ってはいるけれど。
先月に引き続きタイトル戦はなしで、主軸同士のタッグ・シングルを多めに組むことにする。
ところが・・・いきなり台風で興行が中止になるアクシデントが発生。
今月も波乱の予感が・・・
「よっし!」
リング上で珍しく武藤がガッツポーズ。今日のメインイベントは結城&武藤VS伊達&南。武藤が『足4の字固め』で伊達からギブアップを奪い、勝利を収めている。これで先月の借りは返したという事だろうか。 そして、これが呼び水になったか、今月はフィニッシュがいつもと違う事が多くなった。
カオスと武藤のシングルは、例によってハイスパートレスリングを展開。
武藤のニールキックを避けて直後にカオスが極めたスコーピオン・デスロックで武藤がギブアップ。
確かにリング中央でカオスのあの巨体にガッチリとらわれてしまっては気持ちが絶たれても仕方ないが、ちょっとあっけなかったのも事実。武藤には気の緩みがあったと思う。伊達からギブアップを奪ったことで生まれた緩みをカオスに突かれた感じだ。さすがはWWCAのトップレスラーといったところか。
結城は同じサソリ固めの使い手として思うところがあったのだろう。伊達とのシングルでフィニッシュにサソリ固めを持ってきた。
今時の女子プロレスで、サソリ固めでフィニッシュを取ることなどはまずないのだが、時代に逆行するかのような結城とカオスのフィニッシュとなった。
そういえば結城は『スーパーフリーク』、『ランニングスリー』といったボム技も持っているけどあまり使わないな。
バックドロップやケンカキックといったわりと地味な技でのフィニッシュを好んでいるようだけど・・・
「意識はしていますよ。頭から落すのはあまり好きじゃないですから。」
と、結城は言うが・・・
「だったらあのバックドロップは止めてもらいたいわね。」
結城の言葉を聴いた南が苦笑いを浮かべる。
そりゃそうだ。結城のバックドロップは女子で角度が一番エグイ。
ボム技をあまり使わないのは、バックドロップで十分だから・・・だな。
☆結城&武藤 VS 伊達&吉田☆
ヘビー転向を表明した吉田がどこまで通用する注目の試合だったが、結論から言えば、まだまだだ。
ジュニアクラスでは脅威を誇ったパワーの持ち主だけど、ヘビーの選手は防御テクニックや受身、切り替えしの巧さなどあらゆる面でジュニアのそれとは別物だ。
巧みに分断され、伊達は武藤の足4の字固めに沈む。吉田はといえば、場外で結城のサソリ固めにつかまっていた。
この試合のフィニッシュは足4の字固めだったが、一番会場が盛り上がったのはフィニッシュ直前に放たれた、武藤の『シャイニングウイザード』
伊達のシャイニングフェニックスを両腕でブロックした直後に繰り出したそれは説得力十分で、決して付け焼刃ではない1流の閃光魔術だった。
武藤のスピードがあれば十分使えるとは思っていたが、ここまで鮮やかに使うとは・・・さすがは孤高の天才姫といったところか。
伊達は試合終了後に武藤にシャイニングフェニクスを叩き込む暴挙に出た。 さすがに気にいらなかったのだろうが・・・あまり褒められた行動ではないけど、伊達VS武藤に新たなテーマが加わったのは確かだ。これからのこの二人の対決に注目!
そういえばプロレス界であれだけ流行しているのに、NEW WINDにはシャイニング系の技の使い手は伊達しかいなかったな。
シャイニング=伊達というのがあったから誰も使わなかったけど(掟破りの・・・は除いてね)今後は増えてしまうのかな?
なるべく同じ技の使い手は増えないようにしているのだが・・・それでもドラゴンスリーパーのバリエーション違いが流行(主な使い手=みこと、氷室、ラッキー、カンナ)していたりするけどね。
その選手に合った技というのがあるから、多少の被りは仕方ないけど、同じ技ばかり見てもお客さんも飽きるよね。
ある団体で『全ての試合で裏拳が出た』と聞いた事あるけど、それもどうかと思う。
技は選手の個性を表現するものだし、なるべくなら違う技を使わせてあげたい。人数が増えてきただけに、上手く調整しないとな。
ダンディさんに色々考えてもらうかな。
それより来月は選手が揃うといいのだけど・・・
◇6年目9月
「うーん・・・」
最近すっかり定番になったマッチメイクでの私の悩みから今月もまたはじまる。
「やはり自団体のベルトに絞るべきですな。」と、ダンディさん。
「社長、僭越ながら私もそう思いますけれど。」
マッチメイクに加わっているわけではないが、秘書という事で私のそばに控えてくれている井上さんも同情交じりに呟く。
「うーん、そうしたいけれどね。宿舎の拡張計画もあるし、こないだ設備投資もしたし・・・そろそろ大日本テレビが契約を検討したいと言ってきてくれているし・・・」
今月はEWAからタッグ王座防衛指令がきたので武藤と結城が遠征する事に。
それにしても、こう毎月毎月遠征続きではマッチメイクが難しいね。しかも、永沢が回復途上に無理して練習して怪我が悪化。今月も欠場と来た。12人の所属選手が毎月2~4人欠け続けるのは困るね。WWCAから毎月のようにカオスとコーディが来日してくれるのと、『ミス・ブロッコリー』イザベラ・スミスのおかげで何とかなっているものの、このままでは厳しいよなあ。
「で、今月はどうするのかしら?カンナとみことがいるから防衛戦は組めるけど。」
「どう・・・するの?」
南と伊達がほぼ同時に私の顔を見る。もし今月防衛戦をやるとしたら、伊達&南か、ジューシーペアしか挑戦できるチームはない。
ジューシーペアでは勝てる見込みはかなり低いし、盛り上がりに欠けてしまうだろう。
「挑戦するか?」
私はちょっと卑怯だなと思いつつ、決定権を当事者でもある二人に委ねる。
「私は構わないわ。遥となら安心して試合が出来るから。」
「やってもいい・・・よ。」
なんだか消去法で決まってしまったような部分はあるけど、AACタッグへの挑戦決定。
その前哨戦として第1戦と第3戦で6人タッグを組んでみることにする。
ここで南か伊達が勝利を奪ってくれれば弾みはつくし、話題性もアップするだろう。
吉田とハイブリットに先輩への挑戦という試練を与え、伊達VSカンナにスポットを当てたカードをメインで構成し、カオスにもセミで頑張ってもらう。
『龍子 登竜門ロード』とタイトルはつけたものの実質先月と一緒。
違いはシングル5番勝負としてコーディとカオスを加えたくらいかな。
一ヶ月では劇的に変わることもなく、先月よりは善戦したもののあっさり全敗。
1期生+トップ外人二人ではまだまだ大きな差があると言う事なのだろうか。これからの吉田の奮起に期待する。
ハイブリットはWWCAの若手・中堅クラスを相手にシングル連戦。アリッサとは3戦して2勝1敗と、確実に成長しているようだ。
だけどこのクラスの外人選手には勝てるようにならないと、うちでは先輩の影にも触れられない。もっと頑張ってもらわないとね。
伊達&南、カンナ&みことの6人タッグ戦はお互いに譲らず1勝1敗。
第1戦で伊達がみことを沈めれば、第3戦ではカンナが南を撃沈。チームとしての実力はほぼ互角とみていいだろう。
☆AAC認定世界タッグ選手権☆
このメンバー構成なら、ハイスパートレスリングとは無縁。
じっくりとしたペースながら徐々に盛り上げ、相手の攻撃を受け切って反撃。
華麗な切り返しを見せるかと思えば、意地の張り手合戦なども入れた、魅せる熱い攻防が繰り広げられていく。
お互いの得意技を出し切ったあとは、チームとしての連携が勝負の分かれ目となった。
伊達を場外へ落しておいて、みことが南を草薙流竜巻兜落しでたたきつける。それを引き起こしたカンナがエクスプロイダーへと繋ぎ3カウント。50分を超える激闘に終止符を打った。
伊達&南はあと一歩まで追い詰めながらも現王者組のタッグチームとしての強さを思い知らされる形となってしまった。
「伊達! これが私の力だ!」
勝ち誇るカンナ。
「・・・シングル!」
伊達はシンプルにタイトル戦を要求する。
「異存はない。最終戦で受けてやる。・・・一つだけ言っておくが。お前に勝機はない!」ということで急遽決定!
最終戦はカンナVS伊達のWWCAヘビー戦。
☆WWCA認定世界ヘビー級選手権試合☆
勝機はないといったカンナだったが、勝機がなかったのはカンナの方だったか。
中盤までは完全にカンナのペースで、関節地獄にはまり伊達は腕と足に大ダメージを受け、確実にパフェーマンスが落ちた。
だが、ここからの伊達が凄かった。
バックドロップ2連発でカンナの動きを止め、流れを変えると、『暴れん坊なヒザ』が顎へ、腹部へハードヒット。
足殺しの効果がまったくなかったか・・・と感じるほど重い一撃だった。
いつもならここで『不死鳥の閃光』が走る所だが、伊達はあえてそれを使わない。
それどころかフェニックスシリーズを使うそぶりすら見せず、伊達はロープへと走る。
「勝機! 見逃すわけにはいかない!!」
ここで伊達が決めたのは体重の乗せ方気、合の込め方・・・どれをとっても見事な『極上のラリアート』だった。この一撃はカンナの意識・抵抗力を根こそぎ奪った。
『インパクトの瞬間、鳳凰が羽ばたいたのが見えた』とは、ガールズ・ゴングO坂記者の表現だ。
「(ラリアートの瞬間は)必死だったから・・・手応えがあったのは・・・覚えているけど。」
伊達が普段使うラリアートとは全てにおいて違う極上の一撃。
多分『会心の一撃』だったと思う。(カンナからすれば『痛恨の一撃』だっただろうけど。)
カンナは4度目の防衛に失敗。伊達は久しぶりのシングル王座獲得となる。
伊達とカンナの試合はいつも熱いな。この二人がうちの所属選手である事に感謝したい。
ありがとう二人とも、いい試合を見せてくれて。
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