風間社長の絶叫に場内がどっと沸いた。さすがはエンターテイナーの風間社長である。観客が盛り上がるポイントを見事に抑えているといえるだろう。
「…というわけで、少々やり返させてもらおうかなっ!」
風間社長はスーツの上着をリングの外に放り投げてファイティングポーズをとった。スーツはリングアナがキチンとキャッチしている。
風間の構えはサマになっており、再会試合で見せた南の打撃用フォームにそっくりであった。
「おおおおおっ!」
観客は思わぬ展開にさらにどよめく。
「調子に乗んなっ!」
カッとなった千秋が考えなしに殴りかかった。
「死ねええええええっ!」
強烈なパンチがうなりをあげて風間社長に放たれたが、その拳は風間社長には届かなかった。
「オラアアアアアアアッ!!」
なんと風間社長はカウンターで、千秋の顔面に強烈なケンカキックを叩きこんだ。
「あぐあっ…そんな馬鹿な…」
ガクンと崩れ落ちる千秋。
風間社長はすでに40代半ばのはずだが、ケンカキックの威力そしてピンと足が伸びたフォームともに素人とは思えない。
「いいぞ~~風間~~~!」
「しゃちょ~~~~!!」
場内はまさかまさかの光景にやんややんやの大歓声があがる。
「このクソ親父!」
しかし相手は一人ではない。何時の間にか背後にまわり込んだ千春が裏投げで風間社長を放り投げようとする。
「あああああああっ!」
悲鳴があがる場内。いくらなんでも素人の風間社長にそんな技を…
「死ねええええっ!」
だが千春は本当に持ち上げた。
「はっ!!」
だがその時掛け声とともに何者かがスワンダイブニールキックで飛びこみ千春の後頭部を蹴り飛ばした。
「おぐっ…」
「りゃっ!」
バランスを崩した千春のクラッチを切り、風間社長は華麗にフロントスープレックスで千春を投げ飛ばした。
「おおおおおっ!」
「…風間社長少々やりすぎですぞ。ところで、大丈夫ですかな?」
「サンキュです、ダンディさん。」
風間社長を救出に現われたのは、NEW WIND総合コーチにして現場監督のダンディ須永であった。
「くそっ…このクソ親父どもがあっ!」
「てんめええっ!」
突っかかろうとする二人であったが、ダンディ須永の醸し出す1流の空気を感じてとどまった。
ダンディ須永は既に還暦を迎えているが、鍛えあげられた肉体には余分な肉は一切ついておらず、未だ威圧感がある。
「オイ、素人姉妹!…確か村上千春と千秋だったよな!」
風間社長はマイクを再び手に持った。
「お前らの次のシリーズへの参戦を特別に認めてやろう。だけど覚悟はしておけよ。お前ら素人姉妹が今まで参戦していたようなローカル団体とNEW WINDではレベルが違うんだからなっ!」
風間社長は腹をさすりながら二人の参戦を認めたのだった。
「ケッ、覚悟をしておくのはお前らの方だぜ!」
「次のシリーズ、首を洗って待っておけよ。」
村上姉妹は意図した形とは違うものの、NEW WINDへの参戦を勝ち取り悠然と引き上げていった。
PR