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2024/05/02 00:01 |
NEW WINDの物語 第45話「神」

NEW WIND社長 風間新 手記より


 改訂版発行にあたり、編集部よりご挨拶。

 この作品は連載126回で終了した長編リプレイ『NEW WIND社長 風間新 手記』に大幅な加筆・修正を加えた作品です。
 以前の作品と比べると印象が変わる部分もあるかもしれませんが、より深みを増した風間新社長率いるNEW WINDの成長物語を楽しんでみてください。
(※今回はNEW WIND編のその59「神」に該当するお話です。)


◇6年目10月◇

「また…かよ。」
 6年目10月シリーズ『秋の風』 第1戦は高知大会、つまりは南姉妹の凱旋興行を予定していた。だが事故に巻き込まれてしまい興行は中止に。台風は自然災害だから仕方ないが、事故は人災だ。
 うーん、事故を起こした奴らに賠償請求したいよ…って前も同じ事をぼやいたな。事故をするのは仕方ないけど、人を巻き込まないところでやって欲しいものだよ。
 ともあれ大きなけが人もなかったのはよかったけどね。
「今のハイブリットが地元で試合したらみっともないから、今度までに恥ずかしくない試合が出来るようになれってことよ。きっと神様のお導きだわ」。
 南から神なんて言葉が出てくるとは驚きだ。
「生憎だけど、信仰心なんてものは持ってないわ。だけど、プロレスのリングには神がいる。それは間違いないわね。」
「南さんにしては珍しいお言葉ですね。確かにプロレスのリングは神の住まう神聖なもの。 だから皆リングへ入る前にはリングへ頭を下げるのです。リングの神へ『今日もよろしくお願いします。』これだけでよいのですよ。」神と聞いてみことが反応する。
「女子プロレスラーの事を格闘美神という人もいるからな。とするとみんなが女神か。」
 この私の言葉に皆がお互いの顔をチラチラ見ているのがわかる。
「武藤が女神なんてありえないな。こんなにツンツンしやがってよ。」
「マッキー先輩こそ。がさつな女神なんて聞いた事ありません。」
「女…神?」
「私もですかあ?」
「…永沢先輩が女神…それはどうかと。」
「龍だって人のこといえないじゃない。」
 移動のバスの中、皆が口々に言い合いになってしまった。私はこの様子を見て、それはファンの勝手な幻想にすぎないのだと思った。
「ふん、女神はいるかは知らないが、神はいる。」
 カンナが突然口を開いたので、皆が黙ってカンナの方を向いた。
「…私はリングには神がいるとは思っていないが、このマスクをつけている時は神を感じる。」
 カンナの口調は真面目で、冗談を言っている顔でもない。
「カンナさんはカンナ神威というリングネームですものね。神は意識していると以前から思っていましたけど。」
「そういやさ、カンナって謎だらけだよなあ。アタシはリングネームと北海道出身だって事しか知らないぜ。」
「ですね。私も以前から気になっていました。」
 ジューシーペアがここぞとばかりにカンナの顔を見る。
「カムイとはアイヌの言葉で『神』のこと。そして神威は『シンイ』とも読める。これは…神の威光という意味だ。私は神の力を得ている神の使いさ。だから本名や経歴などは必要ない。」
 カンナが皆の前でここまで喋るのは珍しい…というか初めてじゃないのか?
「だから強いんですね!」と、はしゃぐ永沢。
「永沢先輩、カンナ先輩が強いのはそうじゃないと思いますが。」
 後輩の吉田に突っ込まれる永沢って…
「いや永沢の言っていることは正しい。」
 このカンナの言葉に皆驚きの表情でカンナを見る。私はこの話の続きは知っているから顔色を変えたりはしないけどね。
「私は友人と二人で森にある洞窟に遊びに行っていた。」
「友達いるんだ…意外ね。」
「人のこといえないでしょ、めぐみは。」
「そこ、聞こえているぞ。」
カンナは低い声で言う。迫力あるなあ…
「ごめんなさい。」
「でだ、洞窟の奥に二人で入っていって、どれくらいたったのか私達は足を滑らせてしまって奥の方へと滑っていってしまったんだ。そのまま私達は気を失い、そこで夢を見た。」
「夢…?」
 伊達がようやく言葉を挟む。
「ああ、夢だ。これが奇妙な夢で、神を名乗る人物が現れて、『お前を待っていた』と言う。私がどんな言葉を返したのかは覚えていないが、私は神を名乗る人物に認められたらしい。
それだけは覚えている。そして私は神からあるものを授かったのだ。それは…」
 カンナはここで言葉を切って場の雰囲気を確かめる。皆初めてきくカンナの話に引き込まれている。
「それは…?」と聞き返したのは、武藤。
「この『マスク』だったのさ。目が覚めた時私はマスクウーマン『カンナ神威』に変身していた。一緒にいた友人も同じような夢を見たらしい、そして友人は…」
「…ライラ神威選手?」とラッキー。
「ご名答。今はフリーとして、インディ団体を主戦場に暴れているみたいだけどね。」
「…でもお二人はあまりにファイトスタイルが違いますが。」
みことが首をかしげる。
「簡単な事さ、ついた神が違う。私には『知性の神』が、ライラには『残虐の神』がついた。それだけの事さ。」
「なるほど。」
「だから私は神をマスクから感じる。」
 カンナはふっと笑った。
「カンナがそのマスクと出会ったのは運命だったのね。」
「…そうかもしれないな。もしかすると私達以外にも神のマスクに出会う奴もいるかもしれない…二人ほどね。」
「カンナはある種巫女なのかも知れませんね。」
「巫女?カンナ先輩が?!…怪しい新興宗教の教祖なら分かるけど。」
「めぐみ!」
「武藤…確か次の試合は私とだったわよね?せいぜい腕の心配でもしておくのね。」
カンナはゾクリとするような悪魔の微笑みで武藤を見る。
「負けません!」
こういうときは謝るのが筋なのだけどな。
「武藤らしいね。ま、いいけど私も巫女なんかは似合わないと思う。」
「は、はあ。」
「巫女とは神に仕えて神事を行い、また、神意をうかがって神託を告げる者という意味なんです。私は前半の役目はできますが、後半については、まだまだ未熟者です。カンナは前半については無理ですが、後半は出来ているのかもしれませんね。」
 みことはちょっとだけ“無理”という言葉を強調する。巫女としてのプライド…いや誇りという奴だろうか。
「ホワイトスノーは『パーフェクト巫女S』でもあったわけね。」
「私が巫女ならライラも巫女になるわけだけど?」
「うっ…!それは認めたくないです。」
 このみことの反応にバスの中は笑いに包まれた。

☆EWA認定世界ヘビー級選手権試合☆

 王者結城に元王者南が挑むという図式だったのだが、二人の実力差が予想以上に開いていた。以前は南がペースを握っていたのだが、今では完璧に結城が試合を支配していた。南も関節技で抵抗するのだが、結城も関節は巧いほうだし、ポイントをずらされてしまい極め切れない。そうこうしているうちに結城のラッシュに捕まってしまった。
 結城のニ段蹴り&裏投げからのフォールは返した南だったが、2発目の二段蹴りは返せなかった。結城は初防衛に成功する。南にはちょっと秋風が染みる結果かもしれない。正直ここまで実力差があるとは思わなかったよ…
「仕方ないわ。結城はまだ伸びるのに私は現状維持が精一杯なのだから。」 
 南は笑うが、瞳は悔しさと寂しさを映しているのに私は気づいた。もう10月も終わりだ。風が冷たく変わってきている。
(…もう冬の足音が聞こえる季節になるのか。)
 それは南利美が1流レスラーでいられる時間が少なくなった事を意味する。冷たくなった風が暖かくなり、緑の風を感じる頃になると、1流レスラー南利美はいなくなってしまうのだから…私は色々な思いを胸に「南…」と声をかけた。
NEW WINDはまもなく6度目の冬を迎える。


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2009/03/18 18:00 | Comments(0) | NEW WIND 改訂版

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