村上千春&村上千秋…通称”村上姉妹”は、双子の女子レスラーである。
しかも単なる双子のレスラーではなく、双子のヒールというかなり珍しい存在であり、デビュー当初からあちこちの団体にゲストで呼ばれていた。
某老舗団体でデビューしたのだが、この各団体へのゲスト参戦がきっかけでいつしかフリーのような存在になり、いつの間にかフリーで活躍するようになっていた。
現在二人は個人プロダクション”チハ&チア”を設立し、各地の団体に精力的に参戦していた。
しかもただ参戦するだけではないのがこの二人のポイントだ。
反則を巧みに利用し、各団体のエースを沈め、それぞれの団体が誇るタッグ王座への挑戦権を得るのは常套手段。
そして、この姉妹は参戦したすべての団体でタッグ王座を獲得するという輝かしい実績を残している。
使う団体側からすればかなりリスキーな二人ではあるが、会場人気が高い二人だけに呼ぶことによる団体への収益還元は見逃せなかった。
それに呼ぶだけで遺恨勃発確定というタッグなために、ストーリー作りも容易であり、団体側へのメリットは大きい。
二人はフリーヒール道を楽しんでいる。
そんな二人のある日の”チハ&チア”オフィス兼自宅。
「あらかた片づけちまったな、姉ちゃん。」
ソファに寝転がりながら、千秋は地図を見ていた。
この地図は各団体の本拠地を書き込んである、千秋お手製の日本地図であり、タッグ王座を奪った団体の本拠には、”チハ&チア”オリジナルのフラッグを立ててある。
「ほいっと。」
東京・上野に本拠を構える”新上野女子”のマークに旗を突き立てる千秋。彼女はなによりもこの旗を立てる瞬間がベルト奪取よりも楽しみだという。
そんな妹の様子を見ながら姉・千春もなんだか楽しい気分になっていた。
「そうだな。もうほとんど残っていないんじゃねえか?」
そういって千春は地図を覗き込んだ。”新女”・”妖精の庭園”・”新上野女子”・”オリエンタル連邦”・”GEAR JAPAN”・”ニューセンチュリー”・”ら・ぴゅせる”などなど…そうそうたる団体のロゴマークに旗が突き刺さっている。
「北から南まであらかた埋まったな。」
満足そうに笑みを浮かべる千春。千秋はほとんど旗で埋まった地図をじっと見やった。
「いや、ねえちゃん…あと一つあるぜ。」
千秋は嬉しそうにその団体のロゴマークをトントンと指し示す。
「まだあるのかよ。で、どこの団体だよ?」
「ここだよ、ここ。」
千秋の人差し指は九州・福岡を指し示していた。
「福岡?…天ジンならすでに制圧したろ?」
「ば~か。こっちだよこっち。」
そこにはSKY BLUEのシンボルカラーにNWの文字が。
「そういえばすっかり忘れていたぜ。スカイブルーのシンボルカラー…NEW WINDか。ふふっ…お次はここだな。」
「NEW WINDか。やってやろうぜ、姉ちゃん。」
二人が定めた新たな標的…それは……ハイレベル団体を自称するNEW WINDのリングだった。
「ところで千秋、たしか…ここは風間とかいう社長が出しゃばってくる団体だったよな?」
「そうだよ。姉ちゃん。風間は女子プロレス界でもっとも顔と名前が売れている社長の一人だな。」
パラパラと資料をめくる千秋。フリー選手にとって情報は大事なため、二人はヒールという立場でありながらも各地の団体の情報はマメに収集している。
「くくっ…その風間社長とやらが大事にしているスカイブルーのリング…鮮血で真っ赤に染めてやるぜ。」
こうして村上姉妹はスカイブルーのリングへの進行作戦を練り始めたのである。
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