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2024/04/25 19:09 |
NEW WINDの物語 第56話「激震走る。」  

NEW WIND社長 風間新 手記より


 改訂版発行にあたり、編集部よりご挨拶。

 この作品は連載126回で終了した長編リプレイ『NEW WIND社長 風間新 手記』に大幅な加筆・修正を加えた作品です。
 以前の作品と比べると印象が変わる部分もあるかもしれませんが、より深みを増した風間新社長率いるNEW WINDの成長物語を楽しんでみてください。
(※今回はNEW WIND編のその71「激震走る~揺らぐ風間新」に該当するお話です。)


 うーん・・・遠くから好きな歌手の歌声が聞こえる。ああ、私の携帯の着うたか・・・
 だれだよ、折角の休みだってのに、朝っぱらから携帯鳴らすなよな。前日私が床についたのは午前2時。今は何時だろう…私は寝ぼけ眼で周囲を確認した。どうやら辺りの様子からするとまだ朝の八時といった所だろうか。
「もう少し寝かせろよ・・・」
 私は携帯を放りなげると布団をかぶる。着うたは2番が終わり、最後のサビに入っていた。うーん…しつこいって…
「くそっ…仕方ねえなあ…」
 私は右手で頭をわしゃわしゃと乱暴にマッサージして頭を起こすと携帯を手に取った。
「はい、風間・・・」
「社長!とっとと出なさいよ!」といきなり南に怒鳴られた。
「な、なんだよ、朝っぱらからでかい声だして・・・」
「た、大変なんだから!!」「は、はあ??何が大変なんだ?」
 南の取り乱し方からすればこれは大事なんだろうけど・・・
「いいから、ともかくとっとと事務所にきなさい!いいわね!15分で来なさいよ!」
 ガチャン!! ツーツー・・・
「お、おい南!ってもう切れているし。なんなんだ一体。」
ともかく私は急がねばならない事だけはわかったので、慌てて用意をして出かけていく。
 玄関から飛び出し車を止めてある駐車場へと向かう私の口には食パン。よくアニメや漫画でみかける遅刻しそうな人の絵になっているな。まさか自分がやる事になるとは・・・
 私は車を事務所へと走らせながら食パンを食べ終えた。しばらく前までは事務所のあるビルに住んでいたのだが、年頃の女性達と同じ建物にいる不便さを感じて私はちょっと離れたところに部屋を借りていたのだ。
「こんな風に呼び出されるなら・・・引っ越さなければよかったよ。」
 私が事務所のある建物の前につくと、パトカーが数台止まっている。
「な、なんだ…?救急車がいないところを見ると、怪我人がいるわけではないようだけど・・・」
 私はちゃんと駐車場に車を止めると事務所へと急ぐ。
「あ、社長、おはようございます。」
 秘書の井上さんがすでに来ていた。いつもと変わらぬ声だったのだが、彼女の表情は冴えない。
「おはよう井上さん、南から連絡を貰ったのだが、一体何があった?」
「聞いてないのですか?・・・どおりで平気でいられると。」
「?」
「社長、驚かないでくださいよ。」
 井上さんが真顔になる。
「な、なんだよ?」
「実は・・・」
「実は?」
 井上さんは間をとる。
「空き巣に入られました!!」
「な、なんだとおおお!!」
 これほどまでに衝撃を受けた事はかつてない。
「そ、それで被害は?」
「は、はいタイミングが悪い事に現金で支払いをする業者さんへの対応の為、かなりの金額を事務所の金庫に用意してありましたので、総資金の50%近い損害です。」
「な・・・なんてこった。総資金の50%がたったの3分で全滅とは・・・」
「あ、あの?3分ってどうしてわかるんですか?それに50%ですから半壊だと思いますけど?」
 このネタは、井上さんには理解してもらえなかったらしい。ベルトの新設、宿舎の増築、道場の強化などこれからも資金がかかるというのにここでこういう事態になるとは・・・参ったな・・・
「あ、あの私のお給料大丈夫ですよね?」
井上さんの声が遠くから聞こえる。まったく、自分のお給料の心配かよ(苦笑)
「大丈夫」と言った記憶があるような・・・ないような?

 その後、前の警備会社との契約は打ち切り、新しい警備会社と契約。ついでに窓ガラスを全て防犯ガラスに変えてみた。資金はかなりかかったものの、選手達の安全も考えるとこうせざるを得ない。
「参ったなあ・・・宿舎を増築する予定だったのに・・・」
 私は頭を抱えていた。8期生は2人採用予定だったので、それに向けて宿舎の増築を予定していたのだが・・・このまま増築できなくなると、空き部屋は一部屋しかなくなる。団体の未来を考えれば、8期生をどうしても二人はとりたいのだが。私は計画が揺らぐのを感じていた。
「人生もプロレスも会社経営も・・・予定どおりには行かないか。」
「予定は未定、一寸先は闇。」
「そしてこれもまた運命・・・ってか氷室?」
 ドアのところから私を見ている氷室に声をかける。
「はい。運命ならば受け入れるしかないかなって。」
「で、用件は?」
「うん、社長・・・私達に出来ることがあったら言って下さい。私達だって貯金はしていますから。」
「・・・この風間新、大事な選手の貯金に手をつけるほど落ちぶれてはいない。」
 私は笑う。
「でも、ありがとうな。」
「は、はい。」
「うちは皆の頑張りのおかげで万年黒字会社だから、この程度のダメージなんて今年度中にカバーできるよ。計画が狂うのは確かだけどね。」
「なんなら、アタシたちが芸能活動やって稼いでもいいんだぜ?」
「そうそう。協力するわよ。」
 ジューシーペア以下所属選手が全員集まってきていた。
「はは、ありがとう。でもジューシーペアはダメだなあ。」
「な、なんでだよ!」
「・・・CD売れなかったからに決まっているのに。」
 はい武藤ちゃん正解ね。
「ぐっ・・・」
「私・・・芸能活動してもいい。」と伊達。
「えー舞もしたい~~!!」
「私もしてもいいですよ。協力できればと。」
 吉田も名乗りを上げる。
「あ、私も!」
 みんなありがとう。ちなみにオファーは来ているのだけど、今月は南姉妹のIWWF遠征があるし、伊達とみことがケガで欠場予定。さすがにこれ以上欠員を出すわけにはいかないから、芸能活動は無理だな。
 それに我々の本分はプロレスだから、残りのメンバーでいい試合をみせる事が大事だ。だけど、オファーの来ている芸能活動は、ある程度は受けないと厳しいのは確かだなあ・・・


 その本分であるプロレスでは吉田が結果を出してくれた。
 結城と武藤には完敗を喫したものの、IWWFのエース、モーガンからピンを奪ってくれたのだ。吉田の実力は確実についてきており、トップ戦線へと食い込むのは時間の問題となってきたようだ。今回吉田がフィニッシュに用いたのは、プラズマサンダーエクスプレスというコンビネーション技。
 吉田のフィニッシュホールドである『プラズマサンダースライド(ハイアングル・プラズマサンダーボム)』を投げっ放しで決め、ダウンしている相手にコーナーから、ダイビング・ボディプレスで飛び、圧殺するというものだ。元々ダンディさんが現役時代に使っていた『ダンディエクスプレス』(スイングDDTからダイビング・セントーン)のコンビネーションを応用し、パワー型の吉田用にカスタマイズしたものだ。
「モーガンに勝った。でも、まだまだだ。」
 吉田は拳をギュッと握った。
 
 今回のツアーは、全会場で超満員札止めを記録。これだけ欠場者が多いのに会場に足を運んでくれるお客様に感謝しなければね。ありがたいことだ。そして、海外遠征での選手欠場は興行的に痛いが、選手たちは海外での経験を糧に成長してくれている。
 メリット、デメリットともにあるのだが、どちらにせよ管理するベルトの数を減らさないといけないな。そのためにも団体の象徴となるベルトを作りたかったのに・・・ああ空き巣が痛い。私の計画はまだ揺らいだままだった。とにかくファンの支持あってのプロレスなのだから、基本的に欠場はさせたくないのだけど。選手、お金、ファン・・・どれが一番大事なものなのか・・・とても難しいと思う。どれを優先させるにしても一番大事なものが一番遠くへ行きそうだ。
 お金を優先させればファンを裏切る事になるし、選手も裏切る事になってしまう。でもお金がなければ、よいものをお客さんに提供できなくなるし、選手も雇えない。だからといって選手がいなければお金にもならないし、ファンもいなくなる。結局トライアングルなのかな。選手とお金とファン・・・どれが欠けてもNEW WINDは成り立たないのだから。


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2009/04/17 18:00 | Comments(0) | NEW WIND 改訂版

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